第52話 和やかな団らん?だと思うんですけど
なんだかんだと和やかな雰囲気のまま進む晩餐会。ご飯美味しい!
みんなの会話を聞きながらパクパク食べていたら、今まで静かにしていた叔父さまが突然口を開きました。しかも、私にだけ聞こえるくらいの声量です。
「兄さんから何か預かっていないか?」
「何も。というか、お父さまから頂いた物はドレスも宝石も全てマリエラが持って行ったじゃないですか。お父さまが亡くなってから私がどこに住んでたか知ってるでしょう」
「その話、ここでしていないだろうね」
「しなくてもバレてましたのでご安心ください」
なんなら、私のほうこそ虐待されてることをよくわかってませんでしたからね! それもこれもママンの「人間ってそういうところあるわよね」みたいな泰然とした教育の賜物だと思います。私もどっちかといえば人間側なのに、吸血鬼みたいな目線で叔父さまたちのこと見てましたし……。
「チッ、生意気なのは変わってないな」
そう言いながら叔父さまはお義母さまと目で合図。お義母さまはさも今思い出したかのようなお顔で明るく大きな声を出しました。
「暗い森には吸血鬼がたくさんいるというのは本当なのですか?」
「それで森に接する土地に住む我々が壁となって吸血鬼と対峙しているのですよ」
ルーシュさまが見慣れない笑顔で頷きました。そんな顔もできるんですか、あなた。
「ここへ来る道中で、行ってみたいわねって話をしていたのです」
「へ? 暗い森に?」
私が素っ頓狂な声をあげてもお義母さまは無視というか、ちらりともこちらを見ません。すごい、ある意味度胸があると思います。
マリエラもその話に大きく頷いて甘い声で囀るように会話に加わりました。
「社交の場でもとっても話題なんです。すごくおどろおどろしい場所だという人がいたり、本当は吸血鬼なんていないのだと主張する人がいたり」
「ははは。吸血鬼がいなかったら我々は一体何と戦っているのか」
ルーシュさまめっちゃ笑ってるけど目だけ全っ然笑ってません。怖い! でもそれに気づかないマリエラはここぞとばかりにお喋りを続けます。
「それはセルシュティアン様が社交の場にお顔をお出しにならないから、みんな好き勝手に言ってるんですわ。なので、わたくしたちを連れて行ってくださいませんか?」
「連れて行く?」
「ええ! そしてわたくしがお土産話を持って帰るのです。みんなはもう好き勝手な話をしなくなるし、わたくしはちょっぴり自慢ができますもの」
以前ブリテさんがマリエラのことを「華があることで社交界でも有名だ」と言っていましたけど、まさしくその通りという感じ。整った可愛らしい顔を小さく傾げた姿がお花みたいです。
そういえばブリテさんもルーシュさまに似たような仕草をしていましたが、なるほど、男性に媚びるときにはこんな表情や仕草をすればいいわけですね。
若い男女が一緒にいるところを見る機会があまりなかったので勉強になります! ただルーシュさまのほうは表情が変わらないので、効果のほどは……うーん。
「言いたい奴には言わせておけばいいと思うが……」
「昼間に少しくらいなら平気なのではないかね?」
おじいさまが柔らかな声でそう言いました。彼の対面でマリエラはキラキラと瞳を輝かせています。
「ええ、ええ、きっとそうですわ!」
というわけで、翌日私たちは暗い森へ向かうこととなりました。もちろん、先日ルーシュさまと一緒にランチを食べたお店のほうから森へと入る予定です。
食事を終えると、プレイルームに集まって好き好きにゲームを始めました。カードゲームもボードゲームも、おじいさまの強さがとびぬけています。イカサマでもしているんじゃないかしら?
婚約者であるルーシュさまはもちろんのこと、おじいさまも今夜はひときわ私に優しいです。どうして……と思っていたら、おじいさまが小さな声で「まんまと嫉妬しとるわ」と楽しそうに言いました。その視線の先にはマリエラ。
「嫉妬?」
「わからんのならわからんでいい」
ふははと笑いながら私の頭を撫でて、おじいさまはまたゲームに戻って行きました。そういえば今日は言葉遣いを注意されないので、きっと私の淑女力は急上昇したに違いありません。
入れ替わりにルーシュさまがいらっしゃいました。
「疲れたろう。少し外の空気でも吸いに行こう」
「ホストがふたりとも出てっていいの?」
「そんなにたいした催し物じゃない。それに、人たらしのオーギュストがいる」
確かに、おじいさまは長く生きただけあって人の心を掴むのがお上手です。叔父さまでさえまるで信奉してるみたいにおじいさまの話に聞き入ってますからね。
ルーシュさまに連れられてやって来たのは庭でした。季節は冬に入ったところ。夜ともなるともうすごく寒くて。ルーシュさまがジャケットを掛けてくれたのでどうにか生きていけそうです。
「恐らく明日のうちに決着がつく」
「え、早。あの人たち今日来たのに、もう?」
「すぐに出発すれば雪に閉じ込められる前にダスティーユを出られるからな。春になれば王都での社交が始まるし、その前に伯爵位をどうにかしようとするなら……」
「私のこと殺しそうな感じだった?」
あの人たちはいつも私に冷たいので、殺意の有無がよくわかりません。でもルーシュさまは何も言わずに私を抱き締めて「いや」と一言。結局どっちだかわかんなかったです。




