第1話 異世界召喚~産廃現場から異世界への華麗なる転身!
おっさんによる、全世代のみなさんに送る、社会派異世界ファンタジー、遂に投稿開始です!
みなさま、乞うご期待!
「勇者よ目覚めなさい。長き旅路は終焉を迎えました。世界はゴミであふれ、環境破壊が急速に進んでいる。このままでは、我々人類は滅んでしまいます。もう一度言います。勇者よ、我らが願いを果たすべく、疾く目覚めて戦いなさい。」
ん?。
鈴を転がすような声とは、このような声のことを言うんだろうなぁ…。
なんて、呑気な感想に浸っていた俺は、今しばらくこのまどろみの世界を楽しみたくなり、目を閉じたまま寝返りをうった。
いてっ!
なんか、頭を小突かれた俺は、びっくりして起き上がった。
「早く起きなさいって言ったでしょ!あんたを呼び出すのに、どれだけの金と労力がかかったかわかってるの?早く起きて仕事しなさい!」
ん?。
さっきの声と同一人物か?やけに印象が違うけど、そうなんだろうな、たぶん。
ただ、目の前に立ってプンプン怒っている女性は、はっきり言って美人だった。
例えて言うと、〇〇坂46にいそうな、清楚な顔立ちで、逆に整い過ぎていると言っても過言では無い。
スタイルは…まだまだ発展途上だけどな、ふっ…。
いてっ!
「あなた今、とても失礼なこと考えたでしょ!」
再び、杖で小突かれた俺は、頭を押さえて言った。
「ちょっ、ちょっ!
なにがどうした?ここはどこだ?君は誰だ?
ちょっと何言ってるかわからないんですけど!」
そう、俺はさっきまで産廃の中間処理場というブラックで危険な職場で働いていたはずなのだ。
そして、普段から徹底しろと言われていた、大きめの塩ビ管を除去するために、ゴミの山に手を突っ込んだんだった。
塩ビ、正式にはポリ塩化ビニル。使い勝手の良い安価な素材で、水道パイプなど多用途に使われるが、燃やすと塩化水素が発生する。
塩化水素は、塩酸ガスとも言われ、水に溶けると塩酸になって、さまざまな機械に悪影響を及ぼす。
そのため、中間処理業者はゴミに塩ビ製品が出来るだけ混ざらないようにする必要がある。
いや、今はそんなことはどうでもいい。
うん?そっか!あいつか!
かわいくて憎めないんだが、とても頭の出来がかわいそうな後輩のシゲルだ。
あいつ、あれほど大型重機のユンボに乗る時はまわりをしっかり確認しろって教えたのに、
「俺は重機を使えるアイドルと同じ名前なんだ!リーダーなんだ!」
とか言いながら、すぐ調子にのるんだった…
その時もまた、シゲルはノールックでユンボのアームを振り回して、俺に向かって先っちょのバケットが加速しながらやってきたのだった…
俺は急いでよけようとしたが、運悪く見事に頭にくらったところまでは覚えている…
まあ、普通に考えたら即死だったはずだよな。
それが何故?
「あなたは、異世界から我々の王国に、勇者として召喚されたのです。喜びなさい。
そして、私はこの国一番の魔術師にして、第一王女のシマイ・シライです!
マイヤンと呼んでください!」
「異世界召喚!?俺が勇者? そんなアホな!
ってか、シマイ・シライ?マイヤン?
ちょっとだけ誤魔化してるけど、ほぼそのまんまやん!!」
シマイ・シライと名乗る目の前の美少女は、急に表情を変えて、少し俯きながら言った。
「今、この世界は絶滅の危機に瀕しています。
人類が、無秩序に発展していった結果、環境破壊が進んでしまいました。
森林は破壊され、化石燃料による温室効果ガスの増加、海洋汚染・土壌汚染もひどいものです。
気温が上昇し、氷河が溶け出すことにより、海水面が上昇して、平野が海に沈んでいます。
作物の耕作に適した土地が減り、国々は食料確保のための戦争準備をはじめています。」
俺は驚いて言った。
「いや、それって近未来の地球じゃん!ほぼ同じ道をたどった未来じゃん!
俺はただの産廃屋の現場のおっさんだよ!
俺なんかを連れてきて、世界を救うなんて、できる訳ないじゃん!バカなの?」
いてっ!
「話は最後まで聞きなさい。
あなたは、この世界を救う勇者なのです。
決して適当に決めた訳ではありません、たぶん…」
?
「いま、たぶんって言った?言ったよね?
やっぱ適当に選んだんじゃん!無理だよそんなの!」
マイヤンは、こちらを見ながら言った。
「私だって勇者召喚なんて初めての経験なのよ!
そんな上手いこと適材適所の人材を引っ張って来れる訳ないじゃない!
環境ビジネスって検索したら、産廃業って出てきたから、適当に死にかけてる産廃屋の人連れて来ただけよ!悪い?
いいからツベコベ言わずに、働きなさい!このヘタレ!」
開き直ったよ…。
この女、今適当って言ったよ…。
こりゃ参ったな。
これまでのやりとりでわかったことが一つある。
こいつは、間違いなく残念パワハラ王女だ。
顔はいいが、人の話を聞かない、都合が悪いと暴力に訴えたうえで開き直るとか、典型的なパワハラタイプだ。
しかし、パワハラに屈していたら、俺の今後の生活はとんでもなく不遇なものになるのは間違いない。
そもそも、役職や立場が高い人は、同じ仕事をした部下を、褒めることも出来れば怒ることも出来る。
例えば、気を利かせて言われる前に仕事をした場合、社長は気分次第で、
「おっ!言われる前にやるべきことを考えて行動するなんて、君は優秀だね!」
と褒めることも出来れば、
「誰に断って勝手なことをしているの?時間は有限なんだから、決められたこと以外の仕事をするなら、事前に許可を取らないとダメだろう!」
と怒ることも出来る。
そして、「俺がいなくなったら、この会社は大変だぞ!全部俺が決めてるからな」と言って、自分の優秀さをアピールして悦に入る。
完全なる裸の王様だ。
そもそも、ビジネスの成否なんて、運の要素がかなり多い。
もちろん努力は前提だが、企業が飛躍する時には、賭けに頼る要素が大きい。
安全策だけでのし上がる中小企業はほぼ無い。
でなければ、優秀な人材で固めた大企業の新規事業は、すべて成功するはずだが、実際はそうではない。
そして、たまたま賭けに勝った創業者は、年齢を重ねていくに連れて、それを自分の優秀さのおかげだと思い込み、成功が幸運と社員全員の努力の賜物であることを認めなくなる。
自分の優秀さをアピールしてマウントを取りたいが故に、パワハラが横行し、企業が衰退する。
これが、企業の寿命は50年と言われる所以だと、俺は思っているが、もちろん、良い経営者もいるはずだ。
つまり今の話は、しがない無力なサラリーマンの、単なる愚痴だ。
話が横道に逸れたが、とにかく、俺はパワハラ上司にはギリギリまで抵抗して、主張すべきことは主張し、それが逆効果だった場合は、とっとと逃げるべきだと信じている。
だから、最低限の要望として、こう言った。
「せめて、優秀な仲間とかいないの?
すっごい企画ができる事務方の人とか、交渉力がハンパないネゴシエーターとか、プレゼン力がずば抜けた人とかさ。」
大企業のすごいところは、優秀な事務方の社員を多く抱えていることだと、俺は思う。
担当役員や部長なんて、数年ごとに異動して、そのたびに素人がやって来る。
正しい判断をするために必要なのは、優秀な頭脳よりも、高度に整理された情報だ。
事務方が判断材料を素人にもわかるように正確かつ簡潔に整理し、ほぼ結論を出してから決済を仰ぐ。
だから、上司が素人でも組織は上手く回るのだ。
つまりは、優秀な部下が欲しい。
それが、俺の最低限の要望だ。
マイヤンは、しばし考えてから急に満面の笑みを浮かべて
「やっとわかっていただけましたね。それでは早速今日から取り掛かってください。
1日は24時間しかありませんからね。」
おいおいおい!
「人の話、なんにも聞いてねぇだろ!
しかも1日24時間も働いたら体が持たんわ!
まずは仲間をよこせ!それから働くのは1日に8時間!それ以上は残業代もらうぞ!
そして残業時間は、1か月45時間以上は年6回までとか、年間360時間以内とか、最新の働き方改革法に決められた上限を守ってもらうからな!」
「?残業代って何ですか?働き方改革法ってのも聞いたこと無いですね。
まあ、それはともかく、仲間については考えておきましょう。
あなた達は、環境改善タスクフォースの一員として活躍して頂きます。そして、そのリーダーは、ユージさまですので、お含み置きください。
それではこれにて解散!お疲れ様でした!」
タスクフォースって、なんか少しカッコいいな。
なんてしょうもないことを、少し思ってしまった…。
そしてこれが、俺の波乱万丈な異世界生活のスタートだった。
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こんにちは、作者のアズマユージです!
『産廃屋のおっさんの異世界奮戦記』を読んでくださりありがとうございます!
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今後も、異世界×環境問題×おっさんの奮闘を描いていきますので、よろしくお願いします!
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とりあえず、第一話終了です。
次回は、新しいキャラが登場します!
マイヤンの次に出てくるのは、誰でしょうか?