第103話 正面衝突〜白兵戦の行方は如何に?
遂に本格的な戦闘に突入です!
両軍入り乱れての白兵戦が始まってから、既に10時間が経過していた。
両軍ともに損耗は激しく、無傷な者などほとんど居ない。
日は既に沈み、薄暮の中で、懸命に目の前の敵を倒すべく、奮闘を続けていたが、これ以上暗くなると戦闘継続は難しいと判断した軍師サムが、一時退却を指示した。
「魔王様、本日の戦闘は、ほぼ互角と言っていいでしょう。
両軍ともに疲弊しており、恐らく明日には、決着がつくものと思われます。」
それを聞いた魔王アサダは、心配気に軍師サムに聞いた。
「それは、我が軍が勝利するということですか?」
しかし軍師サムは、小さく首を横に振りながら答えた。
「勝負は時の運です。
私が言えることは、現状互角で、明日にはどちらかに大きく形勢が傾くということだけです。」
「なんと!では、我が軍が負けるということもあり得ると?」
「もちろん、最善の努力はします。
しかしながら魔王様、もし仮に敵軍が優勢になった場合には、魔王様に一芝居打ってもらいたく存じます。」
魔王は素直に頷いた。
「私に出来ることであれば、なんなりと。
では、万が一に備えて、その作戦を聞かせてください。」
そして、秘密の作戦会議は続いて、夜は更けていったのだった。
翌朝は、前日に激しい戦闘が行われたことなど、嘘のような快晴だった。
若干強く吹く風に、髪を乱されながら、ユージは、またもや戦時中の日本軍について、思いを馳せていた。
「本日天気晴朗なれども波高し」
この言葉は、1905年(明治38年)5月27日、日本海海戦の開戦直前に秋山真之が連合艦隊の参謀として発したもので、戦況と覚悟を簡潔かつ詩的に伝えた名文として知られている。
この短い檄文の中で、視界良好で砲撃に有利だが、波が高く敵の小型艦艇や魚雷艇の活動が制限されるという、「日本側に有利な状況」を簡潔に伝えることにより、味方の士気を高めていた。
「あと、『皇国の興廃この一戦にあり。各員一層奮励努力せよ』だったかな。
よし、俺も真似しよう!」
そう言って、ユージはマイクを握った。
「あー、あー。全軍に告ぐ。
王国軍の勇敢なる戦士たちよ。
すでに夜は明けた。
ほどなく、魔王軍との激しい戦闘が開始されるだろう。
その前に、君たちに言っておく。」
そして、ユージは一瞬間を取ってから言った。
「本日天気晴朗なれども風強し。
王国の興廃この一戦にあり。各員一層奮励努力せよ!」
風が強いと、魔王軍の魔導バリスタの命中精度が下がる。
そして、視界良好であれば、高い位置から全体を見渡せる王国軍の方が有利だ。
そして、今日が天下分け目の大戦になると宣言して、皆に強いメッセージを送ったのだった。
「「「「「おー!」」」」
王城の中に、決意に燃えた鬨の声が上がった。
そしてちょうどその時、魔王軍の激しい攻撃が始まったのだった。
魔導シールドは、応急措置によって、不完全だが再構築した。
再び魔導バリスタによる攻撃を受けた場合、気休めにしかならなさそうだが、無いよりはマシだ。
王国軍は、少しでも時間を稼ぎたかったのだった。
しかし非情にも、1時間も経たずして、魔導シールドは再び破壊されてしまった。
昨日よりも早い時間から始まった白兵戦は、熾烈を極めた。
「神楽耶さま、そんなに前線に出ると危険です!
もう少しお下がり下さい!」
側近の、カセーフ・ハミータが、危険な最前線で采配を振るう神楽耶に向かって懇願するように叫んだ。
だがしかし、当の神楽耶は、ハミータの讒言を鼻で笑って言った。
「わらわが前に出ずして、どうして勝利を得ることなど出来ようぞ!
見てみよ。
タスクフォースのユージ殿こそ、さらに危険な場所で戦局を見守っているではないか!」
そう言われて隣を見ると、タスクフォースのリーダー、異世界より召喚されし勇者である、アズマユージが、飛び交う弾丸の雨をものともせずに、腕を組んだまま瞑目していたのだった。
その姿を見たハミータは、驚愕に我を忘れて呟いた。
「なんという胆力!
なんという覚悟!
これがあの、神算鬼謀を操る人族の希望、勇者ユージさまということですか!」
実のところ、よそ見をしていたら逃げ遅れてしまい、目の前に飛び交う銃弾にビビって腰を抜かして動けなかったユージなのだったが、彼の前評判の高さ故に、勝手に周りが盛大な勘違いをしていたのだった。
ただ1人、そんな俺の真の姿を知りながらも、相変わらず俺をサポートしてくれるナーチャンが、周りに見えないように俺の足を踏んづけながら言った。
「ユージさま、しっかりしてください。
このままだと、魔王軍に押し切られてしまいます。
ここはいつもの、何かわからないけど上手く行ったよ作戦を実行する時です!」
「いや、なんか今までは確かにそんな感じで上手く行ったけれども!
そんなのわざとじゃ無いし!
そう都合良くラッキーパンチが続く訳無いし!
だって俺、ただのしがない産廃屋だし!」
そんな泣き言を言う俺の、絶対絶命のピンチに、あの男が駆けつけた。
それは、タスクフォースのテクニカルリーダーである長身イケメンのナイスガイ、リシュン・オグだった。
さあ、いよいよ真打登場!
タスクフォースの切り札、リシュンが帰って来ました!
果たして再度リシュンの新兵器が火を噴くのか?
乞うご期待!
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