ハッピーエンドと、僕たち。7
彼はとても力強く、私を抱きしめてくれた。
「付き合おうか。俺たち。」
そう言った彼の言葉は、私に向けられているものだとはまったく思えなかった。
彼は、私を彼女と重ねて見ているのだろう。
彼が想いを寄せる、彼の姉と・・・
そうして、私と彼は恋人としてお付き合いを始めた。
驚いたことに、今まで女性の影がつきなかったはずの彼が、それから一切の女遊びを辞めた。
付き合えて嬉しいはずなのに、当初の私は彼と付き合っているという自信を持つことができなかった。
それはやはり、彼の姉の存在だった。
彼から直接家族の話は聞いたことがない。
私自身聞かないようにしていたというのもあるけれど、やはり気になってしまう。
彼と交際を始めてから半年ほどが経った頃、私はついに動き出してしまった。
彼はアパートで一人暮らしをしているが、週末は実家に帰省しているようだった。
その日の朝、彼のアパート前で物陰に隠れて、彼が家から出てくるのをひたすら待っていた。
3時間くらい経過して、そろそろ昼時になるという頃、彼がアパートから出てきた。
「え・・・」
アパートから出てきたのは、彼とその後ろにあの時のお姉さん。
アパートの中でなにがあったのかは分からない。
嫌でも想像してしまった。
『私が首をつっこんで良いような関係ではないのだろう』
そして、私はそのまま家路についた。
家に帰る道がこんなに長く感じたのは初めてだった。
あの日、彼に腕を掴まれて家路についた時は、いつの間にかアパート前についていたのに。
彼に告白をしてから目まぐるしく変化した日常を思い出していると、いつの間にか涙が溢れていた。
こんなにも自分が涙脆いなんて思いもしなかった。
『彼と出会ったからなんだろうな。』
彼は私にたくさんの感情を教えてくれたのかもしれない。
第一印象は最悪からの始まりだったけれど、こんなにも好きになってしまっていた。
『やっぱり、私は彼が好き。』
その答えに辿り着くまで、そんなに時間はかからなかった。
私は今日見た出来事を見なかったことにした。
そうすれば今まだ通り、また彼と付き合っていける。
最初から、あの人の代わりになるということで付き合ってもらったのは自分だ。
それに、ただ姉弟で同じ家にいただけ。
なんらおかしな事ではない。
変に想像して、1人で傷ついて、勝手に解釈して、バカみたいだ。
私はこの出来事があってから、感情のコントロールが上手くなった気がする。
これも彼と、何事もなく付き合っていくため。
好きな人のためなら、なんだってできる気がした。
私はいつのまにか、本当の顔にお面をかぶるようになっていたのだろう。
それからの私の人生は、とても良い方に動き出した。
バイトでも上手く立ち回れるようになり、周りの人間関係も向上した。
もちろん彼との関係も良好だ。
私は彼のおかげでこんなにも変われた。
このままずっと、彼の隣にいる私なら・・・
〜数年後〜
彼とお姉さんの関係はわからぬまま、私と彼は婚約した。
もちろん気にならないわけではない。
私も感情のコントロールはできるといえど、やはり嫉妬はしてしまう。
『彼と結婚するのは私なのに』
どうしても付き纏ってしまう、この劣等感が嫌になることもあった。
私の気持ちを知ってか知らずか。
彼はここ数年すごく柔らかい表情になった。
私を包み込んでくれる優しい腕も、耳にスッと入ってくる声も、たまに見せる優しい笑顔も・・・
全部私のものにしたい。
〜
彼女と結婚式をあげて、1ヶ月が経った頃。
あっけなく、彼女のみゆきは死んでしまった。