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アフターシキ  作者: 水無柘榴
4/5

アフターシキ 1885~1886

自分とは何者か?という問いに結論を出す話です。

1

 能力の研究をしていた、博士の住んでいた家を訪ねてみた。


 研究ファイル1

 本日より、能力の研究に着手。まずは、過去、現在の能力者のデータを分析。

 能力はこの大地、リュカオンだけで確認されている。

 30年ほど前に最初の能力が確認され、それから能力者は徐々に数を増やし、現在、国民の8割程度が能力を持っている。いずれ、すべての人が能力を持つようになる日が来るかもしれない。

 また、人間以外に能力を持っている生物はいない。


 研究ファイル2

 能力は、生まれつき使える場合と、後から使えるようになる場合がある。

 遺伝等はしないらしい。同じ能力は数例確認されているが、血縁等の関係はない、全くの他人であった。

 一般的には、能力は神がその絶対的な力を分割し、我々人間に配った、とされている。しかしこの説明では、能力が被ることとは矛盾してしまう。元あった力を分割しているなら、同じ能力が現れた例があるのはおかしい。それと、神がいきなり能力を分割し配る理由が説明されない。


 研究ファイル3

 被っている能力を持つ人々について調べた。

 ドミニク・ツィン

 ティナ・バレンティン

 この二人は、直接触れた生き物を殺す力を持っていた。両者ともすでに死んでいる。現在は彼らと同じ能力を持った人物はいない。

 ダイナ・ケルビン

 リン・エドマンド

 レア・ユーリス

 この三人は、超人的な記憶力を持っていた。レア・ユーリスは行方不明となっていて、生死不明。また、三人は外見がそっくりだったらしいが、血縁関係はないようだ。


 研究ファイルNo.4

 能力は、時間を跨いで被っている。

 同じ能力を持った人が同じ時に存在したことはない。

 能力が被っている人々は、すべて髪が生まれつき白い。

 白い髪の、悪魔。

 生まれつき能力が使える人もまた、全員白髪。

 彼らは悪魔なのか?

 悪魔が、人として死ぬ度に生まれ直して、別の人間として生きながらえてもおかしくない。

 悪魔はそれぞれの恐怖を象徴している。能力もそれにまつわるもn


 研究ファイルはここで終わっている。


2

 ファイルを読み終えたレアは立ち上がり、自分の髪に触れて見た。

 「悪魔の髪」

 幼い頃から、レアが何度も投げかけられてきた言葉だ。

 自分は悪魔などではないと思っていた。

 しかし客観的事実から考えて、自分は悪魔なのかもしれない。

 私のこの髪は、『悪魔の髪』なのかもしれない。

 レアは博士の家を離れ、難民キャンプに帰った。

 そこでは、シキで行く宛の無くなった人たちが寄り集まって生活していた。

 レアは元々帰る場所もなく彷徨っていた身だったが、難民キャンプには当然入ることができる。

 人々はそこで、分かち合い、助け合い、生活していた。

 キャンプの住人と挨拶を交わしながら、再び考える。

 この、他人より優れた記憶力が記憶の悪魔によってもたらされたものなら、なぜ私は普通の人間として生きているのか?


3

 それから数日が経ち、レアは、先の災害で神が死んだ、という噂を聞いた。

 神はこの世界の絶対的な支配者。その名はダンテ。

 「神は降臨した」という宣言とともに元あったリュカオン帝国を圧倒的な力で滅ぼし、40年ほど前から玉座に君臨して独裁政治を敷いていたが、その間、全く風貌に変わりがなく、不老不死と謳われた神が死んだ、らしい。

 ーえには、神を殺してもらー

 頭痛とともに、遠い記憶が呼び起こされる。男の言葉だ。

 私が直接聞いたものだろうか。覚えがない。

 前にもこんなことはあった。彼と初めて出会った時、私は今と同じ種類の、しかし非常に大きな違和感を覚えた。

 レアは空を見上げた。雲は重くのしかかって、向こう側が見えなくなっている。

 レアは母親のことを思い出した。母親は、自分の子が白髪の「悪魔」であることが受け入れられず、まだ幼かったレアを殺そうとした。しかし父親がレアを庇い、父親は死に、母親は逮捕された。どうしようもなく立ち尽くしていた時、彼と出会ったのだ。


4

 いつものように食料の配給を受けた。難民キャンプにいると、少ないながらも配給が受けられるのだ。これが、レアがキャンプで暮らす1番の理由であった。

 レアは、配給の列で前に立っていた女性が倒れたので、彼女を介抱した。

 女性はマーガレットと名乗り、レアに深く感謝した。

 マーガレットは、20歳代と言われても、40歳と言われても納得がいくような風貌をしていた。

 神が死んで、食料の配給が増えた、とマーガレットは語る。

 この前まではこれくらいしかなかったと、マーガレットは人差し指と親指で3cmくらいを示して見せる。

 そんなに少ないわけがないと思いながらも、「そうだったんですか」と反応してみる。

 マーガレットは目を細め、「信じてないでしょ」と言う。「はい」と答える。

 「ご明察」彼女はどこから持ってきたのか、大きな瓶の酒を取り出した。

 酒を器に注ぎながら、マーガレットは続ける。「でも、今より少なかったのは本当だよ」

 「どれくらいだったんですか?」「だから、これくらいだよ」また3cmを示す。

 レアは諦め、マーガレットが酒をぐいと飲む姿を眺める。

 「うっは、まっずう!」そう言いつつも、マーガレットは飲むのをやめない。

 「やっぱり、ダンテが死んだからなんですか、配給が増えたのは」

 「うーん、そうなんじゃないかなあ!」確実に酔ってきている。

 「じゃあ私、行きますね」

 「おっけー!またのもうねー」


5

 マーガレットとは毎日顔を合わせ話し、その度に親しくなっていった。彼女は、難民になった理由も教えてくれた。

 「革命戦争でねー」

 マーガレットはいつも、キャンプの出口付近の石造りの階段に座って、酒を飲んでいた。

 「家族も、みんな巻き込まれて死んじゃって」

 革命戦争については、本で読んだことがある。ダンテが数多の動物や人間を使って帝国を滅ぼした戦争、と書いてあった。

 「ダンテが数多の動物や人間を使って帝国を滅ぼした戦争」と声に出して言ってみた。

 「あ、そうそうそれ!」

 でもそれって、40年近く前になるんじゃ、、、

 「マギって呼んで、可愛がってくれてたんだけどね」

 そんなマーガレットは、微笑みを浮かべながらも、少し悲しそうに見えた。


6

 レアはキャンプ内で拠点にしているテントに戻り、いつものように眠りについた。テントとはいえど、人が入れるサイズの袋というわけではなく、小さなコテージのようなものがキャンプには多く設置されていて、そのうちの一つだ。浅い眠りだった。

 目覚めると、煙の匂いがした。外に出ると、キャンプが、燃えていた。

 すでに避難したのだろうか、人は一人もいなかった。

 キャンプの出口に向かうと、マーガレットが酒の瓶で人々を殴って、殺して回っている。

 人々は完全に無抵抗で、放心状態だった。

 マーガレットは狂ったように笑って、炎で崩れたキャンプの出口には見向きもしない。

 そこで目が覚めた。

 白い天井が、今見ている光景が現実であるということ、先ほどの光景が夢であったことを物語っている。

 我ながら、なかなかショッキングな夢だった、と思う。

 しかし、煙の匂いはした。

 レアが急いで外に出ると、それは魚を焼いている火の煙の匂いだった。


7

 マーガレットは、いつもいる階段の最下段に座り、今日はもう飲み始めていた。

 器に注ぐのもやめたらしく、瓶から直接飲んでいた。

 「あ、おはよー!」朝からアクセル全開だ。

 私はうまく返事できなかった。

 「どしたのー?」

 「いえ、私って何者なのかなって思って」

 「ていうと?」

 「私の能力は記憶力が良いことで、この髪色です。神話に出てくる、記憶の悪魔にそっくりです。私は、記憶の悪魔であって、レア・ユーリスという一人の人間ですらないのかな、と思ったんです」

 私は何を相談しているんだ。マーガレットに相談しても何か解決する問題でもないのに。

 「ふーん、まあ、難しいことはわからないけどさ、」

 マーガレットは一拍置いて続けた。

 「私にとって君は、レア・ユーリス以外の何者でもないよ?」

 私ははっとした。そうだ、自分が本質的に何者だとしても、誰かに一人の人間として、レア・ユーリスとして認められているなら、それでいいじゃないか。

 「ありがとうございます、マーガレットさん」

 「マギでいいよ。それと敬語もやめなさいっ」

 「ありがとう、マギ」

 「よろしい!」

 マギは酒をぐいと飲んで謎の歌を歌い始めた。

 レアは空を見上げた。空は青く澄み渡っている。少なくとも、今のレアにはそう見えた。


8

 その日の夜は非常に寝つきが良かった。布団に入ったら3分とかからず眠りについた。

 夢の中に、レアが現れた。

 でも「私」はレアのままで、その空間にはレアが二人いた。

 夢の中なのに意識があり、体を思うように動かすことができた。しかし、私の目の前の、もう一人の私は、私の意思で動かすことはできなかった。

 「あなたは?」

 レアは尋ねてみた。

 「おれはルーン。」

 もう一人のレアは答え、続ける。

 「記憶の悪魔だ。」


9

 「悪いが、おれとお前がこうして話していられる時間は少ない。聞きたいことがあるんだろう?」

 レアは考え、質問を一つに絞った。

 「私は、あなたなの?」

 ルーンと名乗った私は少し考えて、答えた。

 「そうであって、そうではない。」

 「どういうこと?」

 「お前は記憶の悪魔ではないが、お前の中に記憶の悪魔、つまりおれが存在してるってことだ。」

 わけがわからない。中ってどういうこと?

 「ああ、つまりだな、記憶の悪魔は、お前に、寄生のような形で、同じ体の中で、一緒に生きている。」

 「はあ? 勝手に人の体使って、生きながらえてるってこと?」

 「だから、その対価として、記憶力という報酬を支払っている。」

 「随分勝手だね」

 「そうだな」

 ルーンは続ける。

 「本当はお前も、これまでのことを覚えてるはずなんだがな、しくじっちまった。」

 「これまで?」

 「以前おれが憑いてた奴らの記憶さ。一つ前は、リンって名前だった。イビルにやられちまったからな。」

 少しの沈黙が流れた。

 「悪いが時間だ、もう行く。お前も、そろそろ起きる頃だ。」

 「わかった、ありがとう。」

 ルーンの表情が少し強張った。

 「おれは、お前に恨まれていると思っていた。」

 「いや、私が何者か、教えてくれたから。感謝してる。」

 夢の中の景色が、ルーンの顔が霞んでいく。レアは目を閉じた。


10

 目覚めると、白い天井が目に入り、現実を自覚した。

 これからも、しばらくはここで、配給頼りの生活が続くだろう。

 でも、生きること、幸せになることは諦めず、生きていこう。

「ルーン」超人的な記憶力を持つ。

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