第36話 ネクストフェーズ~一度に大量に発生すると大変なんだよ
残された課題とは?
果たしてタスクフォースの面々は今回も上手く乗り切ることが出来るのか?
魔導発電所のメルトダウンを防ぎ、新たな廃棄物発電所を開発したタスクフォースだったが、どうやら事態はそれだけでは終わらないようだった。
「我々タスクフォースが解決しないといけない課題が、もう一つあります。」
思い詰めたような真剣な顔つきでそう言うナーチャンに、俺は軽い感じで返した。
「でもさ、魔道発電所は大丈夫だったんでしょ?
ライフラインも復旧して来てるし、避難してた人も家に帰れそうなんでしょ?
で、もう一つの課題って、何よ?」
「それは、大量の廃棄物の処理です」
「ああ、それは大変だな。でもさ、リシュンが作った新しい発電所の燃料にするから大丈夫じゃないの?」
至極当たり前のことのように聞いた俺に対し、ナーチャンは変わらず難しそうな表情を崩さず言った。
「残念ながら、事はそう単純なことでは無いのです。
リシュンさんの話をちゃんと聞いていたら、お猿さんでもわかると思うのですが…。」
おい!それがわからない俺は、お猿さん以下だって言いたいのか、このアマ!
おとなしくしてたらどこまでもつけ上がりやがって!
シバいたろか!?
いてっ!
俺の学習効果が誤作動を起こしたらしく、久しぶりに鋭いローキックを喰らった俺は、悶絶して表情を歪めた…
「ちょっと、痛い!痛いってば!
なんでそんなにすぐ蹴るの!?
暴力反対!」
「はぁ。本当に困った方ですね。
ちゃんとリシュンさんの話を聞いてください!
彼は、ゴミに含まれる有機物を分解して燃料を作ると言ってましたよね?」
なんか、そんなこと言ってた気もするが、そもそも有機物って何よそれ?美味しいの?
「有機物とは、基本的に炭素を含む物質のことです。
元素記号で表すと、Cを含むものです。
ただし、CO2の二酸化炭素や、CaCO3の炭酸カルシウムは例外です。
対して、Cを含まない物質を、無機物と言います。
金属や石など、基本的に燃えないものと考えて頂いて結構です。
魔導融合炉は、有機物を原料として稼働します。
ところが、融合炉の燃料を取り出すには、まずは大量の無機物の中から、有機物を分別しなければなりません。
大量のゴミの中から、有機物のみを分別するのば、現状では人力に頼るしかありません。
現在、まだまだ復旧作業に人手がかかり過ぎています。
とても大量のゴミの分別にまで手が回らない状況なのです。」
「そうなの?そりゃ大変じゃん!」
「そうです。ただ、この課題はなんとしてでも解決しなければなりません。」
地震災害が起きると、建物が崩壊し、道路が陥没する等のインフラが被害を受ける。
その結果、がれきや廃材、家具や生活ゴミ、し尿などの様々な廃棄物が発生する。
能登半島地震の際は約9万トン、熊本地震の際は約311万トンの災害廃棄物が発生している。
さらに言えば、東日本大震災の際は、実に2000万トンを超えた。
それに加えて、津波により1000トン近い土砂や泥などが堆積した。
災害廃棄物のやっかいな点は、
①短期間に膨大な量の廃棄物が発生すること。
②解体ごみ、片付けごみ、生活ごみ、し尿、危険物などが混在しており、分別が難しいこと。
③中間処理場や焼却炉等の処理施設も被災により稼働が止まることが多いこと。
④仮置き場用地の確保が難しいこと。
⑤交通インフラが寸断され、廃棄物の運搬に支障をきたすこと。
などが挙げられる。
そこで、各地域の資源循環協会、つまり産廃屋をまとめた協会が、災害発生時に備えている。
具体的には、どの会社がどのような対応が取れるのかをまとめている。
ただし、実際に災害が発生すると、想定外の事態があまりにも多く、臨機応変な対応が求められる。
被災地に設置された廃棄物仮置き場に視察に来たタスクフォース一行だったが、現場の状況を見て愕然としていた。
まるで廃墟だ。
昨日までの暮らしそのものが、大量の廃棄物に変わってしまっていた。
好き勝手に運び込まれた廃棄物は、雑然と置かれており、まさにゴミの山となっていた。
その中で、ユージだけは慣れた様子でつぶやいた。
「ダメだこりゃ……。」
思わず呟いた。
「とりま、分別しないとだな。
ナーチャン、手書きでいいからさ、ざっと分別用の看板作ってくれる?
そうだな、とりあえず、可燃/不燃/金属/木材/危険物/廃液/がれきでいいや。
足りなかったら、また後で追加しよう。
あと、簡易台貫って言って、ゴミの重さを量るやつも仮置き場の入口に設置してくれ。
それでだいたいの量を把握しよう!」
分別指示用の簡易看板の設置が出来たところで、
「まずは、ゴミを持って来た人に、大雑把な中身を聞いて、決められた置き場に置いてもらってくれ。
あと、出来るだけ人手を集めて、すでに運び込まれたゴミを分別して行こう。
そうだな、フォークリフトとユンボも出来るだけ多く調達して欲しいな。
それから、ユニック車もあれば助かる。」
それだけ言ったユージは、黙って軍手をはめて、慣れた手つきで自ら分別を始めた。
「みんな!あまり神経質になる必要は無いけど、出来るだけ頑張って分別してくれ!
それだけで、後の処理がずいぶん楽になるからな!」
その後、廃棄物を持ち込んだ住民や、近所の高校生、役所の職員などが集まって、協力してゴミの分別をしてくれた。
そして、雑然としていた廃棄物の山が整然と分別されて行った。
被災地は、少しずつ秩序を取り戻して行った。
「さて、ここからが産廃屋の本領発揮だな!
じゃあ、ナーチャン、協会に言って、被害を受けていない産廃屋に協力を要請してくれ!
中間処理から焼却、安定型に管理型の、受け入れキャパを確認して、このゴミの山を速攻で片付けよう!」
少し呆然としていたナーチャンが、あわてて答えた。」
「かしこまりました。早速手配いたします。」
俺は、そんなナーチャンに対し、
「おう!よろしく頼むよ!こういうのは、時間が命なんだよ!
時間がたてば、臭いも出るし、虫も沸く。最悪の場合、伝染病が発生するんだ。
そうならないよう、頑張ろうぜ!」
いつものユージとのあまりの違いに、慣れない力作業に悪戦苦闘していたタスクフォースの面々は、お互い顔を見合わせるのだった。
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