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伯爵家の離れに追いやられていた黄昏の姫君は、公爵令息の期限つき婚約者になりました。  作者: 伊賀海栗


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第29話 どんな言い訳をしても、俺のミスだ


 夜通しエリスの姿を探して歩いたが見つからなかった。


 宿舎に戻ると部下たちは完全に二分されていて、得意げなイアソンたちと白けた空気のその他、といった様子だ。

 ふんぞり返ったイアソンなどは俺たちの鼻を明かした気でいるようだ。いや、実際驚いたし少なからず衝撃を受けた。それに深く傷ついてもいるが。


「情に眩んでふぬけた団長じゃないですか、バケモノは見つかりましたか。はっ、見つかるわけねぇか、仲良く飛んでったもんなぁ!」


「イアソン、昨夜の行動について説明しろ」


「スパイが吸血鬼と密会するってタレコミがあったんで、俺が動かせる奴動かしたんですよ。正解だっただろ」


 周りの奴を鍛錬に出してイアソンと向かい合う。こいつは自分が正しい行いをしたと信じて疑わない顔をしてやがる。


「そのタレコミをしたのはブリテ嬢だな」


「だったら?」


「なぜその情報を彼女が持っているのか確認は?」


「重要なことじゃない」


 あーくそ、そろそろブン殴っていいか、こいつ?


「ブリテ嬢が若い男とよく会っていると灯火亭の店主が言ってたのは覚えてるな」


 じろりとこちらを睨みつけるイアソン。その話はなんの関係があるのかって目だ。自分の正義を疑わない奴はこうして自ら必要な情報さえ遮断してしまう。これだから頭の足りない奴の相手は面倒なんだ。


「その相手の男が吸血鬼だ」


「は? またまた、冗談きついですよ団長」


「落ち着いて考えてみたらどうだ。エリス本人がブリテ嬢に吸血鬼と会う予定があると言うか? もし本当にその予定があっても並の思考力があれば言わない」


「それは吸血鬼も同じだろ、なんでわざわざ予定を報せるんだよ」


「奴らがエリスを欲しがってるとしたら? 俺たちから孤立させる計画だったら? 大成功だな、短絡的な考えしかできない奴のおかげで完璧な計画になった! エリスはお前たちに追われて帰る場所を失くし、俺たちは命の恩人をみすみす敵の手にやってしまったんだ」


 イアソンは顔を真っ赤にしてぶるぶると小さく震えている。興奮しつつも反論が見つからないってところだな。視線を左下に移しながら絞り出すような声で言う。


「欲しがるってことは、結局バケモノだってことでしょう」


「世にいる吸血鬼ハンターの混血率を知ってるか。奴らの居場所を探れる混血はある意味で奴らの天敵だ。それだけでも十分な理由になるだろう」


「ち、違う。アンタは、団長は騙されてんだ」


「これ以上話すことはない。お前は指揮命令違反および利敵行為によりなんらかの処罰を与える。詳細は追って。それまでは謹慎だ」


 宿舎を出ると、中から暴力的な音が聞こえた。

 備品が壊れてたらあいつの給与から差し引いておくか。いやもう給与はなしでいいか。ああいう奴のせいで備品はいくつあっても足りなくなる。


 少し離れたところにベランジェの姿を見つけたが、彼は目が合うなり場所を変えようと手で示した。


 ベランジェにはブリテ嬢が夜遊びを始めた当初に周辺を確認させたが、ひとりで灯火亭に入るだけだったため油断していた。まさか店内に吸血鬼がいるとは思わないだろう。ベランジェだって中に入ってまで相手を確認するわけにはいかないし。

 昨夜、俺たちが灯火亭を引き上げたあとで念のため店主に確認したら、案の定ブリテ嬢の相手の男の顔には大きな傷があったと言う話で。部下たちには今後二度と灯火亭で仕事の話をするな、何があろうと勝手に動くなとは伝えたが……。


 ベランジェとふたりで城内の手近な部屋へ。


「ルーシュが言ってたあたりを調べたけど、エリス嬢の足取りはまるで掴めなかったよ。傷がすぐ治るおかげで血痕もないしね。出血の心配をしないで済むのはありがたいんだけど」


「俺たちが使う矢が点々と落ちてたんだ、あの辺りに身を隠したに違いない」


「それはエリス嬢が吸血鬼から逃げきれた前提じゃない。あの辺りで聞き込みもしたけど、それらしい目撃情報はなかった」


 俺の手の中にはガラスの小瓶。

 エリスに護身用に持っておけと言った聖水瓶だ。これが落ちてたんだから彼女はきっと逃げたはず。……というのは俺の願望に過ぎないのだろうが。


「ペパンを頼るかもしれない、そっちの調査を頼む」


「いなければ?」


「そしたらもう攫われたと考えるほうが自然だろう」


 困ったときにエリスが逃げ込める場所、彼女が安全だと感じる場所が俺じゃないという事実に腹が立つ。そう思わせた自分自身にはもっと。


「だね」


「ブリテとイアソンの監視を薄くしておく。プライドを傷つけられたイアソンは必ず動く。もしブリテに吸血鬼と連絡をとる方法があるのなら、奴らが吸血鬼のところまで案内してくれるだろう」


「わかった。でもそれが無駄だった場合を念頭に置いて、直接森を叩くことについてはよく考えておいた方がいいよ。やるなら僕らもただじゃすまないのだからね。僕らの命とエリス嬢の救出と、どちらが優先されるのか……。上に立つ者として、ね」


「わかっている」


 わかってるんだ、森への侵攻を打ち出せば反発があることは。被害が甚大になるであろうことは。


 でも彼女は……彼女は俺たちの恩人だぞ! あの小さい身体で、俺たちを怖がらせまいと必要なものも言わずに倒れるお人好しだぞ!

 それを異質だというだけでバケモノ扱いして、追い出して……。くそ、俺も同罪なんだ。彼女を守るためとそれらしい言い訳をして「正体を隠して大人しくしていろ」と言ったんだからな。

 俺も彼女を異質なものとして扱った。だから、俺を頼らない。泣いてたのに。


 ノックの音に返事をすれば家令がやって来た。体調不良によりベッカ夫人が授業を休ませてほしいとか。好きなだけ休めばいい。どうせ、授業を受ける奴が不在だからな。





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[一言] ヤンデレフラグが立ったな( ˘ω˘ )
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