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もしかしてご心配して頂いた方がいましたら、ご心配をお掛けしました。
数週間程前に娑婆に戻って参りました。
「其れで体調はどうなんだ?」と訊かれましたら、
「其れはまあ……」としか答え様が無いのですが。
でも、まあ、連載中断前、入院する前にお伝えした様に致命傷ではありませんから、其の点はご安心を。
頭もまあ大丈夫ですから。
其れではどうぞ。
こうしてコイツは一躍村の名士となった。
村を歩けば、声を掛けられ、握手を求められ、何なら、サインを頼まれたりもする。
当然タクヤは調子に乗る。何しろコイツである。如何にもなみんなのヒーローたる勇者として振る舞った。
(くっくっく。貧乏くさい辺境の田吾作どもめが。せいぜいこのオレを崇め奉るが良い)
最初はサインを求められた時には、当初は誰に披露する訳でもないのに既に完成の域に達していた“サイン”をしてやっていたが、やがてそれも飽きていいとこ簡略された手抜きとなったし、それですらめんどくさくなると、「バカ」とか、「アホ」とか、「ウンコ」とか、「うんこ」とか、「うんこちんちん」とか、「うんこぶりぶり」とか書くようになった。
(どうせ文字も読めないバカどもだ。学校にも行ったことのないような学のない低知能にはこれで十分だ。いや、奴らなんぞにゃ分に過ぎたものだ。何しろこのオレ様がじきじき書いてやっているのだから。せいぜいありがたがるがいい。)
…どの口でコイツは心中こんなことをほざいているのであろうか。
村人に「どうして自分の名前なのにこの前書いていたのと全然違うんだ?」とか、「どうして書く度に全然違ったりするんだ?」と訊かれると、「何しろ私はこの世界をあの大魔王から救った偉大過ぎる勇者だからね。世界中の国から色々な敬称や何なら尊いことこの上もない、神の名前だったり、大天使の名前だったり、歴代皇帝や教皇の名前だったりを授けられたりもしているのだよ。だから、私のファンに気遣ってやっているのであるよ。っていうのも、熱烈なファンともなると、私のサインのバージョン違いをコレクションしたくなることを、私は知っているのだ。故に、ファンサービスしてやっていいのだよ」
などと答えたりもしている。「全くコイツはどの口で」である。
何しろ大英雄――勇者である。放っておいても村人の好意で喰うには困らない存在ではあったが、ちょっとチヤホヤされようものならものなら、すぐに調子に乗って、更にチヤホヤされようとするのがコイツ――タクヤである。
必然と言うべきか、タクヤは語るようになった。
最初は第一村人宅の一室であったが、自称勇者の騙る自身の冒険譚は評判となり、彼の元を訪れる村人は日に日に増えてゆき、やがて老人の家は手狭になり、会場は村の広場へと移ることとなった。やはりと言うべきか、須らく別世界に元ネタのある物語は頗るウケが良く、村の外から彼の話を聞きに来る者も現れるようになっていった。
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