表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/8

2、長針と短針が重なる時

前世で末期の胃がんだった俺。

それから亡くなった?後に何故か俺は高校時代にタイムスリップした。

陸上に明け暮れたあの日々に戻っていた。

横に居る美玖を見る。


美玖はとても嬉しそうに俺にはにかんでいる。

タイムスリップする前の前世では見られなかった光景。

その幸せを感じながら俺は美玖に聞いてみる。


「ところで今日は何を買いに行くんだ?」

「ん?...あ、文房具とかね」

「ああ。そうなんだな」

「使ってる消しゴムが小さくなったのもあったし」

「そうだったか」

「うん。だから付き合ってくれて嬉しい」


美玖はニコニコしながら鼻歌混じりに歩く。

俺はその子供が玩具を買ってもらう前の様なそんな姿を見ながら苦笑する。

そして歩いていると「あ、そうそう。ねえ。英二」と聞いてきた。

俺は「?」を浮かべて美玖を見る。


「誕プレなにが良い?」

「誕プレ...?」

「5月18日だよ。君の誕生日」

「...」

「?」


誕生日プレゼント...か。

確かに誕生日は1週間後辺りにはなる。

前世の事もあって祝ってもらうという感覚が薄れていたけど。

17歳になる誕生日だな。


「美玖。ありがたいけど俺はお前と一緒に居るだけで楽しいよ」

「はい?!」

「いや。俺はお前と一緒に居るのが楽しい」

「そ、そうなの...?」

「ああ。今までずっと一緒に居られなくてごめんな」

「...」


何故か涙を浮かべる美玖。

そして美玖は顔を覆ってから泣き始める。

え?俺なんか余計な事を言ったか!?

そう思いながら俺は慌てる。


「ばか英二」

「な、なんだよ」

「...そんな嬉しい事を言わなくて良いから」

「なんだそれ?」

「い、良いから!誕生日プレゼントは何が良いの!?」

「じゃあお揃いの何かが欲しい」

「はぃ!?」


美玖は動揺する。

それから顔がだんだんと赤くなっていく。

耳まで真っ赤になる。

何...と思ったが。

少しだけ考えてからその表情を読み取り「お前俺が好きなの?」と聞いてみる。


「はぁ!!!?!無いし!!!!!」

「だけどお前耳まで真っ赤じゃないか」

「真っ赤で悪い!?え、英二が...」

「英二がなんだ」


俺は美玖の頬にゆっくり手を添える。

すると美玖は目を回してから俺に軽くデコピンした。

それから俺を引き剥がした。

そして「もう馬鹿!もう!もう馬鹿!!!!!何をしているの!!!!!」と言ってから怒って前を歩いて行く。

まさかそんな感情が美玖に?


「...美玖。すまない」

「は?」

「...いや。気持ちに無造作に踏み込んでしまって」

「ま、まあ踏み込むのは別に良いけど。っていうかもう良いよ。どうせそのうちに言おうとした事だから」


そして美玖は俺に向く。

それから何を思ったか俺の胸に触れる。

そうしてから赤くなったその顔で見上げてくる。

な、なんだ。


「そうだよ。私は貴方が大好きなの。...中学校から」

「...美玖...」

「私はずっと貴方が好き。どんな形になっても貴方が好きだから」

「...」


俺は思い出す。

高校を卒業した時にコイツが何かを言おうとして口を閉ざした事を。

赤くなって口を閉ざして悲し気な顔に聞いても話をすり替えられた事を。

今から1年後の卒業式の日にコイツがなにか言いかけたのはこういう事だったのか。

聞き返せばよかったと。

ずっと前世では後悔していた。


「...」

「どうしたの?英二...」

「すまない。...美玖」

「ど、どうして...なんで泣いているの」


気が付くとポロポロと涙を流して泣いていた。

美玖の事を考えると涙が止まらなかった。

すり替えばかりやすれ違っていた前世の事を思うと泣かずにいられなかった。


「...すまない」


そう言うと美玖が周りを見渡してからモジモジして手を伸ばして遠くにある果実を取る様に俺の頬にゆっくり触ってきた。

それから背伸びをする美玖。

そして美玖の唇が俺の頬に触れた。

俺は「!」となる。


「...えへへ。泣かないの。弟くん」


弟くん。

それは成長期ながらも10センチぐらい差があった身長差もありその中で小学校時代に美玖が使っていた言葉だが。

それを聞いたのは小学校以来である。

そして美玖は俺の頬に手を添える。

俺は「...美玖?」と聞く。


美玖は苦笑いを浮かべる。

それから「小学校じゃ私が大きかったのにいつの間にかこんな身長...差になっちゃってまあ。頭を撫でたかったんだけど」と微笑みながら俺の手を握ってくる。

俺はその言葉に「お、おい」と赤面する。


「でも本当に大きいね。男の子の手って。しかもごつごつしている。私の手とえらく差がある」

「...なあ。ずっとお前告白されても付き合わなかったのって」

「一途だったから。小学校時代に出会ってから貴方だけしか見てない」


美玖の言葉に俺は唇を噛む。

それから俺は美玖を思わず抱きしめてしまった。

人が居るにも関わらず俺は強く美玖を抱きしめる。

そして俺は美玖に「...すまない」とまた呟いてしまった。


「えっとね。英二。...私ね。中学校から貴方の事を弟と思わなくなったの」

「...」

「中学1年生の時に自覚した。好きだった。5年ぐらいかな。この片思いだけどやっとこの気持ちを言えたよ。本当にありがとう」


そして美玖は俺の大きな背中をその小さな手で摩る。

美玖がこんなにも大きくなったのは前世ではなかった事だった。

身長が20センチぐらい違う。

だけどしっかりしている。

何というか美玖は本当にしっかりとしている。


「美玖。ありがとう」

「...うん」


後から美玖からはこう言われた。

「いつでも良いから。返事待ってるね」という感じにだ。


しかしまあ色々気付けるな。

今のこの世界は。

幸せ...に近い。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ