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今宵も宜しくお願いします。
それでもコイツは基本的にとことこん前向きなヤツ(バカ)である。それでいてたちが悪いことに、自分というものに絶対の自信を持っていやがる。何しろ本人が自称するところの、「オレはケ○オウで、世○末覇王で、あの伝説のケンカ史上最強の武闘派暴走族の第十三目のカリスマ総長」――そしてその後も厨二心をそそる“自称”の肩書は、仮○ライダーク○ガこと五○雄介の得意技の如きに列挙することがコイツには可能であったし、其の後も増加のいっとを辿る。この言ったモン勝ちで、習得や獲得に一片の努力も要さない、そしてそれはそれ以上に、本人以外を誰一人笑顔にしない――まあ、人から笑いの種にされ、笑い者にはされるのではあろうが。兎に角、コイツが自分を疑うなどというのは、あの“L”――本当はRの自称・国○政治学者を色々な意味で疑うのと同レベルで有り得ないのだ。
「な、ならばこうだ!」
振り上げていた右手の、立てている指の数を一本から五本に増やし、掌をターゲットに向けるようにして、タクヤは利き腕を振り下ろした。
「ワハハハハ! クソジジイめが! 手間取らせおって! 我が必殺のファイヤーボールを喰らうがいい! 焼き尽くされて、骨も残さず灰燼に帰すがいい! 生きながらに、焼かれて焼かれて焼かれまくって、ご遺族手間いらずの火葬になるが……。
って、あれ?」
……何も起こってはいなかった。
何にも起こりはしなかったのだ。そんな予兆ですら、どう贔屓目に見てもピクリとも、しても一ミリも生じてはいなかったのである。相変わらず、高く澄んた青空と其処で囀るスズメのヤツが、嫌味なくらい牧歌的な演出を施してやがる。
「て、テッメエ、何だと! 一体何だ? 何なんだよ! このクッソゲーは!」
……いや、これはゲームではないのだが。それにクソだとすれば、それはコイツ以外の何者でもありはしないのだが。
「はっ!」
タクヤは事此処に至って致命的な事実に気が付いた。「…オレ、そういやあ、さっきから呪文唱えてねぇわ…」
だが、間髪入れず何処かに反論する。他者を非難する。自分の側に落ち度が有る筈がないのである。
「な、何でだよ! 呪文がわからねえ! 呪文がわかってねぇ! こんなバカなことありえねぇだろ!」
本来なら精霊の声が聞こえ、魔法の発動時に教えて呉れる筈なのだ。現地の古代語を何故だか知っている筈であり、ア○トネー○ャー位に自然と呪文が唱えらている筈なのだ。
それでもやはりコイツはとことんおめでたい。
「ま、まあ良い。精霊どもよ、今回だけは見逃してやる。さすがの此の伝説の世〇末覇王といえど、まだ環境に馴染んでいないからということにしておいて呉れようではないか」
その代わりにタクヤは再度右腕を振り上げた。そして、たまたま第一村人となってしまったお年寄りに向かって駆け出した。
そうである。
タクヤは魔力ではなく、武力に訴えることしたのである。必殺の拳には自信満々である。何しろコイツはケ〇オウなのだから。“拳”の“王”なのだから。自称だけれども。
タクヤは木々の間を駆け抜け、殺す勢いでお爺さんに襲いかかった。
「呆気なくくたばるがいい! 惨めな死骸を晒すがいい! 貴様はこの伝説の勇者にその身を捧げ、贄となる運命にあったのだ!」
世〇末覇王であったならまだしも、勇者としてはおよそあるまじきセリフを吐いている。
「死にさらせ! クっソじじい!」
結果から言えば、この振り上げられ必殺の拳が絶好のカモとして認識されたご老体に炸裂することはなかった。カッコイイいかにもなセリフを吐く為に多少脳に負担をかけてしまい足下が疎かになったせいかもしれないが、タクヤは自身の間合いに入る手前で路傍の石に躓いた。勝手に転んで、勝手に頭を打って、勝手に気絶し、タクヤは老人の前にその御姿を晒すこととなった。要するに、勝手に自滅したのである。
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