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伯爵家の離れに追いやられていた黄昏の姫君は、公爵令息の期限つき婚約者になりました。  作者: 伊賀海栗


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第10話 挨拶ひとつだって難しいんですよね


 やば。ベッカ夫人やば。

 お義母さまや妹より怖い。鞭で打たれるわけでもないのに怖い。圧が、圧がすごい。多分、子どもなら視線だけで殺せると思う。歴戦の勇。


 客室という名の自室のソファーでへばる私を、ルーシュさまは冷たく見下ろしてるし、ベルにいたっては指差して大笑いしてます。人を指差すんじゃない。


「なんでそんなに疲れた顔をしてるんだ? 今日は挨拶だけだと聞いていたが」


「挨拶だけでした! 挨拶だけで! 三! 時間!」


 指を三本立てて突き出しました。


「名乗り方とか、伯爵令嬢ならこうで公爵夫人はこう! 淑女の礼はこう! 腰が高い背中曲げるな項垂れるなよろけるな! ってあの人なんであんなに無理ばっか言うの!」


「基本しか言ってないが」


「生まれながらの貴族とは違うんですううううううううう」


「やればできる子だと言ってたらしいじゃないか」


「アハハハ、あと淑女は人前で足を投げ出して座らないものだよ」


 仕方ないので座りなおしました。淑女ってこんなにも生きづらいんですね……。そういえば背中に棒が刺さってるのをイメージしろって言ってったっけ。しゅぴっと、こう、しゅぴっと。


「お、いいね。ぱっと見おしとやかそうに見えるよ」


「あまりおだてるな、ベランジェ。頭が揺れてるじゃないか」


「で、お二人は何しに来たんですか」


 ベルがテーブルの上に積まれた本を指でコツコツと叩きます。

 なんかね、この二人がいきなり持って来たんですよね、これ。嫌な予感がしたので見ないようにしてたんだけどなー!


「ベッカ夫人がこれに目を通しておくようにと言っていたから」


「違う。しっかり読んで頭に叩き込んでおけと言っていたんだ」


「どっちも無理」


「明日は休みになったんだろう、時間は十分にある」


 改めて背表紙を眺めてみると、このうちのいくつかは以前にも読んだことがあるものでした。行儀作法に関して記されたものや王国史がそうですね。読み直せば思い出せるかしら?


 一冊を手に取ってパラパラとめくっていると、二人が立ち上がる気配です。


「今日と明日は俺もベランジェも夜警に出るから、食事はここに運ばせる。……食べながら読むといい」


「お行儀悪い!」


「礼儀や行儀というものは相手があって成立するものだ」


 なるほど確かに?

 って納得させられたところで、お二人は部屋を出て行きました。夜警かー。まぁ吸血鬼を相手にするなら夜のほうが警戒しないといけないですもんね、そりゃそうかー。


 ……仕方ない。読みますか。

 公爵さまがお亡くなりになるまでは私が公爵夫人なわけですからね。ぜんぜん想像つかないけど。想像がつく程度には淑女っぽさを身につけないといけません。

 あと、やればできる子って言っちゃったし。


 ソファーにごろんと転がりながら作法について学んでいると、ノックの音がしました。ふと窓の外を見ればもう真っ暗です。私ってば集中しすぎて時間を忘れてましたね! 偉い!


 お返事をすると扉が開いてブリテさんが入ってきました。彼女の背後にはやっぱりメイドさんがいて、銀色のワゴンを押しています。


「エリス様、お食事をお持ちしましたわ」


「わー、ありがとう」


 ソファーから上体を起こすと、ブリテさんの冷たい視線が刺さります。だって人がいないときはお行儀とか気にしなくていいってルーシュさまが言ったんだもん。


 ブリテさんの視線ひとつでメイドさんが食事を窓際のテーブルに並べ始めました。ウキウキでテーブルのほうに行こうとした私を、ブリテさんが呼び止めます。


「カツーハ伯爵令嬢がいらっしゃると聞いて、マリエラ様だと思ってましたの。社交界でも華があると有名ですもの」


 マリエラは妹の名前です。私はデビューしてないのであの短気なマリエラの評価が高いことに驚きを禁じ得ません。ただそんなことよりブリテさんが何を言いたいのかよくわかりませんね……。


 首を傾げた私に、ブリテさんは顔の半分を扇で隠したまま話を続けます。


「それがまさか、全く存じ上げない方がいらしてとても驚きましたわ。挨拶ひとつまともにできない人、ダスティーユにふさわしくないと思うの。セルシュティアンお兄さまがおかわいそう」


「えっ! わざわざ自己紹介ありがとうございます」


「は?」


「だって挨拶ひとつまともにできないって」


「はぁ?」


 ブリテさんが激昂して何か言いかけましたが、食事の準備を終えたメイドが彼女の方へと戻ったためか落ち着きを取り戻したみたい。


 正直、私は私がこの場にふさわしくないことを一番理解してるから何を言われても効果ないんですよね。どうせ期間限定の結婚だし、それにマナーとかわかってないのは事実だし。

 意地悪されるのには慣れてるというか、この程度は意地悪にも入らないのでノーダメージです!


「今夜はもう失礼させていただきますわ。明日から改めてよろしくお願いします」


「はーい」


 ブリテさんはそう言ってメイドを引き連れて出て行きました。


 さぁ……。待ちに待ったご飯です!

 スキップでテーブルへ。もうひとりだから礼儀も行儀も気にしなくていいですからね。


 えーっと今日のご飯は……パン、鯛のポワレ、牛フィレのロースト、ポタージュ、それにサラダとオードブルがちょこちょこっと。わぁ豪華!


「いっただっきまーす」


 誰かと食べるご飯って美味しいですよね。ペパンのおうちで食べるご飯は賑やかで大好きでした。

 でもさー、ここのご飯は一人で食べても美味しいです。やばい、さすが国内最大級のお城。ご飯も国内最大級。神様と生産者と料理した人とこの世の全てに感謝感謝!


「……ん?」


 違和感です。ポタージュ、何かおかしい。

 舌が痺れます。


 あー、これ、なんか変なの入ってるなああああああああ!





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― 新着の感想 ―
[良い点] さすがベッカ夫人やで。 ( ˇωˇ )
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