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導きの賢者と七人の乙女  作者: 古城貴文
四章 王都躍動編

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第86話 王太子の晩餐会3~聖女VSアンデッド~



「お客様、今しがたヘッグルント公国の使者様が到着致しまして、至急ご連絡したき議があるそうなのですが」

 フレイヤはヘッグルント公国の外交官夫人の傍により、そっと耳打ちした。

 突然話しかけられた彼女は、一瞬かなり驚いたようだが、すぐに平静を取り繕う。

「あら、こんな時に何用かしら。その使者はどこにいらっしゃるの?」

「はい、これからご案内いたします」

「……お願いするわ」

 そう言って黒いドレスに身を包んだ女性は、静かに立ち上がった。

 

 フレイヤは外交官夫人を先導し、晩餐会会場から廊下に出る。

 しばらく給仕人達が慌ただしく動く廊下を進むと、裏庭に出る扉を開けた。


「この寒さなのに、外に出るの?」

「はい、裏庭の離れにご案内しているそうです」

「そう、仕方ないわね……」


 フレイヤは宮殿の灯かりを背に、暗闇の木立の中を進んでいく。



「もうこの辺りでいいでしょう」

 女はフレイヤの後ろから、嫌気がさした様に声を掛けた。

 その声にフレイヤは歩みを止め、ゆっくりと振り返える。

「連れ出された理由はお解かりのようですね。なぜノコノコついて来たのですか?」

 フレイヤは感情を出さず、抑揚のない言葉で女に問いかけた。

「決まっているじゃない。早くおまえを始末して、席に戻るためよ」

 暗がりの中ではあるが、女の口許がつり上がるのが解る。

「まったくバカな給仕だ事。多少は魔術が使える様だが、自分の力量も解らないのね。滑稽だわ」

「さっさと死になさい!」

 女は嘲笑った後、ラデリア語で呪文を唱え始めた。

 そしてフレイヤに向け右腕を上げ、すぐさま魔弾を一発放った。

 漆黒の森の中、その弾筋は見えない。

 瞬間の風切り音だけが実体を裏付けた。

 女がフレイヤの眉間に着弾を確信した瞬間、一瞬の閃光を発し魔弾は砕け散った。


「なに!」

 状況が腑に落ちない女は、今一度術名を叫び、魔弾を発射した。

 しかし結果は変わらなかった。

「どうして……」


「自動発動する魔力結界エレメンタルバリアですが」

 もちろんノアから伝授された魔術である。

「おまえ、何者だ?」

「私はただの給仕係ですよ」

 それを聞いた女の顔は歪んだようだ。

 

「畜生! レ―ヴァンの魔術士は出来損ないだと聞いていたのに」

「あら、それではあなたは出来損ない以下なのですね」

「このアマ――!」


 女は黒いスカートを大きく捲し上げると、ガーターホルスターから小ぶりのナイフを取り出した。

「おまえは死ね、さっさと死ね――!」

 狂ったように女はナイフを振り回し、フレイヤを襲った。

 武器を持たないフレイヤは防戦一方となる。

 かろうじてナイフを防いでいたが、ついに右腕にかすってしまった。

 女は手応えを感じて、一度距離をとった。

「フフフ! 切ったわ。これでおまえは確実に死ぬ――!」


 すぐさまフレイヤは切られた腕の袖をたくし上げ、魔術で傷口を吸引する。

 少しの血液が飛び散った。

「な、なぜ倒れぬ……」

「私は、ある程度の毒や呪いには耐性があるのですよ」

「……」

 女は驚愕の表情を見せる。


「もう終わりですか……」

 今度はフレイヤが左手を上げ、至近距離から圧縮空気弾コンプレッションを放った。

 腹に命中した女は後方に大きく吹き飛ばされ、転げまわった。

 そして這いつくばった女をフレイヤは見下ろす。


「わ、わかった。もうお前たちには手を出さない! だから見逃してくれ」

 女は両腕を突き出し懇願した。

「あなたは捕縛して、あの方に委ねます」


「フ・フ・フッ。やはりレ―ヴァンの魔術士は甘いな。あの世に行って悔やむがいい!」

 女の視線はフレイヤの背後に向いていた。

 まだ実戦が少ないフレイヤのミスだった。

『いけない!』


 フレイヤが両腕でかばう様に身構えた瞬間、激しく剣が衝突した火花が飛んだ。

 突然現れた給仕係のユニフォームを着た男が、フレイヤを襲った斬撃を剣で受けきっていたのだ。

「フレイヤちゃんだったな。後ろがガラ空きなのは駄目だぜ!」

 襲撃者に睨みを効かせながら、男は背後のフレイヤに声をかけた。

「あなたは、ウォルターさん!」

 ウォルターは蹴りで襲撃者を離そうとしたが、対象は蹴りを食らう前に後ろに跳躍し間をとった。

「助かりました。どうしてここへ?」

「フレイヤちゃんが女を連れて外に出たのが見えたんだよ。その後をあいつがつけて行ったんだ」

 再び襲撃者はウォルターに切りかかる。

 何度も金属の衝突音が暗闇に響き渡った。


「対人戦をノアの旦那にしごかれていて良かったぜ!」

 余裕をもって剣撃を受けきるウォルター。


 剣を交える二人の技量は明らかだった。

 襲撃者も相手との力量差が解らぬほどの愚か者ではなかった。


「ここまでだな、情報と違い過ぎる……撤退するぞ」

「そうね、これ以上は不味いわ」

 二人は反転し、暗闇の中へ走り出した。いや、逃げ出した。

 しかし、しばらく走ると順番に不自然に転げ倒れてしまった。


 そして、動かなくなった。


 その場に駆け寄るウォルターとフレイヤ。

「死んでいる……」

 二人とも胸を貫かれ、おそらく即死であっただろう。

 即座にフレイヤが木立の奥に注意を向ける。


「ウォルターさん、私の後ろに隠れて! 狙撃されます」

 案の定、二度魔力結界が閃光を放った。

「おお、あぶね~! まだ誰か隠れていやがるな」


 その時ウォルターは、地面に転がる死体の異変に気が付いた。

「おい、今、死体が動かなかったか?」

 確かに動くはずのない死体の手足が、微妙に動き始めていた。


「ヤバい、フレイヤちゃん、離れろ!」

 二体の屍はよろよろと立ち上がった。

「あ~あ、アンデッドになっちまったよ……。可哀そうに」

「厄介ですね」

「ああ、まったく・・・・だ……」



 *  *  *  *  *



まったく・・・・あの人ったら、賢者様と呼ばれてやりたい放題ね。こんな美味しい食事まで作らせて!」

 そう文句を言いつつもステーキを切っては口に運び、幸せそうな顔をしているのはテレージアだ。 

「これは前世のレストランで頂いたフルコースね。とっても懐かしいわ。でもその時より数倍美味しけれど……」

 ローゼマリーも至福の表情をしている。

「こんな美味しくて、綺麗な食事は初めて頂きました!」

「もう、二度と食べられないかも……」

 クラレットとカーマインは天にも昇る心地のようだ。

 その頃、聖女一行は王宮内の豪華な一室で、晩餐会と同じメニューを楽しんでいた。


『!!!!』

『????』

 二人の聖女は同時にお互いを見合った。

「なにか良からぬモノが出ましたね……」

「はい、ローゼ様。不浄のモノの気配ですね」

 ローゼマリーは目を閉じて気配を探る。

「なにやら精霊スピリット聖騎士パラディン様は動けぬ様子。テレージア……」

「かしこまりました、ローゼ様。行ってまいります」



  *  *  *  *  *



 生まれ立てのアンデッドはタチが悪い。新鮮・・ゆえにやたら動きが速いのだ。

氷結の木の実フロスト・ナット!」

 フレイヤは得意の氷系攻撃魔術を連射する。 

「フレイヤちゃん! 頭だ、頭を吹き飛ばさないとヤツらは止まらない!」

「わかってます。でも動きが速くて不規則で!」

「魔術士は近接戦には分が悪い。出来るだけ下がって距離をとれ!」

「はい、わかりました!」

 ウォルターは二体のアンデッドを相手にする。

 何度か斬撃を入れるが、当然動きは止まらない。

「こいつらに嚙みつかれたら絶対ヤバいよな!」

「はい、絶対まずいです」

 その時突然、アンデッドの接近が止まり、その場でジタバタと苦しみだした。

 同時に、二人の背後から鈴の音と芳香が漂ってきた。

 ただならぬ気配に二人は振り向く。


「聖女様⁈」

 フレイヤとウォルターはすぐさま聖女の前で膝をついた。


「あなた方は?」

「ノアの旦那のパシリのAランク冒険者ウォルターと申します」

 ちょっとおどける余裕は残っていたウォルターだった。

「はい聖女様。賢者ノア・アルヴェーン様が飛槍ひそう、フレイヤと申します」

 テレージアはフレイヤをまじまじと見つめた。

「そう……。あなたは賢者様の魔力波動紋とそっくりなのね」

 フレイヤはゆっくりと頷いた。

 

 そしてテレージアはゆっくりと前方の暗闇に視線を移した。

「そこにいるのは解っているわ! 姿を見せなさい!」

 テレージアは手のひらの上に聖なる光球を作り上げると、暗闇の木立の中へやさしく解き放った。

 

 大きな木立の影に男の姿が浮かび上がった。


「おーっ、怖い怖い。さすがは聖女様よ」

「わたしの前でラデリア語を話すなんて……。あなた、馬鹿ね」

「……!」

「誰の差し金?」


「あ~、聖女が出てきたんじゃ~、どうにもならない。聖女は俺たちの天敵だからな」


「今夜はこれくらいにしといてやるよ。次の機会を楽しみにしてな!」

 そう言い残し、男は暗闇に溶けていった。


「逃げたわね……」

 男の気配が無くなると、テレージアは近くで悶え苦しんでいるアンデッドに視線を移した。

「あとはその可哀そうな者たちを救いましょう」

 

「永遠の暗闇に囚われし哀れな魂よ。救いの光に導かれる道を示しましょう……。さあ聖母シャ―ルを讃えなさい」

 テレージアは胸の前で両手を組み聖唱する。そして両腕を大きく差し出した。

「ターン・アンデッド……」

 聖女から発せられた白銀の淡い光子が二体のアンデッドを包み込む。

 すると二体の動きは落ち着きを見せ、聖女に向け両膝をついた。

 両手は組まれ、天を仰ぐと血走った眼球はまぶたよって閉じられた。

 そしてその場に静かに崩れ落ちた。


「やっぱり本物の聖女様は凄いわ! ノアの旦那は幸せ者だわ」


「あなた……なかなか解っていらっしゃるのね! 見どころがあるわ」

 ウォルターに向けられた満面の笑みは、年相応の少女のものだった。 



  *  *  *  *  *



「ノア様、ただいま戻りました」

「ノアの旦那、けっこうエグかったぜ……」

 フレイヤとウォルターは晩餐会のノア達のテーブルまで戻った。

 そこには役目を終えたアリスやサーシャ、ステラの姿もあった。

「二人ともご苦労様。フレイヤ、その腕は大丈夫かい」

「はい、かすり傷です。聖女様に聖水で解毒してから外傷治癒魔術ヒールウーンズをかけて頂きましたので、すぐに完治すると思います」

 ノアは、その完璧な治療に満足した。

「テレージアは?」

「はい、『ノア様によろしく』とおっしゃられて、お部屋にお戻りになられました」

「そうか……」

 ――テレージアには随分と世話になった。


 それからフレイヤは事の顛末を簡潔に報告した。


「闇魔導士、アンデッド、そしてやはりラデリア帝国か……」

 目を閉じ静かに聞いていたノア。

「レベッカ、近衛騎士団長を呼んできてくれないか」

「わかったわ!」

 レベッカは直ぐに立ち上がり、深紅のドレスに気を使いながら会場を出て行った。


 程なくレベッカに先導され、近衛騎士団長と副長が慌てた様子で現れた。

「賢者様、なにかございましたか!」

 ノアは晩餐会での経緯いきさつを簡単に説明した。

「その様な事が……」


「オレも魔獣のアンデッドは何回か遭遇した事はあるが、人間のアンデッドは初めてだったよ。あれはヤバいぞ」

 ノアもウォルターの感想に大きく頷いた。


「最近やたら闇魔導士の影が見え隠れする。とくに問題なのはネクロマンサーだ。戦場でそいつらが暗躍すれば、倒した敵も再びアンデッドとして復活してしまう。まして味方の死体まで弄ばれてアンデッドにされた時は最悪だ。これは精神的にもキツイ……」

 一同も皆、神妙な面持ちで頷いた。


「これから近衛騎士団と魔術師団は連携をとったほうがいいね。剣と魔術が別々で行動するのは効率が悪いし危険だ」

「冒険者パーティーはその辺を考慮しての混成部隊だ。なあノアの旦那!」

 得意げ話すウォルターに、ノアも同意を示した。

「近衛騎士団長とアリス先生主導で、そのあたりを詰めて頂けませんか」

 指名された二人はお互い頷きあった。

「かしこまりました。この際ですので衛士隊長にも相談してみましょう」

「それは良いですね。是非お願いします」

 ――しかしまだ足りない……。今回の件が教える様に、聖女ほどではなくても、聖魔術使いがどうしても必要だ。さてどうしたものか……。



「まあ、これで無事に王太子の聖成式を終える事が出来た。これもみんなのお陰だ。ありがとう」

 


「最後にスペンサー騎士団長、裏庭に死体が転がっているはずなんで、しばらくどこかに保存しておいてもらえますか。あとで術式の痕跡を調べてみたい」

「了解しました。その様に取り計らいましょう」


「よし、今夜はこれで解散しよう! みんなご苦労様」










最後までお読みくださり、ありがとうございます m(_ _"m)


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