壊れた冷蔵庫
さて、配信のつなぎとして怖い話をすることになったわけなんですけれども。最初はインターネットから怖い話探してこようかなーとか、怖い話が載ってる本から使わせてもらおかなーとか、考えてたんですよ。
でもそういうのを使うのって、ほら、違う意味で怖いじゃないですか。著作権とか盗用とかね。だからどうしようかなーって困ってた時に、ちょうど知り合いの男性からLINEが来たんですよ。『インターネットが繋がらなくなった』って。
その日はもう夜の1時を過ぎてたんですけど、僕は次の日も休みだったし、家も近いので見に行くことにしたんですね。結果から言ってルーターとパソコンの再起動でネットの不具合は直ったんですけど、せっかく来たのでこの男性に聞いてみたんですよ。『怖い話の体験談とかない?』って。
これはその人から聞いた話です。
「あるよ。ずっと誰にも言えなかった話がある」
「今からもう20年以上も前に住んでいた県の話でさぁ、引っ越しするすぐ前だったから、俺が小学校低学年のころ……7歳とか8歳くらいごろかな。俺に懐いていて、毎日遊んでいた2歳年下の男の子がいたんだ」
「いろいろと緩い時代だったから、子供は子供だけで平気で外であちこち遊びまわってたよ。車にはねられなかったのが不思議なくらいでさぁ、公園で遊んだりするだけじゃなくて、勝手に人の土地に入り込んで探検ごっことかもしてたよ。工事の現場とか資材置き場とかが一番面白かったかなぁ」
「そうやって遊んでいた場所に、廃品置き場みたいなのがあったんだよ。今みたいにあっちこっちに家がある時代じゃなかったから、見える限り草ボーボーの平原の中にガタガタのあぜ道が走ってて、その先にポツンと取り残されてるような場所だった。家からはちょっと遠いし、いつ行っても誰もいなかったよ。なんか黄色と黒のシマシマのロープとかも張られてたし、廃品置き場っていうより、もしかしたら業者が不法投棄してるようなゴミ捨て場だったのかもしれない。俺とその男の子は、二人でそんな場所を探検してたんだ」
「そこにね、壊れた冷蔵庫があったんだよ」
「火事か何かの現場から持ってきたのかな。黒く焦げてて、明らかにサビとは違う感じだったのを覚えてる。ゴミの上にテキトーに置かれてたんだろうね、ちょっと触れただけでグラグラ動いてたよ」
「子供の目から見ると冷蔵庫って凄く大きくてさぁ。中に何が入ってるのか確かめてみようって話になったんだ。もしかしたらまいぞーきんがあるかも!ってね。子供だからそんなバカなことを考えたんだ」
「もちろん開けても中には何も無かったよ。俺はガッカリしたんだけど、ガッカリしたんだけど……本当にバカなことをしたのは、ここからなんだ」
「…………一緒に遊んでたその子をね、冷蔵庫の中に閉じ込めたんだよ」
「今でもよく覚えているよ。もしかしたら上の方には何かあるかもなんて言ってね。俺が冷蔵庫が倒れないように支えておくから登ってみてなんて言ってね。冷凍室の引き出しを開けて足場にして、その子を登らせたんだ。冷蔵庫の中にね。そしてその子が中にすっぽり入った瞬間を見計らって、ドアを閉めたんだ」
「怖そうな人が来たから隠れなきゃ! なんて言ってね。その子がすぐ出てこないようにして……グラグラ動く壊れた冷蔵庫を、後ろから力一杯押したんだ」
「ドーン! って、すごい音がしたよ。俺もうビックリしちゃって。おかしいよね。自分でやったくせにさぁ、どうしてこんなことしたのかもわかんないし、中に入ってる子がどうなるかも考えなかったんだよ。本当にバカだよ」
「で、急に怖くなっちゃってさ、俺どうしたと思う? 帰っちゃったんだよ。一人で。冷蔵庫の中の子を置いたまんま。親に叱られるって、どうしようって、自分のことで頭がいっぱいで。それ以外のことなーんにも考えてなかったの」
「でね、夕方くらいになって、その子は帰ってきたよ。特に怪我とかもしてないし、イタズラして置いて帰った俺のことを怒ってる感じもなかった。本当に普通。普通だったんだ」
「でも変なんだよ。今日のこと何にも覚えてないの。あの廃品置き場とか、冷蔵庫のこととか、全然知らないって言うの。その子」
「だからそれから一週間経った次の日曜日にさぁ、俺はその子を家に置いて、一人でまたあの廃品置き場に行ってみたんだよ。たしかめないとって思ったんだ」
「そしたらさぁ! あるんだよ! あの冷蔵庫が! 倒れたまんま! なんか隙間から黒い汁みたいなのが漏れてて! ハエもブンブン飛び回ってんの! でも変なんだよ! あの冷蔵庫の中は空っぽだったんだから! そんなのあるはずないだろ!? でもあったんだよ実際! ドアを下にしたまんまの状態で! 倒れてんの! すっげぇ臭いの! ガキでもわかるよ! それが誰から出てるのか! ドアを下に倒れた冷蔵庫の中から、子供が自力で出れるのかって……さぁ……」
「俺、俺もう、怖くなっちゃって……。そこからすぐ逃げて、家に帰ったんだよ。もちろんその子は家にいて、ちゃんと留守番してたよ……。でもさぁ、俺さぁ、もうわけわかんなくなっちゃって、この帰ってきた子、偽物なんじゃないかって、思って、確かめることにしたわけよ、風呂場で」
「すると……やっぱりあったんだよ……偽物の証拠が! そいつさぁ、胸に大きな黒いアザがあんの! 俺その子とよく一緒にお風呂に入ってたから、そんなの今まで無かったってちゃんと知ってんの!」
「偽物だ! こいつは偽物なんだよ!」
「でも、考えれば考えるほどわけわかんなくて、怖くて怖くってさぁ……! 今日までずっと、親にも黙ってた……! だってこんなこと人に言えるわけないだろ!? 俺はたった一人の弟を殺しました! でもその弟にどこかの誰かが成り代わっています! なんてさぁ!」
ここまで聞いて僕はもう我慢できなくなってしまって「やめろよ!」って叫んだんです。「なんでそんな話するんだよ兄ちゃん!」って。
でも、「お前が怖い話しろって言ったんだろ!」って逆に怒鳴られました。
「本物の俺の弟はあの冷蔵庫の中で死んだんだよ! じゃあ、じゃあ……今俺の目の前にいるお前は、いったいどこの誰なんだよ!」
そう言って、兄は僕のシャツをめくりました。
そこにはこの通り、大きな黒いアザがありました。
このアザがいつからあるのか、僕にはわかりません。
誰か知っている人がいたら教えてください。
20年くらい前に、捨てられた冷蔵庫から子供の遺体が発見されたという事件はありませんでしたか?
もしかしたらそれ、本物の僕だったのかも、しれません。