第107話 和平交渉〜軍師サムの秘策
魔王軍の反省会の続きです!
「そう言えば、魔王様が敵の目の前で掲げていたあれは何だ?
自爆装置とかなんとか言っておられたが?」
焦れた様子で、豪将ロクローマルがサムに聞いた。
「あれは、文字通り、秘密工場、つまり地下にある我が軍の武器製造工場の自爆装置です。」
「なんだと?
あの施設には、膨大な武器弾薬が保管されているのではないか?
そんなところが爆発したら、この星の2個や3個、簡単に吹っ飛ぶぞ?
敵味方ともに全滅、というか、この星の崩壊ではないか!
そんな危険な物を、何故用意したのだ?」
不敵に笑いながら、サムは答えた。
「私の情報を総合的に分析した結果、勇者ユージが新たな武器を開発して来る可能性は極めて高いと予想していました。」
額に青筋を浮かべたロクローマルが興奮して言った。
「何だと貴様!戦う前から負けるつもりだったと言うのか!?」
軍師サムは冷静に返す。
「いえ、負けるつもりなどさらさらありませんよ。
ただし、敵の行動を予測して対策を施すことは、軍師として当然の務め。
それを怠って突撃するのは、ただの蛮勇に過ぎません。」
さらに怒りをあらわにしたロクローマルが、室内に響き渡る怒声をあげた。
「蛮勇だと!我は魔王様をお守りするために全身全霊を捧げておるのだ!
我が軍は、常に研鑽を怠らず、粉骨砕身して尽力しておる!
それを言うに事欠いて、蛮勇だと!?
我らを愚弄するつもりか!
いかな魔王様のお気に入りといっても、口にして良いことと悪いことがある!
そこに直れ!刀のさびにしてくれるわ!」
そこに、魔王アサダが割って入った。
「これこれ、ロクローマル。
そう興奮しないでくださいな。
サムも、もう少し丁寧に説明してあげてください。
二人とも、魔王国を思う気持ちに嘘偽りが無いことなど、この私が良くわかっています。
お互い感情的にならずに、冷静に話を進めましょう。」
ロクローマルとサムは恐縮して頭を下げた。
「「申し訳ございません」」
そして、サムが説明を続けた。
「ロクローマル、蛮勇と言うのは、物の例えですよ。
私が言いたいのは、どんなことがあっても魔王様をお守りする用意を怠ってはいけないということです。」
不承不承ではあるが、ロクローマルも頷いた。
「もちろんだ。
我らが魔王様をお守りすること以上に大事なことなどありはしない。
しかし、あの秘密工場を爆破してしまうと、魔王様をお守りすることなど出来なくなるではないか!」
ロクローマルの疑問に対して、ニヒルな微笑みを浮かべたサムが答えた。
「もちろん、フェイクですよ。」
「えっ!そうなのですか?
でもあれは本物だと、サムは言ったではないですか!」
「敵を欺くには、まず見方から、です。」
それを聞いてまたもや激高したロクローマルがサムに食って掛かった。
「魔王様を欺いただと!?
貴様、どういう了見だ!
不遜にも程があるぞ!
もう我慢ならん!魔王様!この者をこの場で成敗させてください!」
呆れて笑いながら、サムが答える。
「どうも軍人は血の気が多くて困りますね。
いいですか、ロクローマル。
この作戦は、敵に少しでも疑われたらダメなのです。
つまり、本当にこの星を滅ぼす覚悟を持って敵を脅さなければいけません。」
「それと、魔王様を欺くことに、どういう関係がある!?」
「おおありです。
敵陣には恐らく、相手の心の中を読むタレントを持つ者がいるものと思われます。」
その言葉に驚愕した魔王アサダが言った。
「なんと!心を読むのですか?」
「そうです。
いえ、そうとしか考えられません。
もしかしたら、高度なAIで予測しているということも考えられますが、タスクフォースのメンバーは皆マルチタレントを持っているそうです。
であれば、そういったタレントを持っている可能性も大いにあると考えねばなりません。」
「なるほど。」
「ですので、魔王様ご自身が、本当にこの星と心中するというお覚悟を持たれることが重要だったのです。」
静かに言った軍師サムは、少し間を開けてから続けた。
「人殺しを極力避ける傾向にある勇者ユージが、この星全体を人質にされた時にどういう行動を取るか?
こんな簡単な賭けはありません。
まさに鉄板です。
しかしながら、あの爆破リモコンがフェイクだと見破られた時には、我々の敗北は確定していたでしょう。」
魔王アサダが納得して言った。
「それで私にあれが本物であると嘘をついたのですね。」
サムは、恐縮して頭を下げた。
「申し訳ございませんでした。
作戦の成否を分ける重要なファクターでしたので、断腸の思いで行いました。
このお詫びは、私の命で足りますでしょうか?」
「何を言うのです、サム。
私たちは、あなたの作戦に救われたのですよ。
お詫びどころか、褒美を与えねばなりません。」
そう優しく言ったアサダだが、少し拗ねたような表情をして続けた。
「しかし、すっかり騙されたというのは、少々悔しいですね。
罰として、一つ命令をくだします。
人族との和平交渉はあなたが責任を持って行いなさい。」
驚いて目を見開いたサムは、少し震えながら言った。
「あ、有難き幸せ。
しかし、それでは罰になどなりませぬ。」
「良いのです。
少しだけ意地悪をしてみたかっただけですので。
軍師サム、この度はご苦労様でした。
今ここで無事に話が出来ているのは、あなたを中心とした、全員の奮闘のお陰です。」
そう言って、周囲を見渡した魔王アサダは、全員に言った。
「予想した最高の結果ではありませんでしたが、最悪の結果でもありません。
すべて、皆のお陰です。
本当に感謝します。
これから、また大変なことが続くと思いますが、皆のことは引き続き頼りにしていますよ。
よろしくお願いしますね。」
魔王に労われた面々は、全員、感動のあまり滂沱の涙を流したのだった。
そして、サムは呟いた。
「あとは、ハチオの無事を祈るばかりですね。」
忘れてたかもしれませんが、タケシトによって王国軍に囚われているハチオは一体どうしているのか?
次回はそのあたりのお話の予定です。
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