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アフターシキ  作者: 水無柘榴
5/5

悪人と神 1843~1865

悪人についてです。

1

 「私は神になる。」

 ダンテはそう言っていた。


2

 フェリクスとダンテは辺境の村に暮らす少年で、良き友人だった。

 ダンテには、他の人にはない特別な能力があった。

 彼はそれを、「生命を操る力」と言い表した。

 ダンテはその力を隠していたが、フェリクスにだけはみせてくれた。

 驚異的な能力だった。小さな鳥や虫などの生物であれば、自在に、思うがままに操ることができた。また、例えば転んで怪我をした時、ダンテは、「治したい」と思うだけで傷を治すことができるそうだ。

 生まれつき使えたわけではなく、ある日突然、使えることがわかったらしい。

 フェリクスは驚きこそしたが、ダンテに対しての態度を変えることも、秘密を洩らすこともなかった。

 二人は、本当に良き友人だったのだ。

 ダンテは10歳の時、家の都合で遠くの街に引っ越して行くことになった。

 フェリクスとダンテは別れを惜しんだが、最後に抱擁をして、別れを受け入れた。


3

 10年後のある日、「神は降臨した」と人間以外の全ての動物が20回発言した。

 人々は混乱した。政府内でこの事象のきっかけは何か、と議論された。

 その議論の場にダンテは突然訪れ、「私がやりました」と言った。そしてそこにいた全ての人間を、多くの動物を使って殺した。また、皇帝の城も同じように襲い、皇帝の一族と政府の要人を皆殺しにした。

 ダンテはあっという間に、もとあったリュカオン帝国を滅ぼしてしまった。やがてそれは革命戦争と呼ばれた。能力は成長とともに強まり、鷲や虎、象などの屈強で大きな生物も自在に操れるようになっていたらしかった。

 ダンテは神を名乗り、逆らったものは殺し、独裁を敷いた。そしてダンテは、名実ともに神になった。


 フェリクスは、ダンテの友人として、ダンテを止めなければならないと思っていた。ダンテの暴走で、多くの人間が不幸になったことは事実で、今もなお搾取され続けている。

 止めなければならない。同じ志を持った仲間と共に、神を殺すための組織を作った。組織を使って資金や兵力を集め、反逆の準備をした。やがて十分な数の兵が集まった。多くは、革命戦争や神の独裁で生活が困窮したり、家族を殺されたりした者たちだった。フェリクスはその頭目として、絶対的なカリスマとして、組織をまとめあげた。


4

 組織は、神に対して宣戦布告した。

 フェリクスは、神への反逆の意思を明らかにしたことで、神にとっての悪人となった。

 神は、好きにしろ、と、人間以外のあらゆる生き物を通して組織に伝えた。

 フェリクスら組織は全軍を率いて、正面から神の居城へ進軍した。神一人を殺すには十分すぎる兵力だった。

 道中、神の軍隊の動物は、小さな鳥が一定間隔ごとに数羽程度しかいなかった。神が帝国を滅ぼした時は簡単に見積もっても数万の動物がいたのに、今回は、敵となるような動物は一匹もいなかった。フェリクスは不自然に思い、警戒を強めるよう指示を出した。


5

 城の中に入り、玉座の間に至るまでも、罠も兵も何もなかった。玉座の間を目前とした狭い通路で、多くの兵士が突然歩みを止めた。

 兵士は振り返り、殺し合いを始めた。

 神の能力はさらに強まり、人間すらも操れるようになっていた。

 あれほど多くいた兵が、今では、フェリクス一人しかいない。

 神は、能力者は操れないらしかった。いや、そう思わせるために今回は操らなかっただけかもしれない。でも、暴走した兵士に、少なからずも組織にいた能力者は殺されてしまった。

 フェリクスは玉座の間へ入った。そこにはダンテ、神がただ待ち構えていた。


6

 神はフェリクスに言った。

 「お前を殺したくはない。だから、私に反逆するな。」

 「俺はお前の友人として、お前を止めてやらなくちゃならねえ。気乗りはしないがな。」そう言ってフェリクスは、銀の剣の先端を神に向けた。

 「そうか、悲しいな」神は飄々とした表情を変えないままに、涙を流してみせた。そして金色の、細くも力強い剣を抜いた。フェリクスは走って間合いを詰めた。ダンテは剣を広く低く振り、フェリクスを薙ぎ払おうとした。フェリクスは高く飛び上がってダンテの剣を避け、ダンテの利き腕、剣を持っている右腕の肘あたりを斬りつけた。ダンテは少しよろめきながらも、腕の傷はすぐに治り、剣を縦に振り上げた。フェリクスは躱し、ダンテの左肩と首の間を斬った。

 「無駄だ。」

 やはり傷はすぐに治り、フェリクスは左の腿を切られてしまった。

 激痛が走り、フェリクスは地面に膝をついて動けなくなった。

 「やはり悲しいな、お前ほどの男を、いや、一人の友人を、殺してしまうのは。」

 神は剣を大きく振り上げ、そしてフェリクスに向かって思いきり振り下ろした。


7

 しかし、神の振るった金色の剣は、「何か」にはじかれ砕けてしまった。

 「なんだ」神は戸惑った。

 「これが、俺の力、『フォートレス』だ。」

 フェリクスは返事を待たずに続ける。

 「あらゆる刃も力も通さない、最強の盾だ。」

 悪人はフォートレスを全体に展開しながら、神に歩いて近寄っていった。そして神を思いきり、袈裟懸けに斬りつけた。何度も何度も、飽きもせず斬った。

 神は叫び、傷は治っても痛みに苦しんだ。

 フォートレスは悪人の刃だけを通し、神はなす術もなかった。


 神の城に火が放たれた。

 「私が、この城に火をつけた」と神は言った。

 神はフェリクスが油断した一瞬、素早く動いて、天井に穴を開けた。大きな翼を広げ、「またな」と言って、空へと羽ばたいていった。

 フェリクスは城から脱出した。多くの仲間を失った。しかし、まだ諦めはしない。死んでいった仲間のためにも、ダンテは絶対に殺さなければならない。


8

 「触れた人間を殺す力を持った子供がいるらしい。」

 その噂はやがてフェリクス、悪人の耳にも入った。

 悪人は、その子供の力を欲しがった。世界がひっくりかえるかもしれない。

 神の力はあくまで再生。治癒だ。触れただけで殺せるならば、回復の余地すらなく、神を殺すことができるのではないだろうか。

 悪人は、死神の力の恐ろしさを知っていた。だから、死神の家にいた女を人質にして、死神を手に入れる。

 「何の用だ?」

 「お前には、神を殺してもらう」

人間たちの話です。

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