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今宵もお付き合い頂けると嬉しいです。
「この辺じゃ見ない顔じゃし、小柄だし、醜いし……」
「コガラだと? ミニクイだと? どチビでブサイクだとでも言いてえのか! キサマは!」
どチビでブサイクだと言いたいのではなく、ドちびで不細工だと言っているのである。若し此の世界にオークと呼称される亜人種が生息していたのならば、“オ○ク顔”と呼ばれるに違いないレベルには不細工なのである。更に謂えば、此処の異世界は特に皆が皆、美男美女揃いという訳でも無いのにも関わらず、である。
超低沸点を誇るタクヤは「ああああああんっ?」とキレそうになったが、目の前のジジイは右手には鉄鎚、左手には鑿という強力な武器を装備している。
(それに対して、このオレは素手な上で深刻なダメージを負った身。右足の負傷で持ち前の機動力は封じられちまっている。オレは高名な機動戦士だというのに。クソ、今回だけは見逃してやるしかないのか。万全な状態ならば、逆に切り刻んでくれるものを。それどころか、無惨に飛び散らかして呉れるものを)
「何より恰好が突飛じゃし、第一そんな衣装着てるモンなんぞ、この年まで生きてきてとんとお目にかかったことがないからのう」
そう言いながら、お爺さんは両手の得物を枕元の小さなテーブルの上に置き、その脇の椅子を引いて、「どっこいしょ」と腰かけた。
「それともあんたは最近王都で流行っているコスプレとかいうごっこ遊びが好きなコスプレーヤーとかいう奴なのかね?」
タクヤはこの言葉にカチンときた。
(コスプレ? コスプレーヤー? ごっこ遊びだと? シバくぞ! オラ! 正真正銘の例のあの伝説の武闘派暴走族の第十三代総長たるこのオレに対してあり得ねえことほざきやがって! ソッコウ血ダルマの半殺しにされても文句の言えねえ禁句を吐きやがった! 無惨に飛び散りてえのか! このジジイ!)
タクヤはある意味でとある戦闘民族――サ〇ヤ人に似ている。サ〇ヤ人が死の淵から生還ことによって飛躍的に戦闘力をアップさせてゆくのに対して、タクヤは「オレってすげーだろ」というウソをつく度にそれを自らが真に受け、「オレってやっぱ超スゲー」という妄想をインフレの如く強化・発展させてゆくのだ。シーズンによってはゼロを二つや三つどころか、第一次世界大戦後のD国内のハイパーインフレーションの如き勢いでパワーアップするのだ。あくまでも妄想であり、実際の戦闘力に直結しているかどうかは定かではないが。
「それとも今あんたが着ているのはどこぞの王国の王族か何かの盛装かなにかかね?」
(王族。ロイヤルファミリー。まあそれも悪くはなかろう。故に今回だけは特別に許してつかわす。どうやら特攻服という強者の象徴たるこの正装がこの世界ではお馴染みではないらしい様だからな。だとしたら、当然その真価も理解出来るはずもあるまい。この傾奇具合とかエグいエッジの効きかたが理解出来ないとは、なんともはや不憫なジジイなこったな。あーあ。可哀そうなヤツだこと)
タクヤは気を取り直した。
「いいか、オレは決して口先だけのザコキャラなんかじゃねえ。っていうかまるっきりそんなモブじゃねえ。そこんところは肝に銘じておけ。まかり間違ってもたわけた妄言は許さねえ。じゃねえと天罰が下っかんな。無惨に飛び散らかすかんな」
「天罰、ですか」
「そうだ。なにしろこのオレは、もとい、このオレ様こそが、世〇末覇王…、じゃなかった。あの勇者なのだ」
タクヤは思った。
(ナイス。ナイスだオレ。流石だぜオレ。世〇末覇王じゃ世界征服しそうでなんか悪役っぽいからビビッて逃げちまいそうだからな。このジジイは利用するだけ利用しねえと。傷が治るまで看病させねえとな。医者代もこいつに払わせるのだ。その点、勇者なら如何にもな正義の味方のヒーローだから、こっちの方が絶対受けがいい筈だ。上級国民の贄になるのは民草の義務だからな。やっぱオレってあったまいい。まるで賢者じゃねえか。やっぱこのオレには義務教育など必要ではなかったのだ)
「勇者……、ですか。はて? 何ですかなそれは?」
「ちょ、ちょと待て!」
タクヤはこの異世界の目の間の異世界人の基礎学力の低さに愕然とした。あまりの教養の無さに何ならビビった程でである。何しろ“勇者”という基礎もいいところな必修ワードを知らないのである。本場の異世界人としてあっていい筈がないではないか。
「テッめえ、それマジで言ってんのか?」
「それはまあ……」
「本場の異世界人が、それじゃダメだろうが!」
最後迄お付き合い頂気ありがとうございました。




