第92話 開戦~立て直し
ちょっと調理師免許の試験を受けに行っていたので、間が空いてしまいました、すみません。
さあ、初戦で手痛い敗戦を喫した魔王軍。
その陣営の中は、どんな感じなのか?
魔王様にはすべてお見通しだった。
いや、もしかしたら、軍師サムかもしれない。
しかし、良く考えてみれば、彼の思いや行動パターンは、すべて筒抜けだった。
そして、それは味方のみならず、敵軍にも完全に把握されていたことを意味した。
「やはりワシは、一介の軍人。
小競り合いでは無類の強さを発揮する自信はあるが、大きな戦では、なんと無力なことか。」
ロクローマルは柄にもなく凹んでいた。
そして、魔王アサダの命に従い、大人しく退却していた。
新しく設営した本陣は、緊張により静まり返っていた。
そこに、魔王アサダが現れた。
「皆さん、たいへんご苦労様でした。
不幸にして戦場に散った同志については、残念としか言いようがありません。
しかし、皆さんは、ここにこうやった生き残ることが出来たのです。
今は、我が軍の不幸を嘆くよりも、命が助かったことに感謝して、体を休めることに専念してください。
必ずや、皆さんのお力をお借りしなければならない局面が訪れます。
その時に備えて、鋭気を養っておいてください。
まだまだ戦いは始まったばかりです。
これから全軍で盛り上げて行きましょう!」
魔王アサダの励ましを聞いた兵たちは、感動で色めきだった。
「兵は己を知る者のために死す。」
中国・春秋時代の武将「管仲」の言葉とされる名言だ。
直訳すると、「兵士は、自分の価値を理解してくれる者のために命を捧げる」ということだ。
この言葉は、単なる忠誠心ではない。「理解されることへの報い」を示しているのだ。
つまり、兵士は命令に従うだけではなく、自分の存在や努力を認めてくれる主君や上官のためにこそ、命を懸けるという意味だ。
現代社会においても同じことが言える。
人は何のために働くのか?
もちろん、生活のためということもあるだろう。
職場とは、自己実現の場であると言われることも多い。
しかし、生活が満たされ、既に一定の社会的地位も得た者にとって、それ以上働く意味は何なのか?
これは難しいテーマだ。
良く、人は感情の生き物だと言われる。
個人の行動を分析すると、非合理的な行動をとる人がいかに多いことかわかるだろう。
しかしながら、多様性が進む世の中において、職場や戦場で働く皆の士気を一斉に高めることが、いかに難しくなってきているか、実感している管理職が多いはずだ。
昔は違った。
良し悪しは別として、新たに会社という村社会に入った者には、村の掟に盲目に従うことが求められ、かつその掟を意味なく押し付けることが正義と言われていた。
昔の日本の新入社員の一番大事な仕事は、宴会芸であり、酒席での上司への社内接待だった。
たまたまセッティングした飲み屋が、グループ会社のビールの銘柄を置いて無いと言うだけで、無能とのレッテルを貼られて出世出来なくなった人もいた。
支店長の両脇は、新人の綺麗どころの指定席とされ、セクハラはユーモアと言われた。
それでも、女性陣は寿退社を夢見て、男性陣はひたすらに出世街道を突き進んだ。
そんな時代が、日本にもあったのだが、ある意味、組織の管理という点では合理的だったのだろう。
トップの意向は絶対であり、それに従うことが当然。
結果的に統率の取れた高効率の組織が出来上がっていた。
もちろん、個人の尊厳や自主性なんてものは、無駄とされた。
そして、そこで蛮勇を発揮する者は、一生冷や飯を食うことになる。
軍隊も同様だ。
と言うか、戦後日本の奇跡的な発展は、軍隊式組織を民間会社に持ち込んだことによる成果だとも言える。
エコノミックアニマルと揶揄され、長時間労働が美徳とされた時代が、戦後日本の発展を支えた。
まあ、そんなことはここで考える話では無いかもしれない。
そしてようやく、魔王軍の本陣に軍師サムと疾風のハチオが到着した。
「もう!ロクローマル!
何勝手なことやってくれちゃってるのよ!
あなたは私の後から来て、中部人民共和国の主要港湾都市ションパイを、内側から占拠した私をサポートするはずだったでしょ!
ションパイは彼らの物流の心臓部よ!ここを落とせば、戦局が有利になるっていう話だったじゃない!
せっかくのあなたの出番をお膳立てしたのに、肝心のあなたが待てど暮らせど来ないじゃない!
さすがの私も焦ったわよ!」
ハチオから攻められ、ロクローマルはぐうの音も出なかった。
少し目を逸らし、ばつが悪そうに返した。
「すまぬ。
まどろっこしい作戦ではなく、正面突破で簡単に奴らを撃破出来ると思ったのだ。
まさか奴らがあんな卑怯な罠を張っているとは…。
いや、ホント面目ない。」
素直に謝るロクローマルを前に、ハチオも気が抜けたようで、肩をすくめた。
「まあいいわ。
あなたの代わりに軍師サムが来てくれたから、当初の目的は果たせた訳だし、結局のところ、損耗したのはあなたの兵だけだしね。
でもね。
今回はたまたまサムの機転のお陰で傷は浅かったけど、次は無いと思ってね。
魔王様だって、そう何度もあなたの独断専行を許したりしないわ。」
急に話を振られた魔王アサダは、少し焦りながら言った。
「そうですね。
次に勝手な真似をした場合には、さすがに見過ごす訳にはいきませんよ。
心してくださいね。」
ロクローマルは、深く頭を下げて言った。
「面目次第もございません。
二度とこのようなことは致しませんので、何卒ご容赦を。」
そこに、今まで静観していた軍師サムが口をはさんだ。
「まあ、そのへんにしておいてあげてください。
結果的に、3万の兵を失いましたが、当初の予定通りションパイは陥落し、ジャポネ王国にプレッシャーをかけることは出来ました。
戦局を立て直して、明日以降の戦いに備えましょう。」
魔王アサダは、優しく微笑んで言った。
「そうですね。
しっかり前を向いて、この戦いに勝利しましょう。」
そして、新たな戦いの時を翌日に控え、夜は更けていったのだった。
さあ、魔王軍の反撃開始です!
乞うご期待!
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