ハッピーエンドと、僕たち。1
その日は、とても暑かったのを覚えている。
暑くて暑くて、夜に何度も目が覚めてしまった。
階段を降りて1階のトイレへ行き、用を足してからもう一度寝る前に乾いた喉を潤した。
「・・・今日も、か」
その頃の僕は、まだ子どもだった。
何も知らないフリをした、子どもだったんだ。
毎日のように、1階のある部屋で起こっていることに目をつむり気付かないフリをしていた。
〜十数年後〜
ハッとして目が覚めると、そこには真っ白な天井。
そして、カーテンの隙間から朝日が漏れている。
「またか・・・」
ここ数日、毎日のように自分が子どもだった頃の夢をみる。
隣では気持ちよさそうな顔でスヤスヤ寝ている彼女がいる。
「もうこんな夢、見ることがなくなるくらい、幸せになれたらな・・・」
少しして彼女が目を覚まし、外出の準備をして出かける。
隣には可愛い笑顔の彼女と、僕。
2人笑顔で話しながら並んでいる姿は、側から見たら幸せなカップルに見えるんだろう。
もう少し、もう少し・・・
〜翌日〜
司会「お二人が出会ったのは、大学生の頃とのことで・・・・」
この日は、僕と彼女の結婚式。
子どもの頃から顔だけは良い僕は、女性関係で困ったことは今までなかった。
それは彼女にも言えることだが、彼女は正真正銘の善人だ。
出会いは5年前。
陰になりそうな僕に陽を照らしてくれた彼女。
学生の頃の僕は周りがほっとかないくらい、異質だったようだ。
親譲りの端正な顔立ちと体型。
そのくせ人とはつるまず、その場限りの薄っぺらい人間関係。
その薄っぺらな僕と関係を持っていた女がいた。
その女の親友・・とかなんとかだった彼女は、親友を傷つけた僕を説教しにきたのが初対面。
大の男に億劫もせず1人で怒鳴り込んできた女を、当初はもちろん鬱陶しく思っただけだった。
僕に説教するうちに、なぜか泣き出した女を見て、少し興味を持ったのがきっかけ。
「少し遊ぶつもりだけだったんだけどな・・・」
彼女「ん?どうしたの?」
少し首をかしげて聞いてくる彼女の様子をみると、可愛いなという感情が出てくるのがわかる。
まさか僕にこんな感情があるとは思わなかった。
「なんでもないよ」と小声で言うとまた笑顔を向けて微笑んでいる。
こんなに幸せが溢れている瞬間にも、僕の頭の片隅にはこんな感情が押し寄せてくる。
『こんなクズの僕が、幸せになっても良いのだろうか』