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第19話 私にできることをするんです


 お祭りから四日が経過しました。ルーシュさまとは最低限のお喋りしかしてません。ベルが気を遣ってお出掛けに誘ってくれたりもしたけど、ちょっと気分が優れないので気持ちだけいただきました。


 最近はですねー、ベッカ夫人の厳しいご指導のおかげでちょっとずつ淑女らしさが身についてると思うんです。そりゃほかの人から見ればまだまだでしょうけども。でも真っ直ぐ淑女の礼(カーテシー)ができるようになりましたからね! ふふん。


 とまぁ、そういった疲れもあるので。外には出ません。


 窓から庭を見ればブリテさんがルーシュさまのところへ駆け寄って、彼の腕に両手を巻きつけるところでした。

 二度と私について詮索しないことと侍女の仕事をきっちりこなすことを条件に、謹慎を解いたのだそうです。結局、バケモノであるという彼女の主張は正しかったわけですから、ルーシュさまも彼女を追い出すことはできなかったみたい。

 毒を盛ったとか、メイドの襲撃はブリテさんが仕組んだことだとか、そういうのは曖昧に誤魔化されてますしね。


 面倒くさそうに彼女の手を振り払うルーシュさまですけど、あの表情さえ見せてもらえるのが羨ましいって思ったりして。


「はぁぁぁ」


「わお。すごいため息だね」


「げ。ベルだ。いつからそこに」


「結構前から? 呼んでも聞こえていないようだったから」


 ここは小ホールです。ここでいつもダンスの練習をしてるの。今日は男性に相手になってもらってホールドの感覚とかを覚えましょうって言われていたんだけど、ルーシュさまには頼めないから、ベルにお願いしてて。


 ベルが私の視線の先を見て、ふふっと笑いました。


「嫉妬だ」


「違う」


「寂しい?」


「たぶん。……カツーハを出てここに来るまで十日くらいあったでしょ。その中で結婚についてあらためて考えてたんだけど、自分の家族ができるんだって、それが一番嬉しかったの」


 お父さまが亡くなって三年。屋敷ではのけ者にされてたし。よくしてくれるペパンとその家族も、ママンに頼まれたから面倒を見てくれてただけで……一緒に過ごすと自分が他人だって思い知らされたというか。


「エリス嬢……」


「期間限定であっても、ここが私の居場所なんだって思ってたから――」


「期間限定って?」


「……あ。あーっ、いや、全然なんでもない! 全く何もないです、気にしないで」


「チッ、ルーシュめ」


 打ち消すように両手を振ったんだけど、ベルは珍しく怒った顔で舌打ちしてました。こんな顔もするんだ、美人が怒ると超怖いな……。


「そ、それより練習しましょ!」


「え、待って。エリス嬢なんか顔色悪くない? 前にもちょっと思ったんだけど、なんかもう今にも倒れそうじゃない。ちゃんと食事してる?」


「ここのご飯美味しいもの、ぜんぶ食べてますよ!」


 そう言ったとき、ベッカ夫人とダンスの先生がホールに入って来ました。さぁ、厳しい練習の始まりです!


 夕方になってベッカ夫人のお見送りを終えたとき、エントランスにルーシュさまをはじめとした騎士団の人たちが集まって来ました。

 どうやら最近ちょっと吸血鬼による被害が増えたから、これから牽制を兼ねて暗い森の入り口まで行くんだとか。


 暗い森って、魔物が跋扈するところでしょ。大丈夫なのかなって不安でいっぱいになったけど、それが彼らの仕事なんですよね。


 不仲なのかな、って怪しまれないように最低限の挨拶を。


「ルーシュさま、行ってらっしゃい。気を付けて」


「ああ。……顔色が悪すぎる。もう部屋へ戻って休んでいろ。何かあればベルへ」


「はーい」


 私を見張るためなのか、ルーシュさまとベルは同時に城を空けることがなくなりました。だけど暗い森に行くのなら、国内随一の名狙撃手を連れて行ってほしいものです。

 ま、私のせいでこうなってるわけなんですけども。


「あ」


「はい?」


 何か言いかけたルーシュさまでしたが、すぐに「いや」と言ってお城を出て行きました。同道する騎士さまたちも「行ってきまーす」と手を振って勇ましく出発です。


 どうかみんな無事に帰ってきますように。


 夜がどんどん深くなって、ブリテさんが寝る支度をしに部屋へやって来ました。読んでいた教本を脇に置いて迎え入れます。


「普通、主人というのは侍女にアクセサリーやドレスをくれるのですけど、そういった常識はもう学ばれましたか?」


「はぁ」


「あっ。でもご実家からもセルシュティアンお兄様からも大切にされてないから、譲れるほどのアクセサリーをお持ちじゃないのでしたっけ」


 いつものやつです。謹慎を解かれてからずっとこれ。

 でも最低限ではありますけど侍女としての仕事自体は問題なくやってくれるし、それに報いるものを私が持っていないのも事実ですからね。文句くらいいくらでも聞けます。なんか、それしかできなくてむしろごめんなさいという気持ちです。


「わたくし、いつか必ずエリス様がバケモノだって証拠を掴んで差し上げますからね」


「あ、まだ言ってるんだそれ」


「なっ、なによ――」


 ブリテさんが激昂しかけたところで、ノックというより殴りつけるような音をたててベルが部屋へ入って来ました。

 ブリテさんに怖いお顔でたった一言「外して」と言うと、真っ直ぐに私のところへ。逃げるようにブリテさんが立ち去ったのを確認するなり、すごい力で私の両の肩を掴みます。


「暗い森に出掛けた奴らが吸血鬼の襲撃に遭って分断されたんだ」


「どういうことですか?」


「ルーシュ他二人が、仲間を逃がすために森の奥へ入ったらしい。そこから戻らないから捜索に向かいたい、応援を寄越せと早馬が来た」


「え、待って。ルーシュさまは無事なの? え、噓でしょ」


 思わずベルの胸元を掴んで揺さぶりました。まるでびくともしなかったけど。


「落ち着いて。僕も彼を無事に助け出したいんだ、だから力を貸してほしい」


「ちから」


「君なら吸血鬼を探せる、そうでしょ」


 ハッとしました。全くその通りです。ルーシュさまを襲った吸血鬼を見つけられるかはわからないけど、後先考えずに探し回るよりはずっといい。


「行く、連れて行って!」


 ローブを掴んでベルと一緒に部屋を飛び出しました。





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