第71話 魔境攻略計画~その娘、名は神楽耶
神楽耶登場です!
そして、変人アルノルトも参上です!
「わらわは神楽耶。
この、第三魔境を統べる者なり。
まあでも、此度はお忍び故、苦しゅうない。
表を上げい。」
いや、誰も土下座なんかしてないよ。
俺は、神楽耶と名乗った少女に向かって言った。
「って言うか、お前は誰だ?
なぜ、俺が焼いた肉を食ってる?
ってか、なんで名前が漢字なんだ?」
それを聞いた神楽耶は、相変わらずのドヤ顔で答えた。
「わらわを知らぬとでも?
おぬし、それでもこの世界の住人かえ?
そして、何故わらわの名前が、漢字であるかと?
漢字というのは良くわからんが、これはわらわの父上がつけてくれた名前じゃ。
なにやら、月に関係があるらしいが、わらわには分からぬ。
ただ、わらわの父上は、異世界からの転生者である。
つまりは勇者である。
そしてその血を引くわらわもまた、勇者の末裔なのである。
どうだ、参ったか?」
「参ったかってお前、だから、なに勝手に参上して、勝手に俺が焼いた肉食ってえばってるんだよ!」
俺は、神楽耶のドヤ顔にツッコミを入れながら、焼き網の上でじゅうじゅうと音を立てるワイバーン肉に視線を戻した。
「ふむ。口は悪いが、腕は確かじゃな。 この肉の焼き加減、香り、そしてこの絶妙な塩加減……まさに神業。 わらわの舌が震えておる。」
「お前の舌が震えてるのは、ただの食いしん坊の反応だろうが。」
「うむ、そうかもしれぬ。 だが、食に対する情熱は、勇者の血の証でもあるのじゃ。 父上も、異世界転生直後にまず“ラーメン屋”を開いたと聞いておる。」
「いや、勇者の初手がラーメン屋ってどういうことだよ!」
「しかも、魔王軍の幹部が常連だったらしい。 “チャーシュー増し増し”を頼むたびに、魔力が漏れて店が崩壊しかけたそうじゃ。」
「それ、営業妨害だろ……」
「ともかく、わらわはその血を継ぐ者。 料理の腕を見込んで、そなたを我が旅団に迎え入れようぞ。 名誉ある“食の軍師”としてな!」
「いや、肩書きが謎すぎるだろ! てか、旅団って何だよ、どこにあるんだよ!」
「第三魔境の奥深く、月光の泉のほとりに、わらわの拠点がある。 名を“月影の庵”という。 そこでは、魔境の食材を使った究極の料理を日々研究しておるのじゃ。」
「……なんか、ちょっと面白そうだなそれ。」
「ふふ、興味が湧いたか? ならば、次なる食材は“魔獣グリモアの舌”じゃ。 わらわが捕らえておいたゆえ、そなたの手で調理してみせよ。」
「いや、グリモアって……あれ、毒持ってるやつじゃなかったか?」
「うむ。だからこそ、料理人の腕が試されるのじゃ。 命懸けの調理、それこそが真の料理道!」
「いや、バーベキューに命かけてどうするんだよ!
バカなの?アホの子なの?」
ぐぬぬ!と悔しそうな顔をする神楽耶の脇の草むらが、ガサガサと音をたてたと思ったら、また変な奴が顔を出した。
突然、焚き火の向こうから、煙をかき分けるようにして現れたのは、ボサボサ頭にゴーグルをかけた男だった。
ローブの裾は焦げ、腰には試験管がジャラジャラとぶら下がっている。
「ふむ……ワイバーン肉に重曹を使うとは、なかなかの発想だな。だが、そこに“酵素抽出液”を加えれば、さらに柔らかくなる可能性がある。実に興味深い。」
「誰だお前!てか、どこから湧いた!」
「わたしはアルノルト=シュタイン。錬金術師だ。この魔境の食材を研究していてな。君の調理法には、学術的価値があると判断した。」
「いや、学術的価値って……バーベキューだぞ?」
「バーベキューこそ、火と肉と化学の融合だ。君の“メイラード反応”の説明は、実に的確だった。だが、低温調理においては、肉のタンパク質変性温度をもう少し厳密に管理すべきだ。」
「うんちくバトル始まった……」
神楽耶が肉を頬張りながら、呆れたように言った。
「この者、お主に負けず劣らずうんちくが長いぞ。しかも、何やら難しい単語ばかりじゃ。」
「ふふ、神楽耶殿。難解な言葉こそ、知の証。ちなみに、わたしの研究では、ワイバーンの筋肉組成は通常のドラゴン種よりもコラーゲン含有量が高く──」
「もういい!肉が冷める!
ってか、俺のこだわりをうんちくって言うな!」
ユージが叫ぶと、アルノルトは試験管をひとつ取り出して言った。
「では、これを使ってみるといい。魔境産パパイヤから抽出した酵素液だ。肉に塗布して10分置けば、繊維が自然に分解される。副作用は……まあ、たぶん無い。」
「たぶんって言うなし!
ここにも残念な奴がいたよ!」
しょうもない駆け引きをしている俺たちにたまりかねず、ナーチャンが口を挟んで来た。
「それで、バーベキューにつられて姿を現したのは良いのですが、あなた方はそれ以前から、私たちの様子を伺っていましたよね?
一体、何が目的ですか?
ご返答次第では、私たちも考えがあります。」
さすがナーチャン!
冷静で格好いい!
これで暴力体質じゃなかったら、惚れてまうがな!
いてっ!
久しぶりのローキックに、受け身を取れなかった俺は、足を抱えて悶絶した。
「リーダー、ふざけてる場合ではありません!
今は、この方々が敵か味方か、が重要なのです!」
「いや、ふざけてるのはお前の方だろ?
なんでこのタイミングでローキック?
ちょっと訳わかんないんですけど?!」
「説明が必要ですか?」
冷たいナーチャンのジト目に震え上がった俺は、とりあえず謝ることにした。
「わかった!
わかったから、今は暴力はやめてくれ!」
そして、神楽耶とアルノルトに向かって言った。
「で、お前らは味方なのか?それとも敵なのか?
それから、お前の旅団ってのは、どういう組織なんだ?
まさか、珍しいもの探して食ってるだけの、ただの食いしん坊軍団って訳じゃ無いんだろ?
ちょっと、そこんとこ詳しく!」
「うむ。
話せば長くなるのじゃが、良いであろう。
では、そこな女、料理と酒を持て。
ユージよ、ちびちびやりながら、語り合おうぞ!」
使用人扱いされたナーチャンは、少し納得行かない表情をするも、そこはプロだ。
その場に合った酒と肴を手際良く用意した。
そして、両首脳による会談が始まったのだった。
前回もお伝えしましたが、Amazon kindleさんで、「産廃屋のおっさん」の第一巻を発売しました!!
そして、早速ご購入して頂きました!
ありがとうございます!!
皆さんも、お手に取って頂けると嬉しいです(^^)
よろしくお願いします!
https://amzn.asia/d/5IOrMWx




