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第4話 両親にも若い時代があったんですね


 ダスティーユの領都、すごいです。大きな建物がいくつもあって、教会の塔はすごく高くて。それに街灯がたくさんあるから全然暗くないの!


 公爵様がお住いになるダスティーユ城は領都の中心部からさらに北に行ったところにありました。石造りの白い壁に赤いとんがり屋根がすごくすごくかわいくて、きょろきょろしてたらルーシュさまに「うるさい」って言われました。喋ってないけど……?


「目にうるさい」


「何も言ってないのに!」


「顔に書いてある。もうすぐ着くから大人しくしていろ」


「へーい」


 ここまでほとんど無言だったけど、そう言った彼の表情はもう怒ってないみたいでホッとしました。もちろん、相変わらずの仏頂面ではあるのだけど。


 細くて長い橋を渡って城内へと入ります。門が開くのを待ちながら、ルーシュさまが口を開きました。


「さっきの吸血鬼が『ミネット』と」


「あー。ママンの名前がミネットです。ミネット・バダンデール。間違われるくらい似てるなら嬉しいなー、ママンすごく美人だったから。ただ、あの人がなんでママンを知ってたのかはわからないです」


 はちみつ色の髪とアメジスト色の目がママン譲りなのは知ってたけど、髪質はママンみたいに真っ直ぐじゃないし、ママンみたいなぽってりした色っぽい唇でもないから似てると思ってなかったです。

 もしかして色気、出ちゃいましたかねー?


「ああ、そういえば確かに昔ミネットという女がいたな。城に肖像画もある。言われてみれば面影がある……か?」


「肖像画? ルーシュさまはママンを知ってるの?」


「カツーハ伯爵と一緒に描かれていた。詳しいことは父から聞いてくれ」


 すっかり開いた門をくぐって城内へ。カツーハの屋敷が百個くらい、いえ、もっとかしら、たくさん入るくらい大きなお城だからドキドキしちゃう!


 たくさんの従者が並んで私たちを、っていうかルーシュさまの帰りを待ってました。すごいです。


「母が死んでこの城は女主人が不在だから侍女もいない。手配はしてあるから、到着まで不便だろうがうまくやってくれ」


「侍女なんて私についてたことないので大丈夫です」


「……だろうな」


 馬車を降りると、メイドさんがお部屋に案内してくれることになりました。もう夜中だし公爵さまはお休みになってるそうです。だからご挨拶は明日することにして、今夜は寝ろってルーシュさまが。


 案内されたのはダンスホールみたいに広い客室でした。ダンスホールだなんて言い過ぎな自覚はありますけど、そう思っちゃうくらい広いの!

 メイドさんに手伝ってもらいながらお湯に浸かって、ふかふかのベッドに転がります。すごい、このベッド冷たくない!


「あの吸血鬼……。なんでヒトを襲うんだろ。カツーハのみんなはもっと平和に食事してたのに」


 今夜の事件を振り返ろうと思ったんですけど、ベッドの心地よさが天国みたいで無理でした。すぐ寝ちゃった。スヤァです。


 朝になって、メイドさんに手伝ってもらいながらお仕度。そしていざ公爵様とご対面です!

 応接室にはすでにルーシュさまがいました。壁紙は薄いストライプで全体的にカツーハの応接室よりシンプルで、こう、背筋が伸びるようなお部屋。その中心にあるソファーに座っていたルーシュさまは、私に隣に来るよう軽く手を振ります。


「昨日のもそうだがひどい服だ」


「そう? 私の所持品の中ではマシなほうですけど」


「まず生地が擦り切れている。着丈も合ってないし、シミだらけだ」


「シミ……花柄に見えませんかね」


 一瞬目を丸くしたルーシュさまがこめかみに手をあてて項垂れてしまいました。見えないみたいです、花柄。


 そこへ公爵さまがいらっしゃって、ご挨拶をします。ここには義母がいないので、昔習った方法――片足を後ろにひいて腰を落とす淑女の礼(カーテシー)を。って、あれ。手はどうするんでしたっけ。あ、待ってバランスが……!


「わ、わ」


「慣れないことをするな」


 ルーシュさまが支えてくれました。さすがの反射神経。

 公爵さまは「わはは」と笑って、杖をつきながら私たちの対面の席へと座ります。


「エリスだね。遠いところをよく来てくれた。結婚前に同居など普通はしないんだがね」


「あれは酷かった」


 ルーシュさまと公爵さまが頷き合いました。はて、なんの話かしら?


「実は、セルシュティアンにはカツーハへ向かうに当たって『何か問題がありそうなら』本人を連れて来るようにと言っていたんだ。残念なことに問題大アリだったようだね」


 ちょっぴり白髪の混じる茶色の髪を後ろに撫でつけた公爵さまの目は、ルーシュさまとそっくりな太陽色。その目が私の姿を見て困ったように細められました。


「問題、ですか」


「コイツは自分が虐げられていたという自覚がない」


 きょとんとする私にルーシュさまが肩をすくめて見せます。虐げ……あー、確かにそういう風に見えるかも?


「血の繋がらないお義母さまはもちろん、妹にとっても私なんて他人同然ですからそういうものだと。でも領地のみんながとっても良くしてくれるから、幸せでしたよ」


「ああ。表情を見ればわかる。いい土地だったんだね」


 頷いた公爵さまが小さく咳ばらいをして、「少し長い話になるけれど」と前置き。私とルーシュさまはソファーに座りなおして背筋を伸ばします。


「君の父アロンソは昔、ここダスティーユの騎士だった。彼には兄がいたから世の次男三男と同様に剣をとったんだね。最初は王国の騎士団に所属していたが腕を買われて我が『銀の暁光騎士団』へ」


「はえー」


 全然知らない話でした。公爵さまのお話はまだまだ続きます。


 父は公爵さまと仲良くなって唯一無二の親友となり、また、騎士団員の憩いの場であった酒場の看板娘と恋に落ちた……それが後のママンであるミネットだったと。


「ふたりは結婚を約束していたが、カツーハから彼の兄が急逝したと連絡がきた。爵位は弟に譲ると言っていたんだが、葬儀から戻ったアロンソは一転、家を継ぐことにしたとミネットを置いて行った」


「は?」


「それが貴族なんだよ、エリス。カツーハ伯爵ともなれば、平民と結婚するわけにはいかないんだ。しかし数か月後、ミネットの腹に新たな命が宿っていることがわかってね。彼女はカツーハへ向かった」


 言葉を区切った公爵さまが私に柔らかく微笑みました。




明日からは1話ずつ更新予定です

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[一言] そんな過去が……( ˘ω˘ )
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