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伯爵家の離れに追いやられていた黄昏の姫君は、公爵令息の期限つき婚約者になりました。  作者: 伊賀海栗


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第50話 虫を見る目って難しいです


 お誕生日から十日が経ちました。

 ベッカ夫人にしごかれて、アニェスたちに磨かれて、私の令嬢度は抜群に絶好調です。語彙は増えてませんけど。


 私とルーシュさまは今、領都はジルラブレ通りのドバリーというパティスリーに来ています。天井画がかの有名なナントカ言う人の作品で云々とルーシュさまが語っているのですが、ちょっとよくわかりません。

 でもおすすめされたデザートは美味しかったです。クリームたっぷりのプリンに色とりどりのマカロンが添えてありました。見た目にも可愛いし美味しいし最高ですね。


「そろそろ着く頃か」


 窓の外を眺めながらルーシュさまが呟きます。


 実は城を出る直前に叔父さまからもうすぐ到着するよって先触れが来ていたのです。それでも私とルーシュさまは気にせずお出かけ。というのも、怒らせたほうが冷静な判断ができず短絡的な行動に出やすいはずだとルーシュさまが主張するからです。


 彼らを普通の客人として対応したくないというのが一番なのですけどね。


「やっぱりどんな顔して会ったらいいのかわかりません」


「嫌いな虫を見るような目つきをするのが正しい」


 ルーシュさまの目つきがいつも悪いのってそういうことだったのかしら? って思ったら面白くなっちゃいました。


「ルーシュさまは周りの人が虫に見えてるの?」


「……は?」


「ほら、その目!」


「あのなぁ……さすがに虫には見えてない。だが時にはなぜこうも当たり前のことがわからんのかと、人間ではない何かに感じることがあるな」


 ルーシュさまの表情の変化がわかるようになってからは全然怖くなくなりました。今もちょっと笑ってるし。

 表情を読み取るのはベルのほうが上手だから私だけというわけにはいかないけど、でも他の人にはわからないことがわかるのは優越感です!


「私のことは子猫ちゃんとか言ってくれればいいです」


「良心的に見積もっても子猿ちゃんだろう」


「はぁ?」


「ほら、そろそろ城へ戻ろう」


 ルーシュさまと一緒に城へ戻ると、叔父さまたちがエントランスで揉めているようでした。先触れを出したのに誰ひとり迎えに出ないとはって怒ってらっしゃるみたい。


 私たちが戻ったのを家令が迎えてくれましたが、叔父たちの視線が突き刺さります。わぁ怖いですね! エントランスといってもお城ともなればとても広いので、彼らにご挨拶する前にもう少し詳しく状況を確認しておきましょう。


「なぜあんなに怒っているの?」


「家人の出迎えがなかったことと、客室への案内がないことだろ?」


 家令の回答よりも前にルーシュさまがそうおっしゃいました。家令はその通りだと深く頷き、補足します。


「少なくとも姪であるエリス様は出て来て然るべきだろうと。百歩譲ってそれさえ難しいのであれば、すぐに客室に案内するのが道理ではないかと」


「確かに普通ならそうするよね。長旅ご苦労さまって感じだし。普通なら、ね」


「だが普通ならそうされなくてもあれほど怒ったりはしないものだ」


 それは確かにその通りだと思います。

 私は社交界にデビューしてないし貴族の人たちの常識とかわからないけど、円滑なコミュニケーションを考えれば怒りは抑えるものだと思います。目上の相手のテリトリーでは特に。


 私はルーシュさまのエスコートで叔父たちのそばへと向かいます。


「ご無沙汰しております、叔父さま。それにお義母さまとマリエラも」


 ベッカ夫人にめちゃくちゃ注意を受けたよそ行きの笑顔を貼り付けて声を掛けました。本来ならルーシュさまが当主代理として真っ先にご挨拶するべきなのでしょうけど、今回に限り私が主体になってくれって。

 なんでも、以前カツーハにいらしたときに自己紹介をしなかったから紹介して欲しいそうです。あの時は腹が立ってする気にならなかったとか、なんなんですかね、強者の考えることはよくわかりません。


 叔父さまは目をまん丸にして椅子から立ち上がります。お義母さまとマリエラも驚いた顔でこちらを見つめました。


「お前、エリスか」


「はい、叔父さま。お久しぶりですね。お出迎えが遅くなりまして失礼いたしました。それでこちらが――」


 ルーシュさまをご紹介しようとした矢先、お義母さまが大きな声をあげました。


「あ、あなた! なぜ騎士を侍らせて……っ! ご、ご令息様と婚約したのでしょうっ?」


 義母の視線の先にはルーシュさまです。騎士を侍らせて……?

 あ、ルーシュさまが騎士団の制服をお召しだからその辺の騎士だと思ってるんでしょうか。そっか、自己紹介してないってことはカツーハでは使いの騎士という認識でしかなかったんですね。

 そういえば私もこの目つきの怖い人がルーシュさまだと知ったのは馬車に乗ってからでした。


「あばずれ」


 マリエラが囁きました。

 でも高貴なる女性が騎士を連れ歩くのは普通のことだとベッカ夫人も言ってました。ルーシュさまがいらっしゃらないときには、どこに行くにもベルをはじめとした騎士団の誰かを同行させなさいって。

 だから騎士が横にいるのは至って普通のことなので……。まぁそうでなくとも「あばずれ」はどこに出しても恥ずかしい侮辱表現ですわね、はい。


「マリエラ、いまなんと言ったの?」


 ルーシュさまにご指導いただいた「虫を見る目」に挑戦します。マリエラは虫。マリエラは虫。

 すると彼女は少し狼狽えた様子で一歩下がりました。


「な、なによ。だってそうでしょ。見た目のいい騎士と密着しちゃって」


 ルーシュさまを見上げると、本物の虫ケラを見る目でした。凄い。


「皆さまにご紹介しますね。こちら、セルシュティアン・ニノ・ド・リュパンさま。ダスティーユ公爵のご令息で『銀の暁光騎士団』の団長でもあります」


「ヒェッ」


 叔父さまがびしっと背筋を伸ばしました。





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― 新着の感想 ―
[一言] さっそくやらかしてますねえ、叔父さん一家。 これから楽しみ♪
[一言] >「やっぱりどんな顔して会ったらいいのかわかりません」 笑えばいいと思うよ( ˘ω˘ )
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