第38話 ポスト資本主義~課題はまだまだ山積みです
今日から新章です!
まずは地震対応の総括と、次のタスクに向けた検討です!
いつも通り、ナーチャンが全員の前で会議を進行していた。
「魔導発電所のメルトダウンを食い止めたことにより、地震の被害を最小限に抑え込むことが出来ました。
我々タスクフォースの活躍も、マスコミや個人のSNSなど、各所で好意的に取り上げられています。
この映像をご覧ください。我々が災害ゴミの仮置き場で作業をしている姿がしっかり映っています。」
正面の大スクリーンに、仮置き場での作業の様子を報道したニュース映像が流された。
イケメンのリシュンが、爽やかな汗を額に浮かべながら、地域住民と一緒に流された箪笥を運んでいる姿がアップで映され、次にナーチャンとイコタンが炊き出しをして、皆におにぎりを手渡している姿。皆、一瞬でも辛いことを忘れているように、いい笑顔でおにぎりを頬張っている。その隣には、子供たちに囲まれているタケシト。彼は子供たちの人気者だ。そして、画面の奥の方に、俺の後ろ姿が小さく映っていた。
「なんでやねん!なんで俺だけこんなちっちゃいの!しかも後ろ向き!思ってたのとちがう!
おい、ナーチャン!今からテレビ局にクレーム入れてやる!車用意して一緒に来い!」
ナーチャンは、呆れながら言う。
「バカなんですか?そんなの取り合ってくれる訳ないじゃないですか。無理です。
しかも、ユージさんの映像は、なんと言いますか、映えない?じゃないですか。
やっぱり無理ですよ、あはは。」
「チキショー!俺が一番活躍したのに、みんなバカにしやがってぇ!」
「そんな些細なことはどうでも良いので、レポートを続けます。」
些細なことね。あーそーですか。フンだ!次から働かないぞ。
「このように、災害ゴミ問題は収束に向かっています。
初動も良かったのですが、被災地の近隣に、完成間近の管理型最終処分場があったことも幸いしました。」
管理型最終処分場とは、中間処理後の産業廃棄物を埋め立てる施設である。
最終処分場にも種類があり、大別して安定型、管理型、遮断型の3つに分けられる。
ただし、PCBなどの危険な有害物を処理する遮断型は、高コストなこともあり、国内に数えるほどしか建設されていない。
安定型は、安定5品目と呼ばれる品目、廃プラスチック、ゴムくず、金属くず、ガラスコンクリート陶器くず、がれき類の5つに限って埋め立てることができる。
この5品目は、有害物などが水で流れて行かないため、建設コストが比較的安く、建設後の運用も容易だ。
そして、安定5品目以外を埋め立てるのが管理型だが、安定5品目を入れてはいけない訳ではなく、比較的オールマイティだ。
ただし、容量に限りがあり、かつ処分料が1トンいくらといった従量料金体系であることが多いため、比重の大きい廃棄物を埋め立てることが多い。
災害ゴミのうち、燃えるものは焼却炉で燃やす。そうすると、容積がほぼ10分の1に減容し、比重の大きい燃え殻となるので、それを管理型で埋め立てるのだ。
それ以外のゴミは、リサイクルできるものはリサイクルへ、そうでないものは管理型に直接埋め立て等で処理する。
「結果的に、非常にスムーズに大量の災害ゴミの処理を行うことが出来たという訳です。
そして、我々タスクフォースの実力も、世間に知れ渡り、ワタクシも道でサインを求められるようになるなど、ホント迷惑なことも起きました、ふふっ」
おい!ぜんぜん迷惑がってないじゃねーか!むしろ喜んでるじゃねーか!
言ってることと表情がぜんぜん違うんですけど!
「また、リシュンさんが開発した魔導ゴミ発電施設も、順調に稼働しており、災害廃棄物の処理と発電の一挙両得を実現しております。
また、魔法使いの大量投入による災害発生時の初動対応や早期復興策も、今回の地震への対応で、その有効性が立証できました。こちらも、素晴らしい成果と言えます。
このままのペースで行くと、3か月以内には、街は元通り、いえ、従来以上に整然とした街並みが復活することでしょう。
皆さま、大変お疲れ様でした。」
いやまあ、俺たちの活躍でこの国が救われたってのは、いいことだな。
「しかしながら、この件は現状復帰したに過ぎず、我が国を取り巻く環境の厳しさは、まだまだ課題だらけです。
つきましては、ユージさまの往生際が悪いために実行に移せなかった施策の代替案の検討を行っていかなければなりません。」
それ、俺のせいなの?俺が悪いの?俺がツルツルになるのを嫌がっちゃダメなの?
「いえ、ダメとは言っていません。往生際が悪いと申し上げているだけです。」
「いや、ダメって言ってるよね?俺のせいだって言ってるよね?」
必死で言う俺に、ナーチャンは諦め顔で言った。
「ですので、代替策を検討しましょう。
皆さん、何かアイデアはありますか?」
誰も発言しないので、空気が思い。
その雰囲気に耐え切れず、俺はいつもの通り軽口を叩いた。
「そもそもさ、労働力が足りないって言うか、人口に対して働いてる人が少ないのが問題なんだよね?」
それを聞いたリシュンが言った。
「まあ、その通りだな。平均寿命が伸びているから、リタイア後の人生が長くなって年金も嵩む。一方で現役が少ない。この構造を変えないと、ちょっとぐらい生産性を上げても、抜本的な改善策とはならないな。
ちなみに、昭和30年代の日本人男性の平均寿命は、63.6歳、一般的な定年年齢は、55歳だったから、老後は10年も無かったんだ。
ちなみに日曜夕方の国民的大家族ファミリー漫画の設定では、おじいちゃんの波平さんが54歳だ。
これは、定年直前ということらしいが、最近の54歳は、もっと若い人が多いな。
話を戻すと、最近の日本人男性の平均寿命は81.5歳、定年はまだまだ60歳が多い。だから老後は20年以上ある。
もし、合計特殊出生率が、人口を維持する人口置換水準の2.07であったとしても、こんなにも老後が伸びてしまっては、年金制度の維持は難しいのがわかるよな?」
それを聞いて、俺は言った。
「なるほどねぇ。でもやっぱりさ、あんまりあくせく働かなくてもいいようになって欲しいね。」
(次回につづく)
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こんにちは、作者のアズマユージです!
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やはりユージはただの怠け者?
まあ、働きアリの2割は常にサボってるけど、単にサボってるんじゃなくて、潜在的な交代要員や創造的な余白として存在するって言いますよね。
次回からは、いよいよ新章突入です!




