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第16話 考えることが多すぎてよくわかんないです


 今日の朝食に公爵さまはいなくて、私とルーシュさまだけ……になるところだったので、ワガママを言ってベルにも同席してもらいました。

 だってね、ルーシュさまってば私が宿舎に行ったことでちょっとご機嫌斜めみたいで、なんか怖いんだもん。心が狭いと思います。


「いやぁ。主と同じ席で食事するなんて肩身が狭くて困ってしまうね」


「ではお前の肩は一般人の倍あるわけだな」


「あはは、違う違う。美味しすぎて食が進んじゃうだけさ」


 ベルは実に楽しそうにニコニコとご飯を食べてます。三人の中で誰よりもたくさん。神経が図太いんでしょうね、私も見習わなくちゃ!


「ベルがなんともなくてよかったです。死んじゃったかと思った」


「コイツが死ぬわけがない。誰よりも最後まで生き残るぞ、賭けてもいい」


「さすが五本の指に入る男……!」


 私の言葉にルーシュさまが首を傾げました。


「五指に入るのは確かだがそもそもコイツの右に出る者はいない」


「え、強さではルーシュさまが一二を争うって聞いてました」


「武器が違う。銃、弓、クロスボウ……遠隔からの攻撃は吸血鬼に対して最も有効だが、中でも射撃に関して随一の腕を誇るのがベルだ」


「へぇぇぇ!」


「剣術はちょっぴり冴えないからね、間をとって五番目くらいってわけさ」


 ベルは楽しそうに片目をつぶって見せました。大幅に謙遜しても国内五位って言えちゃうのヤバ……。


「まぁ確かに、吸血鬼相手じゃなかなか接近戦に持ち込めなさそう」


「ずいぶん詳しそうだ」


「えっ、いや、だってほら、この前襲われたとき見たから!」


 一瞬だけ、ルーシュさまの目がすごく鋭くなった気がします。わかんないけど。


 いや詳しいわけじゃないんですよ、本当に。マダムたちはいつも人間とほとんど変わらない動きしかしないしさ、マダムと命懸けで戦うことなんてないしさ。

 でも昨夜はヴィクトーと空中散歩をしてしまったので。あんなの、普通の人間が勝てるわけないじゃない。


「今回、こちらの被害はそう多くなかったが、領民に死者が出たとさっき報告があった。ふたりほどな」


「え」


「恐らく、僕らが到着したときにはもう食われていたんだろうね。相手は三体いたし……」


「だから俺たちは吸血鬼を滅ぼす必要がある。一匹残らずな。それから城内にいれば大丈夫だろうが、エリスも夜は十分に気を付けろ」


 ルーシュさまの言いたいことはわかります。ママを殺されて、公爵さまも大怪我を負って、領民は満足に月を見ることもできなくて。そして仲間が負傷して。


 飲んだ相手を殺したのなら、吸血鬼の王……私のおじいちゃんの派閥の吸血鬼だったのかしら? ヴィクトーの一派が台頭すれば人間は殺されなくなる? 私が双方の橋渡し役になれるの?


 ぼんやりと考え事をしていたら、ベルがふふふと笑いました。


「ほら、ルーシュがそんな話をするからエリス嬢が怖がってしまったじゃない」


「そうか? コイツは吸血鬼より午後の淑女教育のほうを怖がりそうだが」


「あーっ、なんで思い出させるの! ベッカ夫人怖いベッカ夫人怖い」


「な?」


 違いないやと笑うのんきなふたりに心の中で悪態をついてやります。ばーかばーか。平民の心がわからない貴族めーべろべろべー。


「そういえばブリテ嬢の姿を見ないけど、気のせいかな」


「謹慎を言い渡したんだ。反省すればまた侍女をやらせるが……念のためもうひとり侍女を呼ぶことにした。ま、このまま交代になりそうだがな」


「ずいぶん派手にやらかしたみたいだからねぇ。ふふふっ」


 なるほど、それで彼女は今朝も顔を見せなかったんですね。


 そんなこんなで食事を終えて部屋に戻りました。恐怖のベッカ夫人が来るまでは自由時間です! ……けど、ちゃんとお勉強しよ。怖い、ベッカ夫人怖い。


 書き物机に座って何の気なしに引き出しを開けたとき、気づいてしまいました。ないんです、ナイフ。ナイフがない……ふ。ふふっ。

 どうしましょう、メイドさんが私を刺したナイフです。小さなフルーツナイフで鞘がどこにあるかもわからないし、処分に困って引き出しに放り込んでたんですけど。

 せめて鞘があれば最初から持ってましたって顔してその辺に置いておけるんですけど、そうじゃなかったからさー。


 一体どこに? っていうか、誰かがこの部屋を探し回ったってことですよね。金目の物はルーシュさまにいただいたドレスくらいしかないので、いくら漁っていただいてもいいんだけど、ナイフかー、ナイフが欲しかったのかなぁーもー!

 机なんて普段はほとんど触らないから、どのタイミングで無くなったのかもわかりません。つまり誰かが荒らしたと言える状況にもなく。


 どうしようーと頭を抱えていると、いつものメイドさんが私を呼びに来ました。


「エリスお嬢様、採寸のお時間でございます」


「さいすん」


「はい。お披露目と結婚式用のドレスに加え、社交用にいくつかご用意なさると伺っております」


「ドレスたくさんある……けど……。あ、はい、結婚式はね、違いますよね」


 ぜんぜん自由時間じゃなかった!


 応接室に連れて行かれたのですけど、到着するなり三人の女の人からドレスを脱がされて、頭のてっぺんから足の先まであらゆるサイズを測られました。

 未だかつて、こんなに人形みたいに扱われたことはありません! すごい新鮮! だってまさか指の長さまで測ると思わないでしょ。あらあら小さいわね、じゃないんですよ、余計なお世話だっつうの。胸もお尻もこれからまだまだ成長しますし! ……しないかな? え、するよね、まだ十六歳ですし?


 あ、違う。私もうすぐ誕生日だ!





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