ハッピーエンドと、僕たち。5
ここ最近でたくさんの出来事が起こりすぎて、私は感情の制御ができていなかったのかもしれない。
親友の好きな人に罵倒し
その結果親友と不仲になり
親友の好きな人に好意を抱き
親友に彼氏ができたと友達伝いで聞き
自分の中で抑えていた気持ちが揺らぎ
そんな中で彼の姉に会い
彼はその姉に恋をしていると感じる
彼から直接聞いたわけではないけれども、彼が彼女に向ける視線には覚えがあった。
『憧れ』
『愛しさ』
『悲しみ』
そして、『哀れみ』
彼と彼女の間に何があるのかは、その時はまだ知らなかった。
「お姉さん、すごく素敵な人だね」
そう言った私に、彼は「そう?」と、ぶっきらぼうに答えた。
「旦那さんも、素敵な人なんだろうね。」
私は、少しイジワルなことを言ってみた。
彼がどのような反応をするのかを予想しながら。
しかし、彼の反応はまったく私が予想していないものだった。
「旦那なんてもういねーよ。」
「え?」
少しの沈黙の後、彼はそのまま何も言わずに立ち去ってしまった。
『もういない』というのは、どういう意味だったのか。
もうすでに離婚した?
それとも、死別?
もしすでに離婚をしているのなら、今でも結婚指輪をはめているというのは、おかしな話だ。
それならば・・・
1人になると、彼のことばかり考えてしまうようになってしまっていた。
学業にもバイトにも身が入らず、ミスばかりしてしまっていた。
私はとあるカフェでアルバイトをしている。
その日は遅番で、夜22時までのシフトだった。
21時過ぎになり、そろそろ閉店前の作業をしようと店長と話していた時、彼が1人でカフェに入ってきた。
びっくりしながらも、接客をしていると彼も気づいて話しかけてきた。
「ここでバイトしてるんだ。意外。」
意外とは、どういう意味だったのか。
おしゃれなカフェには似つかわしくないと言いたかったのか、少しムッとしてしまった。
私は少し引きつった笑顔で注文を受けた気がする。
彼は窓際の席に座り、ホットコーヒーを飲みながら何かの本を読んでいた。
すごく様になっていて、先ほどのムッとした気持ちはあっという間になくなってしまった。
あとで店長に「彼氏?すごくカッコいいね!」と言われたが、全力で否定した。
それからあっという間に閉店時間で、店内には1人の男性客だけになっており、いつの間にか彼も退店していたようだった。
その男性客にも退店を促し、閉店作業を行った。
「お疲れ様でした!」
店長に挨拶をしてから裏口から店を出る。
カフェの正面口は、駅までの大通りになっており、この時間でも人通りは多い方だが、カフェの裏口の方は街灯も少なく、夜だと少し怖く感じてしまう。すると少し先に人影が見えた。
もしかして・・・
淡い期待を抱きながら、大通りに出る通路に向かって歩いて行くと、1人の男性が立っていた。
・・・あれ?
先ほど最後まで店内にいた、男性客だった。
彼が待っていてくれたのかもしれない、と思ってしまったのを少し恥ずかしく思い、そのまま男性客の前を通り過ぎようとした時だった。
「きゃっ!」
私はいきなり、その男性客に手を掴まれて力強く引き寄せられてしまった。