5、渡したくない
☆
お兄と出逢ったのは今から約3年前。
その時の私は滅茶苦茶扱いにくい少女だった。
何故かといえばひねくれている部分が多かったからだ。
父親を失って...そうなってしまったのだ。
私はとんだクソ野郎だった。
お兄にはイライラして何度も突き放して当たったし本当に最低な人間だった。
だけどそれでもお兄は絶対に私の改心を諦めなかった。
私の為にずっと自らで祈りを捧げてくれて...見捨てなかった。
そんなお兄に私はいつしか心を開いた。
懐かしい話だ。
そう思いながら私はドキドキしながら家事をする。
お母さんのお手伝いと思ってやっているのだが。
私は皿洗いをしながら内心で高まる想いと落胆する気持ちにかられる。
理由は単純。
お兄がデートをしてきたという事に落ち込んでいる。
なんでこんな感情になるのかは分からない...けど。
なんとなく察してはいる。
兄妹でそんな事を思っちゃいけないけど。
私は...恐らく。
「雪乃」
「あ、お、お兄」
「どうしたんだ?ぼーっとして」
「い、いや。何でもないよ。...何?」
「ああいや。トイレに行ったらトイレットペーパーが無くなってたんだって言おうとしたんだ」
「あ、そ、そうなんだ。分かった。じゃあ買って...あ、いや。一緒に行こう」
「え?いや。近所のスーパーに買い出しに行くだけ...」
「良いから。一緒に」
彼女が...美玖さんがそんなに全て踏み込むとは思わなかった。
でもね。
ごめんなさい美玖さん。
お兄は昔から私のものなんだ。
誰にも渡したくないんだ。
「どうしたんだ?雪乃」
「良いから。一緒に買い物に行きたくなったから」
「そ、そうなのか」
「石鹸...洗剤も尽きてきたしね」
私は嘘ばかり言いながらお兄と一緒に表に出る。
それから私はドアを開ける。
そして私はお兄と一緒に近所のスーパーに買い出しに行く。
というか...デートの様な事をする。
☆
「いやー。良いものが偶然だけど買えたな」
「そうだね。トイレットペーパーのタイムセールの安売りなんて珍しいね」
そして私達は激安スーパーを後にする。
それから帰宅する為に歩き出す。
その際にチラチラとお兄を見てみる。
将来...私は誰と結ばれるのだろう。
お兄はそんな時でも応援してくれるかな。
「家族になる為に出逢ってからもうすぐ3年半だな」
「そうだね。もうそのぐらいになるかな」
「そうだな。...あの頃よりお前が変わって良かったよ。純粋無垢な本当に愛らしい女の子になってくれて嬉しい」
「...」
私は心臓をバクバク跳ね上げる。
それから私は立ち止まる。
するとお兄が「雪乃?」と声をかけてくる。
私は「ねえ。お兄」と声をかける。
「...例えばの話だけど」
「ああ。どうした」
「私がお嫁に行ったらお兄はどう反応する?」
「お嫁?...お嫁さんか。泣くだろうな。お前が嫁いだら俺は」
「全力でお嫁さんになるの止めてくれる?」
「なんで?...幸せな事なのに?」
疑問符を浮かべているお兄を見る。
そして私は一歩ずつお兄に近付いて行く。
その距離はお兄が着ている服を手繰り寄せた手。
それから距離は0センチとなった。
お兄は「?!」となって私を見る。
私は周りを見渡してからお兄の胸に手を添える。
それから私はゆっくり胸に寄り添う。
「...何をしている...!?」
「ねえお兄。私が嫁ぐの..がさ」
「...あ、ああ」
「嫁ぎ先がお兄だったらどうする?」
「それはどういう意味だ?」
「私はお兄をお兄とは見てないよ」
「...え?」
その言葉に私はお兄を見上げる。
そして目の前の大きな身体を抱きしめた。
中学生の身体じゃこれぐらいが限界だ。
だけど私は全力で抱きしめた。
「お兄とは見てないんだ。最近」
「...まさか」
「私、お兄が異性として好きなんだ」
「ま、マジか?」
「うん。私、お兄が好き」
私はお兄のお腹の辺りの布を掴む。
それからお兄の反応を待つ。
するとお兄は私を抱きしめてくれた。
そして「嬉しい」と言った。
え?
「どういう意味?」
「あ、いや。こっちの話だ。お前にまで好かれるって思わなかったんだ」
「女の子に好かれるって思わなかったって事?」
「そ、そうだな。...まあでも本当に良かった」
お兄は笑みを浮かべて私を見る。
私はその優しい抱きしめ方に心臓をバクバクさせる。
それから私達は暫く抱き合っていたが人が通り始めたので私達は直ぐに離れてから「帰ろうか」と言いあう。
歩きはじめる私達。
「...どれくらいの時期から好きだったんだ?」
「1年半ぐらいの2月からかな。全てを実感するのに時間がかかったけど」
「そうだったんだな」
「うん」
「...」
お兄の顔はなんだか嬉しそうな顔だが。
だけど複雑さも混じっている。
何故そんな顔をしているのかは分からない。
だけど私は(きっと告白されて戸惑っているのだろう)と考えた。
私は意を決した。
それから手を差し出した。
「どうしたんだ?」
「手を繋いでくれる?」
「え?」
「好きな人同士だから良いじゃない」
「...分かったよ」
言葉に戸惑っていたがお兄はゆっくりと手を差し出してくれた。
3年半前に握った手とは違う成長期の男の子の手。
心臓がドキドキする。
だけど安心感が強くて私は...嬉しい感情だった。
(私、お兄に対して本当に愛が強いんだ)と。
そう実感できた気がした。