本当のクズ。4
気がついた時には、朝になっていた。
そのままソファーの上で寝てしまっていたようだ。
昨日の出来事は僕の夢だったのだろうか。
しかし、真っ暗闇の中で見たのは、確かに姉だった。
「あんな時間に父さんの部屋で何してたんだろ。」
ポツリと独り言が出てしまった。
「・・・どうしたの?」
後ろからいきなり姉に声を掛けられて、心臓が飛び出てしまうかと思った。
そこには、いつものように笑顔の姉がいた。
びっくりし過ぎて変な声が出てしまったが、姉の態度を見ていると、昨日の出来事は夢だったのではないかと感じてしまった。
その日の出来事は、僕の中だけのヒミツにした。
〜数ヶ月後〜
その日も、金曜日だった。
母は、月に2回ほど金曜の夜は夜勤に出ていた。
この前の出来事は、僕の中ですっかり夢物語となっており、この日も特に気にはしていなかった。
「旭、早く風呂に入って寝なさい。」
夕飯を終えた僕に父が言ったその言葉で、あの日の出来事をはっきりと思い出してしまった。
そういえば、この前も母が夜にいなくて、金曜日だった・・・
しかし、2人に変わった様子はまったくなかった。
僕は確かめたくなった。
あの日の出来事のことを。
そして、今日起こるかもしれない出来事を。
僕はそそくさとお風呂に入り、寝支度をする。
姉はすでに自室にこもっているようだった。
緊張しながら、ベッドで横になって待っていると、姉の部屋の扉が開く音が微かに聞こえた。
『やっぱりそうだ。』
あの日見た姉は、夢ではなかったのだと確信した。
でももしかしたら、父の部屋で勉強を見てもらっているのかもしれない。
そんな事を思いながら、僕はゆっくりと姉の後を追った。
姉は何の躊躇いもなく父の部屋に静かに入って行った。
僕も静かに父の部屋の前に歩いて行く。
ゆっくりゆっくり歩いたので、部屋の前に到着する頃には、中で何かの話をしていた。
しばらくすると、中はシーンと静かになった。
扉に耳を近づけて、息を呑む。
その時の僕の心臓は、張り裂けそうなくらい大きな音を立てていた。
そしてまたしばらくすると何か聞こえてきた。
今まで聞いたことがないくらいの姉のか細い声。
2人の荒い吐息。
ベッドの軋む音。
そして、小学生になったばかり頃夜中に聞いた、父の甘ったるい声。
その時僕はハッとして、またゆっくりゆっくりと扉から離れて自室に戻った。
薄れゆく記憶の中にある、あの日の出来事。
そういえばあの頃から、母は月に数回、金曜の夜に仕事に出るようになっていた。