6、アンバランス
☆
「...」
まさか愛の告白を雪乃にまでされるとは思わなかった。
俺は考えながら自宅に帰って来る。
それから俺はトイレットペーパーを置きながら溜息を吐く。
すると「お兄」と声がした。
「?...ああ。どうしたんだ」
「何でもないけど」
「...え?そうか」
雪乃はゆっくり俺に寄り添ってくる。
俺はまさかの行動にドキッとした。
雪乃は俺を背後から抱きしめる。
それから背中に胸を押し当てる様に俺の頭を撫でる。
「お兄。好き」
「お、おい」
「私、お兄がとても好き。愛してる」
「いやだから分かったって。年頃の女の子がそんな事をしたらいけない」
それから俺は雪乃に向く。
そして頭を撫でた。
「雪乃。本当に嬉しい。だけど俺は...」と言う。
雪乃は「知ってる」と言いながら俺を真っ直ぐに見る。
「だから...ゆっくりで大丈夫。私...いつでも待ってる。返事は」
「ああ」
「お兄のお母さんの事...全部知っているから」
「ありがとうな。雪乃。でも今思っているのはその事じゃない」
「え?」
雪乃は「?」を浮かべながら俺を見る。
俺が悩んでいるのは嫁の事もそうだけど色々ある。
だから今は付き合えない。
昔は確かに母親の事で悩んでいたけど。
「訳は言えないけど...でもお前を決して嫌っている訳じゃないから」
「...そっか。うん。分かった」
「でもお前が待っているのは事実だ。必ず返事はするから」
「うん。待ってる。その間は私、貴方にアピールする」
「ちょっと待て。アピールってなんだ?」
「ん?それはねぇ。なーいしょ」
「いや。内緒って」
「内緒は内緒だもん」
そして雪乃はまた俺に寄り添う。
べたべただった。
俺はその事に「まずいって。父さん達にバレたら」と言う。
雪乃は「んー?何がマズいの?」とべたべたくっ付いてくる。
「全くお前は」
「愛してるからねぇ」
「分かったってば」
俺は雪乃に苦笑いを浮かべる。
それから立ち上がってから雪乃を剥がしてからリビングに戻る。
そうしているとスマホが震えた。
それは電話だった。
誰からかと思ったが見た事が無い番号だった為に出なかった。
☆
翌日になってから俺は雪乃と通学路で別れてからそのまま学校に向かおうとした。
そして俺は「...!」となる。
それは何故かというと。
「あの。初めまして。淀橋くんですか?」
そこに控えめに立っていたのは。
間違いなく御剣祥子だった。
高校時代は短髪だった髪の毛。
黒の...動きやすいとされるボブ。
それから顔立ちが幼いながらも...はっきり分かる。
『浮気?そんなのする訳ないよ?』
「...」
俺の寝取られた元嫁だった。
心底複雑な思いながらぼーっと彼女を見ていると彼女は「あ、突然すいません。私、御剣っていいます」と満面の笑顔で俺を見る。
名前は当たり前だが既に知っている。
存じ上げている。
「その。御剣さんだっけ。何の用事かな」
「大会...その。凄く格好良かったです」
「ああ。というか何でこの場所が分かったんだ」
「知り合いの女の子に聞いて...」
そんな話...あったか?
確かに俺は格好良かったかもしれない。
だがそれはあくまで...。
いずれにせよ何らかのきっかけはあるが結婚するまでに至って...そしてコイツに浮気されて俺はストレスの胃がんで亡くなった。
コイツには会わないつもりだったのに。
あくまでコイツだけには。
「確かその制服といい山口高校の生徒だったよね。わざわざ会いに来てくれたんだね」
「あ、はい!」
「...それじゃ」
俺は少しだけ冷めた感じで対応しそのまま立ち去ろうとした。
すると「あの」と声がした。
振り返ってみると元嫁が俺を見ていた。
俺は「何?」と聞いてみる。
元嫁は「放課後に時間あります?」と言ってくる。
「...ごめん。今日は忙しいかな」
「そ、そうなんですね。じゃあまた後日...」
「いや。後日も...」
首を振って否定をしていると「英二?」と声がした。
顔を横に向けるとそこに美玖が居た。
俺達を見ながら「その子は?」と聞いてくる。
その言葉に元嫁は頭を下げる。
「私は御剣です。その淀橋くんが格好良かったので追いかけで...」と言う。
俺はその言葉に美玖を見る。
美玖は俺を見てから「そうなんだ」となっていた。
「えっと。何かその。じゃ、じゃあ」
そして元嫁はそのまま頭をぺこぺこと下げてからそのまま去って行った。
それは本当に昔の姿だった。
俺はその姿を見てから美玖を見る。
美玖は「...」となっていた。
嬉しくもない悲しくもない様な何だか複雑そうな感じを見せている。
何だ?
「美玖?」
「...あっち側に行かないよね?」
「行かないよねってのはなんだ?」
「何だかその。彼女は...私、失礼かもだけど苦手」
「...苦手ってのは?」
「英二に変な事をしそうで怖い感じがした。なんでか分からないけど」
何という勘だろうか。
御剣と出逢うのは初めてだというのに。
確かに前世では互いに夫婦の立場で最低な真似をされたが。
そんな事を微量でも察するとは。
そう思いながら俺はゆっくり首を振る。
それから「大丈夫。俺は御剣とは接しない」と否定をした。
そして美玖を見る。
「...心配ありがとうな。美玖。俺は...というか俺も彼女は苦手なんだ」
「そうなの?」
「失礼かもだけど...色々あってな」
「そうなんだ」
美玖は胸に手を添える。
それから俺の頬に触れてきた。
「そんな感じがある人間には会わないほうが良いよ。...私の経験談だけど」と苦笑いで言いながらだ。
俺は頷く。
「そうだな。陸上の用事...まあ必要最低限以外には会わないよ」
「うん。まあでも英二の事だからきっと大丈夫って思うけど」
「...」
俺は美玖の手を握る。
それから「行こうか」と言った。
美玖はほんのり頬を朱に染めてから「うん」と頷いた。
そして俺達は学校に向かう。