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伯爵家の離れに追いやられていた黄昏の姫君は、公爵令息の期限つき婚約者になりました。  作者: 伊賀海栗


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第24話 正体がバレてしまったので


 今日もベッカ夫人の授業はないので、ペパンを見送ったところで自由時間になりました!


 と言っても特にやることはないし、ベッカ夫人に読めって言われた課題図書を黙々と読むだけなんですけど。なんかね、語彙が貧弱って言われました。すごい悪口だ!

 ものを知らないところが可愛いって言われてたのに。カツーハ帰っちゃうぞ!


 というわけで本を持ってお庭へ。日があたるところは暖かいし、風は気持ちがいいし、何より部屋の中でじっとしてるのは好きじゃないから! チチチって鳥が鳴くのを聞きながら読書するのって淑女っぽいし。


 と、そこにベルが騎士団の人たちを何人か連れてやって来ました。眩いばかりの白髪に、メイドさんたちが遠くできゃあきゃあ言っています。さすが美人さんは人気者だ。


「やあ、素敵なマドモアゼル! 静かに読書をしてると本当に淑女に見えるね」


「えっ、見えるっていうか、淑女力上がったでしょ?」


「ぶふっ……淑女力って、あははは! そうだね、本の持ち方なんか完璧な淑女だ!」


「ふふん」


 他の騎士団の人たちはベルの後ろからチラチラとこっちを見ています。私がそちらに視線をやると目を逸らされちゃうんだけど、これは一体……?


「みんな君と仲良くしたいみたいなんだけどさ、ルーシュが怖くて話しかけられないんだって。あはは、滑稽だよね!」


「なんで私と仲良くしたいのかちんぷんかんぷん」


「そりゃあ、僕らの命の恩人だからね。みんな感謝しているのさ。……いや、みんなは言い過ぎか」


「吸血鬼とご令嬢が全く別の存在だってのがわからない奴は放っときゃいいんスよ!」


 後ろの人たちのひとりがやっと喋りました。

 なんの話をしてるのか薄っすらわかった気がします。混血(ダンピール)が気に食わない人がいるってことですよね、きっと。でも後ろの人たちは「俺らはエリス様の味方です!」って言ってる、ありがとう、近う寄れ。


「もうみんな私のこと知ってるんだ」


「ルーシュが緘口令を敷いてるから、騎士団内の人間しか知らないけどね」


「なるほど」


 人の口に戸は立てられないとは言うけど、ルーシュさまが困るようなことになりませんように!


「そうだ、さっきルーシュが探していたようだけど」


「えっ。どどどどどこで」


「あはははは! 今は自室にいるんじゃないかな」


 立ち上がって駆けだそうとした私を、ベルが呼び止めました。はい、なんでしょう。


「森から無事に戻って来られたことを祝して、今夜みんなで食事に行くんだ。と言っても灯火亭だけれどね。救世主たるエリス嬢にも是非参加してもらいたいんだけど、どうかな?」


「行きたい!」


「よし、じゃあ決まりだね」


 みんなに手を振って、ルーシュさまの部屋を目指します。全速前進!


 実はルーシュさまのお部屋に行くのは初めてなので、迷子になりかけました。ここに来たばかりの頃にベルに案内してもらって以来なんだもの。通りかかったメイドさんに教えてもらって到着です。


 ノックをしたら家令さんが応対して、中に入れてくれました。机でお仕事か何かをしてたっぽいルーシュさまが立ち上がって、窓際のテーブルを指し示しました。なるほどそこに座れと。


「あれを」


 私ができるだけ淑女っぽく椅子に座ると、ルーシュさまは家令さんに何か指示を出しました。そして彼も私の前に座ります。


 家令さんがテーブルに並べたのは小型のナイフと小瓶が三つ、そしてそれらをぶら下げるためのベルトでした。


「これ、もしかして」


「銀の刃のナイフ、それに聖水だ」


 ルーシュさまの視線ひとつで家令さんは部屋を出て行きます。


 なんて言ったらいいのかわからなくて黙ってたら、ルーシュさまが小さく息をつきました。


「あくまで護身用だ。吸血鬼を殺せと言いたいわけじゃない」


「護身」


「エリスに特別な能力があると知れてしまった以上、先日のようにその力に頼らざるを得ないときがまたくるかもしれない。いや、お前が手伝いはできないと言ったのは覚えているし、俺たちの仕事には極力関わらせない。ただ――」


「ん、大丈夫です。何かあれば言ってください」


 さっきの騎士団の人たちの笑顔を思い出したら、嫌だなんて言えないです。結局、人間だろうが吸血鬼だろうが関係なくて、近しい人のほうが大事になっちゃうものなんだなって。

 それに。


「え、お前、なんで泣いて――。いや無理なら無理で構わないから、でもこれだけは念のために持っ」


「違うの、そうじゃなくて。なんか嬉しくて」


「嬉しい?」


「こんな風に誰かから何かを貰うの、久しぶりだから。あ、ドレスは貰ったけどでもちょっと違うでしょ」


 最初に買ってもらったドレスは公爵家に出入りする伯爵令嬢として相応しいものを、という理由で。言葉を選ばなければ公爵家の威信のため、じゃないですか。

 でもこれは私が傷つかないようにって考えて、ルーシュさまが私のために用意してくれた道具だから。そうです、ルーシュさまが、私のために。あのルーシュさまが!


 そのルーシュさまは、窓に顔を向けながらぽりぽりと頭を掻いて。


「今日、このあと時間あるか?」


「さっきベルがご飯食べるって言ってた」


「ああ、夜だな。それは俺も行く。それまでの時間、ちょっと出掛けないか」


「デートだ!」


「違う」


 違うのか……。男女がふたりでお出掛けするのをデートって言うんだって、マダムが昔言ってたような気がするんですけど。あれ、つまりこないだのお祭りもデートだったのかな。でも違うって言われたしな。


「いや、それもこれもデートだ」


「心を読んだっ?」


「口に出てたぞ。あと顔にも書いてある」


「やっぱデートなの? でもさっき違うって言った」


「あれは……ただの条件反射だ」


 よくわかんないけど、反射的に否定するのはヒトとしてどうかと思います。


「うるさい」


「今度こそ何も言ってない」


「目にうるさい。違う、目がうるさい。こっちを見るなその真っ直ぐな目で」


 しかめ面のルーシュさまがすっごく嫌そうにそっぽを向きました。

 でも耳がちょっとだけ赤くて可愛い。





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― 新着の感想 ―
[良い点] ありがとう、近う寄れwww
[一言] オイオイ可愛いかよ( ˘ω˘ )
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