第11話 初めての任務~まずは何から始めるか
さて、ようやくメンバー紹介が終わって、いよいよタスクフォースの活躍!
まずは、始動に向けたブレストの様子です。
「それでは、ワタクシたちタスクフォースの、初めての任務について、会議を始めます。
みなさん、席におつきください。」
ナーチャンが安定の仕切りを見せる。
応接セットの横には、10人ほどが座れる丸テーブルがありそれぞれの席に、小型のディスプレイが設置されている。
奥には大型のモニターがあり、極めて洗練された会議スペースとなっている。
だがしかし、その隣には昔ながらのホワイトボードが置かれていた。
「それでは、サトータさん。よろしくお願いします。」
「かしこまったでござる。」
「あ、会議中は、そのござる言葉は控えてください。」
ナーチャン、冷たい…。
「了解しました…。
それでは、早速会議に入りたいと思います。
まずは確認ですが、我々タスクフォースのテーマは、この国、いや全世界の環境を大幅に改善することにより、平和で健康的で文化的な生活を、すべての人に届ける、でよろしかったでしょうか?」
「意義なし!」
「その通りでございます。」
「大丈夫よ!」
「意義ないぜ!」
「チョベリグ!」
おい、最後の奴、古すぎるだろ?
そういうの、Z世代には通用しないんだよ。
会社で言った冗談が、誰にも拾ってもらえずにスルーされていくのは、切ないんだよ!
「そういうことで、全体の方向性は一致したところで、具体的に、どんな課題があるか、ですね。
なんでもいいので、意見のある方、挙手のうえで発言してください!」
「はい!もっとエンタメに力を入れた方がいいと思います!」
誰の意見かは、言うまでもない。さっきの風化ギャグを流されたタケシトだ。
「環境問題語るのに、いきなりエンタメはないだろ!」
俺はついつい、突っ込んでしまった。
しかしそれを受けて、サトータは、
「うん、エンタメは大事だね。
人の心に余裕が無いと、前向きな思考なんて出来ないからね!
リーダー!大きな議論をする時は、まずはブレインストーミングをするのが大事なんだよ。
誰もが持っている良いところを引き出すには、シュリンクさせちゃいけない。
どんな意見でも否定はせず、話しやすい雰囲気を作ったうえで、最終的に着地点に皆で到達できるように導くのが、ファシリテーターの役割なんだぜ。」
なるほど。
確かに、ドヤ顔で人の意見を否定する上司と会議をしても、その上司の意向に副った意見のみ採り上げられて、他の意見はバッサリ切り捨てられるだけだよな。
結局、みんなで集まっても時間の無駄で、
「お前たちの意見を集約して施策を作ったんだろうが!それに従わないとは何事だ!社会人失格だぞ!」
なんてことを言いたいがために行う会議。
今にして思えば、ホント時間の無駄だった。
だったら、自分で企画書作って、皆にその通りやらせればいいのだ。
そうすると、上から押し付けられたなんて言われるから、会議という形式を使って、誤魔化しているだけの詭弁だったのだ。
でも、やっぱりいきなりエンタメからってのは無いわぁ~。
納得は行かないが、まあなんだ。ファシリテーターのお手並み拝見と行こう。
「わかったよ。じゃあ、進めてくれ。」
「はい。エンタメ要素は、随所に必要となる大切な項目だね。
じゃあ、ホワイトボードに建設的な意見として書いておいて、次の意見も検討しよう。」
なるほど、ここでホワイトボードを使うのか、なるほど。
結局、ほぼ無視してるのと変わらんと思うのだが、タケシトは満足気な顔で座っていた。
まあ、否定されてシュンとしてると、次に絶対意見を出さなくなるからな。これも大事なことなんだろうな。
「はい!」
リシュンがすっと立ち上がって言った。
「何はともあれ、世界の情報を集めることが先決だな。
正確な情報なくして、ナーチャンの戦略も立てられまい。」
サトータは、ホワイトボードに「情報収集」と記入してから振り返り、皆の方を見ながら言った。
「そうですね!正確な情報なくして、高度な戦略は立てられませんね!
では、まずは情報収集からということで、皆さん異議はありませんか?」
うん、本質を突いた意見は、こうやって皆の共通認識にしていくんだな。さすがに上手いな。
「では、具体的にどの範囲の情報を、どうやって、いつまでに集めたら良いでしょう?
これについては、何かご意見は?」
素朴な疑問だが、この雰囲気ならフリートークで軽い意見を言っても問題ないだろうと思って俺は手を挙げた。
「まず、俺たちのテーマは、環境改善なんだよな。
もちろん、環境と言っても、考えないといけないことは山とあるけど、何をするにしても、まず金が要るんじゃないか?」
俺は、メンバー紹介の前にナーチャンが言ってたことをパクって、それっぽいことを言った。
そう、青天井で金が使えるなら、環境なんてのは簡単に改善できる。
「かなりの人が、リサイクルはエコだと思っているが、例えばプラスチックにしても、PP・PE・PVCなど、色々な素材が使われているんだ。
しかも、1つの製品で、複数の成分のプラスチックが使われていることが多く、それを上手に分別するためには、多大な労力が必要となる。
もちろん、分別の前に運搬して洗浄してといった多くの工程が必要なんだ。
以前俺は、最新鋭の選別マシーンを導入したという産廃中間処理工場を見学した時、最後にベルトコンベヤで運ばれて行っているところを覗いたら、無数の手が動いていたっていう笑えない実話がある。」
「なんじゃそりゃ!最新鋭の機械も、結局最後は人力かよ!」
リシュンが言った。
「だろう?本気でリサイクルを徹底するためには、混ぜてしまってからでは遅いんだよ。
逆に高コストで、CO2をたくさん出すんだよ!
素材の規格を統一して、リサイクルに適した製品を作るところから始めなければダメ。
でも、そんなことをすると製品の価格が高くなって、競争力が無くなるだろ?
だから、みんなやらないんだ。ってか、出来ないんだ。
みんな揃ってリサイクル仕様の製品にしないと、ちょっとくらいリサイクルしたって、環境なんて改善しないの!」
「確かに、そう言われればその通りですね。」
「極論言うとさ、石器時代とは言わなくても、江戸時代くらいの生活を送ればいいんだよ。まあ、衛生管理だけには気を付けてな。そうすれば、環境問題なんかすぐに解決だ!
でもまあ、今さら便利で都合のいい現代文明を手放そうなんて奇特な奴は、ほとんど居ないだろうけどな。」
俺が、肩をすくめながらそう言ったところ、サトータはすかさず言った。
「なるほど!今の資本主義経済の限界ってことですね!
経済発展のための競争主義が、非効率の温床となって人類を滅ぼす。
なんとも哲学的な話ですね!
そして、その解決の第一歩は、国家経済を立て直した上での、計画経済への移行といったところでしょうか?資本主義でも共産主義でもない、新たな経済を作り上げると、リーダーはそう言っているのですね!」
すかさず、リシュンが目を輝かせて言った。
「そのためには、自由競争以外の労働生産性の向上が必要ってことか!
それなら、俺のタレント、テクノロジーが役に立つぜ!
そして、経済に関する我が国の現状の問題と、そのソリューションの可能性について、至急情報を集めればいいんだな!
さすがはリーダーだ!俺たちのタレントを理解するや否や、すぐにフル活用を考えるなんて、只者じゃないな!
なに、そんなもんお安い御用だ!一週間もあれば、おつりが来るぜ!」
「私のフィナンシャルのタレントが、早速真価を発揮しそうな案件ですね!
お役に立てそうでうれしいです!腕が鳴ります!」
重ねて、イコタンも自信たっぷりに言った。
「では、リシュンさんの集めた情報を元に、一週間後に第二回目の会議を行いましょう。
ということで、本日は解散します。皆さん、お疲れ様でした!」
ん?なんか、俺の単なる飲み屋での愚痴みたいな話が、とんでもない方向に行っているような気がする…。
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こんにちは、作者のアズマユージです!
『産廃屋のおっさんの異世界奮戦記』を読んでくださりありがとうございます!
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なんか、壮大な話になって来ました。
でも、タスクフォースのメンバーの力を終結すれば、何かできるかも!