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伯爵家の離れに追いやられていた黄昏の姫君は、公爵令息の期限つき婚約者になりました。  作者: 伊賀海栗


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第51話 晩餐会が始まります


 日が落ちて、私の部屋にはメイドたちが集まっています。


「お茶ひとつ淹れるのに時間かかりすぎじゃないの」


「あらー、いいお菓子食べてるのね!」


「わたしたちに侍女はつけないわけ?」


 メイドたちが口々に訴えているこれは、義母と妹が実際に浴びせかけた言葉だそう。何か文句を言われたら報告してねと言ったらみんな集まって来て、まるで月夜の猫集会みたいになっています。せっかくなので美味しいお菓子でおもてなしをして、怒りを鎮めようと頑張っているところ。ドバリーでマカロンをたくさん買って来て良かったです。


 でもこれから歓迎の意を込めた晩餐会となるわけですけど、本当に歓迎したくない人たちですね!


 マカロンに満足したメイドたちが部屋を出て行ってしばらくすると、ノックの音。しかもこちらが返事をするより前に扉が開きました。アニェスが私の前に立って扉を睨みつけます。

 暗殺を企ててる疑いがあるってマダムから連絡をもらって以来、アニェスはこんな風に私を守るような動きをすることが多くなりました。私はちょっとやそっとじゃ死なないんだから、もっと自分を大切にしてって言ってるんだけどな……。


「ねぇエリスお姉さま……ってなによ、侍女の躾もできてないの?」


「世界中に自慢したいくらい素晴らしい侍女よ」


「ふん、よくわからないけどまぁいいわ。ねぇお姉さま、ドレスを貸してくださらない? いま着てるような素敵なドレス、他にもあるんでしょう?」


 彼女がいま着用しているドレスだって十分素敵なものだし、晩餐会用にもっと質のいいものも持って来ているでしょうに……などと思っていたら、アニェスがクローゼットへ向かいました。


「こちらでしたら()()()できます」


 アニェスがそう言って持ち出したのは、こげ茶色のデイドレスでした。どこかで見たことが……と思ったのですけど、これは宝石を外してメイドにあげたやつですね。いろいろ直したらまた着れそうって言って、私が捨てるのを躊躇ったんです。


「なによ、ほつれてるじゃないの……ってこれ、飾りを外したのね? こんなのいらないわよ。しかもデイドレスじゃないの、バカにしないで」


「しかしこの状態のものであっても、いまマリエラ様がお召しになっているドレスより価値がありますわ」


 にっこり笑ったアニェスですけど目だけ全然笑ってない。すごい、アニェスも虫を見る目ができるタイプの人だ、すごい。


「な……、ち、違うわよ。くれなくていいから貸してって言ってるの」


「下位の者の着たものをエリス様に着せ付けるわけには参りませんので、下げ渡す以外にありません」


 すごい、どこまでもマリエラの自尊心を傷つけていくスタイルだ……!

 結局マリエラはぷんすか怒りながら自分の部屋へと戻って行きました。アニェスは「お見苦しいものを」って謝罪してくれましたけど、見苦しかったのはマリエラなので姉として私が謝るべきな気がします。

 とはいえ彼女の情操教育に私は携わってないし、まぁいっか。


 そんなこんなで私も晩餐会の準備をして、食堂へと向かいました。いつもより豪華な食事をいつもよりたくさんの人たちで食べて、飲んで。その後はゲームをしたりお喋りに興じたりするのが晩餐会だそうです。

 初めての体験にわくわくする一方で、参加者が叔父さまたちなのが残念でなりません。


 綺麗にセッティングされたテーブルには六人分の席が用意されていました。カツーハの三人と私とルーシュさまと……公爵さまかしら。体調がいいなら素晴らしいことだわ。

 カツーハの一行を迎えたところで、若い男性の声がしました。


「遅刻してしまったかな?」


 侍従の案内でやって来たその男性は、なんとおじいさまでした。


「おじ――っむごごごご」


 ルーシュさまに口を塞がれました。おじいさまであることは内緒みたいです。確かに、こんな好青年な見た目で「おじいさま」はおかしいですもんね。


 ルーシュさまが昔からのお友達みたいな顔でおじいさまの肩を抱き、カツーハの面々に彼を紹介します。


「オーギュストだ。オーギュスト・フォン・ギーレン。『暗い森』を挟んだ向こう側からはるばる来てくれた」


 あら? ママンの名乗る名前と家名が違いますね。どっちかが偽名なのか、それとも両方本名なのか……吸血鬼って名前や戸籍をいくつも持ってたりするのでよくわかりません。


 というわけで着席します。六人掛けのテーブルの真ん中で向かい合うように私とルーシュさまが。ルーシュさまの両脇に義母とマリエラ、私の両側に叔父さまとおじいさまという席次です。


 横にルーシュさま、目の前におじいさまという美形に挟まれた席に大喜びなのがマリエラで、満面の笑顔を双方に振りまいていますね。


「暗い森の向こうというとお隣の国ですわね。刃物の鍛造技術が素晴らしいとか」


 マリエラが貴族っぽくちゃんと話してます! そんなことできるんですね、我が妹よ。おじいさまは楽しそうに笑って首を横に振りました。


「はは。我が領地は木製の工芸品が主な産業ですよ」


「あっ! 木工細工でギーレンと言うと辺境伯様でいらっしゃいますか」


 えー! ギーレンって実在するんだ……。

 見たことないような可愛らしい表情でお喋りするマリエラや、実在する名前だったことに驚いていると今度は義母の声が聞こえて来ました。ルーシュさまに話しかけてるみたい。


「エリスは平民の期間が長かったものですから、あの通り物を知りませんでしょう。何かご迷惑をお掛けしてはいませんか?」


「おかげさまで退屈しない日々を過ごせていますよ」


 いやそこ否定するところじゃないんですかね?

 そりゃあ否定できるような材料なんてないんですけども。物は知らないし迷惑掛けてるし!


「んまぁ、なんだか申し訳ないわ。マリエラでしたらきっと何事もそつなく対応できたでしょうに、申し訳ありません」


 ほらー! ここぞとばかりに妹をオススメしてるじゃないですかーもー!





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