8、ビジョン
☆
精一杯の努力をした。
私を救ってくれたお兄にキスをした。
お父さんの願っている思いを叶えたんだ。
それから私はお兄から離れてから涙を浮かべる。
そしてお兄を見た。
「お兄。私ね。お兄と家族になった日。...3年半前のあの日はお父さんの命日だったんだ」
「え...初耳だぞ」
「うん。死んだ事しか言ってない。だからそれで貴方とお義父さんを心底嫌っていた。赤の他人だって。私は情けなかった。いつまでも子供だった。だけど...3年半が経って私はお兄を大好きになった」
「...」
お兄は私をじっと見てくる。
そして街灯が灯り私達を照らして私達の顔の表情が見えた。
私は涙を拭いながら「本当に我慢できなかった。ごめんなさい」と言いながらお兄に頭を下げてから唇を噛む。
どんな感じなのか分からない。
怖い。
「なあ。雪乃」
「?」
「俺の母親が死んだ理由知ってるか」
「あまり聞いたことが無いかな。明確な理由は...」
「癌だよ。それも...胃がん。身体中に転移して亡くなった」
その言葉に私は「!」となってからバッと顔を上げる。
それからお兄を見る。
お兄は「...スキルスの胃がんだった」と答えた。
私は「...それって気が付いた時にはもう手遅れってやつ?」と言う。
お兄は「そうだ。気が付いたらもう体内は汚染されていたんだ」と答えた。
「俺も将来はきっとそういう病になる」
「うん」
「それでも俺を愛すのか?」
「アハハ。お兄は最悪な事ばかり予想してる。でもね。絶対なんて言葉はこの世にはまさに絶対に無いんだよお兄。...というかもしスキルスの胃がんになってお兄が死にそうになったら私も死んであげる。2人で天国に行こう」
「お前はどうして...そこまで」
「貴方が初恋の人だから」
「...」
お兄は俯く。
それからお兄は涙を浮かべて涙を落とした。
私はその姿を見ながら考える。
この人はどんな人生を歩んできたのだろうか。
きっとこれまで良くない人生だったのだろう...。
だけど今度は。
「お兄」
「ああ」
「私はお兄。貴方の義妹。貴方を好きな人。...これから先どんな困難が起こっても私は貴方の味方です」
「...」
「私、貴方を好きになって良かったです」
顔を片手で覆うお兄。
それから鼻をすすってから「...もう大丈夫だ」と言う。
私はお兄の手をゆっくり握る。
そして私はお兄の頬に手を添えた。
☆
それから私達は帰宅する為に公園を出てから歩いていると...目の前に誰か居た。
それは見た事が無い女の人達だった。
2人居る。
山口高校の制服を着ている。
「あ、あの」
「御剣。どうしたんだ。そちらはもしかして山口美鈴か」
「そ、そうです。彼女は陸上部の友人で...」
「...知ってる。なあ。俺の事をお前が教えたのか。山口」
山口と言う女子と御剣という女子。
2人は驚きながらお兄を見る。
私はその2人の姿に...何だろう。
心が不安になった。
「山口」
「は、はい」
「お前に怒っている訳じゃないんだけど。でも個人情報を軽々しく教えるのもいかがなものかと思うが」
「...す、すいません」
「その部分は認めないな」
「...」
山口は押し黙る。
それから御剣が「待って淀橋くん。私...その。確かに彼女は悪いかもだけど今日の用事はそれじゃなくて...」と言う。
お兄は「...」となって眉を顰めている。
予想外の事態に険悪な感じになってきた。
私はほくそ笑む。
そして私は「すいません。...今日は私達は忙しいんです」と言う。
「...貴方は?」
「私は淀橋雪乃です。...お兄が嫌って言ってますので」
「...」
2人は申し訳なさそうな顔をしているが。
確かに個人情報を軽々しく教えたのはいけすかない。
そう思いながら私は「じゃあ行こうか。お兄」と言いながら私は2人に頭を下げてからそのままお兄と一緒にその場を立ち去ろうとした。
すると「あ、あの」と山口が言った。
「...淀橋さん」
「何だ」
「確かにその。今回は悪かったって思います。その点は謝ります。だけど...その。淀橋さんの事が彼女...祥子が気になっているって」
「俺は今、好きな人は作らないって決めている。勉強に励みたいんだ」
まさかの事態に私は「...」となる。
それから私は山口と御剣を警戒する。
好き、ね。
いや認めない。
「だ、だからえっと」
手を伸ばした御剣の手を私は弱い力で払った。
それから驚く3人を見る私。
またほくそ笑んだ。
私のお兄は渡さない。
考えながら私は「お兄は貴方のものではないです」と否定をする。
「御剣さん。それから山口さん。お兄があくまで嫌がっている様です。だからあまり接触しないでくれますか」
「お前...」
御剣は唖然。
山口も驚きつつ私を見た。
お兄の腕を私は胸の中に収める。
それから私は2人を見てから頭を下げた。
そして私はお兄を引き摺ってから家に帰った。
☆
お兄はあくまで誰のものでもない。
彼は私のお兄だから。
そう思いながら私は家に帰ってから家事をしていた。
冷めた血液が動脈も静脈も関係無く全身に巡る為に逆流する様な感じだ。
そして私は洗濯物を干しているとお兄が来た。
「お兄?」
「...ありがとうな。雪乃」
「え?お兄...?」
「お前の望む様なお前を愛するとかの男にはなれないかもだけどさ。お前のお陰で別の意味で強くなれそうだ」
私はお兄を見る。
そんなお兄に「ねえ。お兄」と聞いた。
それからお兄を赤面して改めて見てみる。
お兄は「?」を浮かべて私に向いた。
「貴方が私のそばに居なかったら私はどうなっていたんだろう?貴方に逢わなかった世界のビジョンが見えない」
「...!」
愛しいな本当に。
するとお兄はその言葉に胸を打たれ...というか。
なにか複雑そうな顔をする。
え?と思った。
お兄の予想外の顔にだが。
「お兄?どうしたの?」
「...なんでもない。そうだな。俺もそれは分からないけど。きっと別の意味でお前は咲いたよ。きっとな」
「うん。でも私はお兄が居たから毎日がとても楽しいからね。本当にビジョンが全く見えない」
「...ありがとう。そう言ってくれて。嬉しい」
お兄は笑みを浮かべる。
愛おしい感情が溢れてしまう。
お兄が好きすぎる。
うーん私...どうしたんだろ。