gr 00 1-1
宜しくお願い致します。
お楽しみ頂けると嬉しいです。
1
その男――タクヤは、嘗ては手のつけられないワルであり、ケンカ最強。悪の限りを尽くし、そして、例のあの伝説の史上最凶最悪の武闘派暴走族の第十三代目総長であった。
……だ、そうである。
ちなみに十三と同じくくらいこいつが好きな数字は六六六である。この程度にはキ○スト教の知識があるのは、言うまでもなくゲームとかマンガとかライトノベルのおかげである。コイツは端から宗教なんぞというものはくそとも思ってはいないが、悪とか悪魔だとか、ワルいのは大好きである。
タクヤは一枚の写真をマスコミに公開している。
そこには確かに彼が――紛れもなくタクヤが――バリバリの特攻服に身を包んだ姿で写っている。いや、「写ってはいる」と言った方が正確であろうか。というのも明らかにいろいろとおかしいのだ。
第一にその写真における彼のポジションがあまりにも右寄りなのだ。
あまりにも右寄りに過ぎるーーもちろん、右というのは彼の思想に対して言及しているわけではない。彼はそんな小難しい話は好まないし、第一、そんな知性などないのだから。写真の話に戻ると右に寄り過ぎているというべきだろうか。もっと正確に言うと一番右の端で見切れてしまっているのである。“例のあの伝説の史上最凶最悪の武闘派暴走族”の、しかもその“第十三代目総長”たるものがそんな雑な扱いを受けるものだろうか? “例のあの伝説の史上最凶最悪の武闘派暴走族の第十三代目総長”たる者ならば、当然、写真のセンターでどんと構え、ヤンキー座りでもかましてしてイキがっていそうなものではないだろうか。それが見切れているって……。タクヤ曰く、「オレはシャイボーイだから目立つのがデーキレーなんだよ! それとも何か? テメエ、このオレ様にケンカ売ってんのか! ケンカ最強ナメんじゃねえぞ! 大車輪の餌食にすっぞ! わかってんのか? わーってんのか? クソが!」だそうである。だからと言って、見切れる必要はないのではないだろうか?
第二にこの写真に写っているうら若き娘さんがた皆が皆が、ここぞとばかりに、いわゆる晴れ着に身を包んでいることである。この写真が公開された折、当然のように、「これはとある地方自治体が催した成人式で撮られたものではありませんか?」という問いがなされたのだが、答えて曰く、「オレたちゃ死ぬほどカッケー死ぬほどイケてる伝説の暴走族だから死ぬほどモテんだよ! 特に十三代目総長であるこのオレは爆死するくれえモテモテなんだよ! そこらじゅうに追っかけの女どもが死ぬほどわんさかいるんだよ! どいつもこいつも死ぬほどオシャレだから死ぬほどキッチリめかしこんでやがんだよ! ホントのところ、女どもはどいつもこいつもみんなオレ狙いだったんだけどな! ん? テメエ、このオレ様がモテるわきゃがねえとでも言いてえのか? んなことあるわけねえじゃねええか! ブチ殺されてえのかこのヤロウ! ケンカ最強ナメんじゃねえぞ! 大車輪の餌食にすっぞ! わーってんのか? クソが!」とのことである。どうやら、この頃のタクヤは「死ぬほど」という言い回しにハマっていたようである。また、「死」という単語をなるべく多く口にすることが、ダークでビターでカッコイイとでも考えていたと見る向きもある。ちなみにタクヤの地元の貸衣装屋では晴れ着ととも特攻服のレンタルも行っていたそうだが、そういった自前の衣装を持たないガチではない、若しくはパチモンのゾクに最も人気があったのが、思い出の写真の中でタクヤがイキって着こなしている一品――白を基調としたトリコロールに、背中には金の刺繍で無駄に画数の多い漢字が何かしらのメッセージが刻まれているっぽく縫い取られている特攻服であった。
それではまた。また明日、またこのお時間にお目にかかりましょう。
お待ちしております。
御意見・ご感想等頂けるとの有り難いです。