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gr 00 3-9

 やめろとはとても言えなかったり、言えない状態だってり。痛かったり、苦しかったり、意識が溷濁していたり、抑々意識其のもの無かったり…………。

 もう何なんだか…………。


 お医者さんも看護師さんやれるだけのことをやってくれているのだろうけど、退院の時の御会計は時価の高級寿司屋の如し。流石にぼっくりとは言ってはいないけれど。いくら私でもその程度は辨えていますから。


 ご一読頂けると作者は喜びます。

 其れでは本編をどうぞ。


 自分のことをさておいてよくもまあこんな発想が出来るものである。

(舌先三寸でこの原始人をものの見事に騙くらかして、このオレ様を神の如く崇拝させるのだ!

 なにしろくっそ低能でくっそチョロに決まっているからな!)

 改めて謂っておこう。

 全くもってコイツというのは……。

 だが、タクヤというヤツは息をするように大ウソをつくクズではある。ウソをつくのは数少ない特技の一つなのだ。

(いや、ここは神ではなく勇者ということにしておこう。それなら腐るほどストックがある。元ネタをこいつらが知っている筈がないからな!)

 なにしろタクヤはラノベやマンガが大好きなヘビーゲーマーの引きこもりのニートなのだ。いくらだってカッコいいエピソードをでっち上げられる。持ってこられる。しかも、とびきりグレートなヤツを。

「ジジイ、いや、おじいさん。私を助けてくれてありがとな」

 タクヤはニコッと笑みを浮かべた。

「急にどうしたんかね? やっぱり打ちどころが……」

「実は私は勇者なんだ。あの勇者様だったのだよ。頭を打った衝撃で記憶が蘇ったんだ」

 更にニッコリ。

「勇者って、さっき言ってた救世主だっていうのかね? ……それがアンタだと?」

「フッ。実はそうだっりするんだ」

 タクヤは語りだした。

「それは遥かなる昔のこと。その頃のこの世は剣と魔法が支配する異世界ファンタジーワールドだったのだ」

 唐突なタクヤの語りに老人はやや呆気にとられている。

「当時、人類は存亡の危機に立たされていた。そう、大魔王が降臨したのだ。そして大魔王は世界征服と人類根絶を企てた。狂暴かつ凶悪で超強い数えきれないほどのモンスターを放ったのだ。忽ちのうちに人類の九十パーセントの人類は抹殺され、世界の九十パーセントは大魔王の手に落ちた。そんな暗黒時代、風前の灯火となった人類を守護し、大魔王を討つべく、この地上に遣わされたのが、あの伝説の勇者たる私! そうこの私だったのだ! そして、この白い特攻服こそは唯一人勇者たる私のみが身に着けることを許された聖衣――正真正銘本物の勇者の証なのだ!」

 老人の表情はやや胡散臭いものを見ているかのように変化していたのだが、タクヤがそれに気付く筈もなかった。

「……大魔王とは一体……」

 タクヤは老人がしょうとした質問を遮った。

「オ……、私はバトルにバトルを重ねた。重ね重ねに重ねたおした! ホントに強いったら、ありゃあしなかったのた!」

 コイツはいつものように自分のつく嘘を妄信し、自身の語るホラ話に陶酔しつつあったのだ。

「そう!私は戦いに戦い抜いたのだ! そして、当然のこととして連戦連勝! ああ、なんという華麗で綺羅びやかな戦績であろうか!」

 自分で自分を大絶賛である。全く“自称・〜(ナントカ)”というヤツは……。

 そして、その挙げ句テンションMAXである。

「オ…、ワタシは血の雨を降らし、血の池をわんさか拵えた!そう! 拵えたのだ! 伝説の聖剣を振るいに振るい、数々の超高位魔法を乱発レベルに連発し、続々と出現するモンスターどもを次々と、殺して殺して殺しまり、オレ…、ワ、ワタシは全ての中ボスどもを血祭に上げ、いよいよ残すはラスボスたる大魔王のみとなった。

 そして、私は魔王城に乗り込んだのだ」

 老人の目はジト目となっていた。ちっとも血の氣の多さを隠せてなんぞいない。

「私は魔王城を守護する数々の強敵トモ……、いや、じゃなくて、それじゃなくてだな……、そう、難敵……」

(ナイス! ナイスフォローだ! ナイスフォローだオレ! 危うくクールな闇属性だってバレちまうとこだったぜ!

 看護をさせ、医療費を全額負担させ、温泉で完全回復するに至る其の日迄、ダッセーが光属性アピールは欠かせないのだ。僅かにでも世○末覇者王のオーラを悟られてはならないのだ!)

「……難敵たる小ボスどもを、中ボスどもも、メッタメタにギッタンギッタンに撃滅し、そして、いよいよ大魔王と対峙することとなった。

 大魔王はやはり滅茶苦茶に強かった。しかし、伝説の勇者たるこの私はもっと強かった! もっともっと強かった! もっと断然強かった! 比べ物にならない程に強かった! 私は遂に諸悪の根源たる大魔王をぶちぶちのぶっちぶっちにぶち殺したのだ!」

 この時に至っては、老人の瞳は可哀そうな子を憐れむもの以外の何ものでもなくなっていた。


 最後迄お付き合い頂きありがとうございました。


 お医者さんも看護師さんも何とかしようとして色々してくれてはいるのだろうけれども……。

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