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導きの賢者と七人の乙女  作者: 古城貴文
四章 王都躍動編

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第59話 Aランクパーティー『月下の一角獣』

 


 冒険者ギルドに出向いてから二日後の夕方、連絡係のアンナから学院のエジェリーへ通信文が届けられた。

 内容は、『明日午後二時より月下の一角獣と面談が可能です』との事。

 その旨はすぐに、エジェリーからノアへ伝えられた。



 約束の時刻にノアが冒険者ギルドに訪れると、受付にアンナの姿があった。

 時間的に受付フロアは閑散としていた。

「やあ、アンナさん。連絡ありがとうございました」

 ノアは気軽にアンナに挨拶した。

「これは賢者さま。わざわざお越し頂きありがとうございます」

 アンナはすぐさま椅子から立ち上がり深く頭を下げる。

「ギルド長より、すぐにご案内するよう申し使っております」

 ノアは緊張気味のアンナに先導され、応接室に案内された。



 ノアがギルド長と雑談していると、随分と廊下が騒がしくなってきた。

 ドアがノックされ、事務員さんの声がする。

「『月下の一角獣』の方々をお連れしました」

「ウム、入ってもらえ」

 いかにも冒険者といった風貌の五人の男女がドカドカと入って来る。

 メンバーの構成が『黄昏の梟』と同じだ。

 懐かしさを感じたノアだった。


「よう、ブルーキングの旦那。オレ達『月下の一角獣』を呼びつけるなんざ、どこのお大臣様だい」

 先頭のリーダーらしき男がさっそく威勢を張る。

 長めのバスタードソードを腰にさげ、雰囲気はなかなかのものだ。

 ノアは想像通りの登場に、下を向いて思わず『クスッ』と笑ってしまった。

 そのリーダーはソファーでギルド長の向かいに座っている、ノアをギラッと睨んだ。

「まさか、この貴族の坊ちゃんじゃあ、ね~だろうな!」


 ノアは立ち上がり、わざと大袈裟に胸に手を添え、貴族風の挨拶を披露する。

「始めまして、ノア・アルヴェーンと申します。以後お見知りおきを」

「なんか、胡散臭いな。オレ達の事、どこで聞いた」

 怪訝そうな表情でノアを見ている。

 他のメンバーも同様だ。


「別に貴方あなたたちの事なんて、さ~っぱり知りませんよ。ぼくはただギルド長さんに、このギルドで一番腕の立つパーティーを紹介してほしい……とお願いしただけですから」

 わざと両手を大きく広げ、とぼけた感じで返答をするノア。


「そう言う事だ、おまえら。俺に恥かかせるつもりか。まあ、そこに座れ」

 ギルド長に睨まれ、ソファーの脇に用意されていた五脚の椅子に、メンバー達は腰かけた。

「ブルーキングの旦那の紹介とありゃ、しかたねえな。話くらいは聞いてやる」

 先ほどギルド一番のパーティーと言われた事で、多少は気を良くしているようだ。


「この方は、ある目的の為に腕の立つパーティーを探しておられる」

 ウン、ウン、頷きながらまんざらではない様なリーダー。

 ギルド長はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、言葉を続けた。


「しかし、まずおまえらが使い物になるかどうか、先にテストしたいそうだ」

『月下の一角獣』のメンバーの表情は一変する。

 ノアは素知らぬ顔を決め込んで窓の外を眺めていた。


「ほ~う、Aランクの俺達をテストするとは、随分と面白い事言ってくれるじゃねえか……」

 リーダーはさすがに落ち着いて凄んでみせた。

「どんなテストするのか聞かせてもらおうか……」

「そうですね~。今度近くの狩場に二泊三日で出かけましょう。そこであなた方の力量を測りと思います」

「あんたも一緒に狩場に入るのかい? 夜の森の暗さにビビッて、寝小便垂れても知らねえぞ!」

『月下の一角獣』の女性メンバー二人がクスクスと笑った。

「なるほど! 肝試しを加えるのも一興ですね」

 こんどは、ギルド長が「クッ、クッ、クッ!」と笑った。

『月下の一角獣』は苦虫を嚙み潰した様な表情に変わった。


「いいだろう。依頼料は弾んでもらうからな」

「ええ、言い値で結構ですよ!」

 ノアは余裕たっぷりで答える。

「それでは日取りを決めましょうか」



  *  *  *  *  *



 三日後、ノアは『月下の一角獣』の馬車の中にいた。

「やっぱり馬車の旅っていいですよね!」

 馬車の幌の側面は巻き上げられ、吹き込む風は爽やかだった。

 冒険者用に新調した深緑色のローブを纏ったノアは、馬車に揺られ至極ご機嫌だった。

 しかし馬車の中の空気は重い……。


 ノアは黙り込んで思い思いに時間を過ごしているメンバーを観察していた。

 ――みんな二十代半ばくらいだろうか、雰囲気は悪くない……。

「みなさん、自己紹介していただけませんか!」

 メンバーは無言でノアの方を見た。


「……オレがリーダーのウォルターだ」

 どことなく『黄昏の梟』のジルザークに似ている雰囲気を持っている。

 若干残っているシャレークなまりのせいかもしれない。


「私は魔術士のサーシャ。攻撃系よ」

 濃いグレーのローブを羽織っている。赤味の強いブロンドの髪はボブカットで短い。

 首が長いので似合っているし、なおさら美人に見える。


「俺は、ガーディアンのアーロイス。まあチカラ仕事の担当だよ」

 カイルには少し及ばないが、なかなかがっしりとした体格の持ち主だ。

 髪は短く側面は刈り上げられていて、意外と知的な雰囲気があるね。


「わたしは支援と治癒の術士ステラよ」

 定番の緩く三つ編みにしたダークブロンドの長い髪が印象的な、綺麗なお姉さんだ。

 薄い水色のローブの着こなしも悪くない。

 

「そして御者をやっているのが、斥候スカウトのルッツだ……」

 かなり小柄ではあるが、どことなく愛嬌を漂わせるキャラだ。


「それであんたは……。いったい何者で、何が望みなんだい」

 ウォルターがナイフを磨きながら仕方なさそうに質問した。

「ぼくは王立学院で講師をしているのですよ。目的はあなた方が合格したら話してあげます」

「学院で講師って……、あなた一体いくつなの?」

 サーシャが横目で見ながらいぶかし気に聞いた。

「もう少しで十三歳になります」


「見かけは子供なのに、なんか得体がしれないわね……」



 朝早く王都サンクリッドを出発した馬車は、三刻程で中継地のアレッサ村に到着した。

 すでに眼前には、悠々と北クリスタリア山脈が広がりを見せている。

「馬車はここまでだ。ここから森に入る」

 ウォルターがノアに事務的に伝えた。

 小さな村だが、数件の宿屋や道具屋が軒を並べていた。

 大抵の冒険者はこの村をベースにして、狩りへ出かけるらしい。


 メンバーは必要な装備を分担して担いだ。

 ――ほ~う、なかなか手際がいいじゃないか。


 ノアは『月下の一角獣』に続いて最後尾を歩いた。

 森の緑は次第に深く濃くなって行く。


「さてぼくは、少し離れた場所からあなた方を観察していますからね!」

 そんなノアの言葉に振り返った『月下の一角獣』の五人だが、すでにそこにはノアの姿は無かった。



  *  *  *  *  *



「おまえ達、こってり絞られたようだな」

 ギルド長バーレント・ブルーキングは予想通りの展開を楽しんでいるようだ。

 二泊三日の狩りから戻ったノアと『月下の一角獣』はギルド長室を訪ねていた。


「発動が遅すぎる……って叱られた」と攻撃系魔術士のサーシャ。

「貧弱すぎるって嘆かれた」とガーディアンのアーロイス。

「治療が汚い……って怒られた」と支援系魔術士のステラ。

「剣筋が鈍いって笑われた」とリーダーのウォルター。

 一番落ち込んで涙目なのは、ノアと同ポジションのルッツだった。

「Fランクからやり直せ……って言われた」

 命が掛かっている以上、プロには厳しいノアだった。

 ギルド長は膝を叩いて大笑いしていた。


「ブルーキングの旦那~。もういいでしょう、その方は一体何者なんですか~」

 ウォルターが呆けながら質問する。

「そうだな、それじゃ、ヒントをやろう。この方は俺やおまえと同じ、シャレークの出身だ。ある意味おまえの後輩ともいえるな」

「後輩って……『黄昏の梟』……か」

「おい、それってまさか、今や伝説の『大樹海の支配者』……」

 その二つ名が登場して、ノアは天井に視線を遊ばせる。


「ウォルターとステラは故郷だからな。冒険者の本場フォレストゲートで、絶対的な稼ぎ頭の『黄昏の梟』は知っての通りだ。彼らをSランクまで押し上げたのは、精霊の力を使う不思議な少年だったと言う……」


「だあ~!」と訳のわからない声を上げて全員が天井を見上げた。

「ブルーキングの旦那~。人が悪いぜ。先に言ってくれよ~」

 ウォルターはガクッと頭をさげて呟いた。

「ガハハハッ! それじゃおまえ、ちっとも面白くないだろう!」


「オレとステラは冒険者見習いの頃、『黄昏の梟』に可愛がってもらったんだ。オレはジルザークさんに憧れて、一番の冒険者になりたくて、ステラを連れてレ―ヴァン王国に移って来たんだよ……」

 ウォルターは懐かしさもあってか、穏やかな表情を見せた。 

 ――どうりでジルさんに雰囲気が似ていた訳だ。

「でも、旦那は(ノアの事)、いったい何歳で冒険者になったんだい?」

「ぼくは六歳から『黄昏の梟』の先導者パスファインダーをやっていましたよ」


「なんかもう、呆れるしかないわね……」

 ステラが自虐的に微笑んだ。


「さらに……!」

 ギルド長が満面のドヤ顔でたたみ掛ける。

「まだ何かあるんですか~」

「やめて~、もう聞きたくないです」

 とステラが悲鳴をあげる。

「おまえ達は留守だったが、先日王宮で騒ぎがあったのは知っているな」

『月下の一角獣』のメンバーは皆頷いた。

「その騒ぎの張本人がこの方だ。四人の供を連れて王宮に乗り込み、一時いっときだが戦争になったそうだ。その後国王陛下と和解し『賢者』と讃えられたと言う」


「なんか見かけからは想像出来ない恐ろしい事しているのね……」

 サーシャが首を振りながら呟き、ノアを見つめた。

「その若さで賢者様か。なんか納得してしまうよ……」

 アーロイスが腕組みをしながらしみじみと呟いた。


「それで賢者殿、こいつら合格ですか?」

「落第……と言いたいところですが、ギリギリ合格でいいでしょう。ちょっと鍛えれば何とか使える様になるでしょう」

「面目ありません……」

 ウォルターがガクッと首を垂れて呟いた。


「賢者の旦那~、それでオレ達は何をすればいいですかい?」

「早急にお願いしたいのは、ぼくの仲間達に実戦経験を積ませたいので、その指導係をお願いしたいと思っています。それから今後、ぼくに協力してくれるパーティーをまとめ上げて頂きたい」


「いいか、おまえら。うちのギルドは賢者殿を全面的にバックアップして行くと決めた。おまえらの役目は、賢者殿の側近の実戦教育、それと『ここぞと言う時に使い物になる賢者殿の手駒を増やしておけ』って事だ。責任重大だぞ!」



「さて賢者殿、こいつらの報酬はいかが致しましょう。たしか、ウォルター。弾んでもらうんだったよな。いくら欲しいのだ?」

 ギルド長はニヤニヤしながらウォルターを責めた。

「……お任せします」

 ウォルターの声は小さい。

「じゃあ、こうしましょう。今回の獲物の売上を報酬としましょう。特にロックサーペントの皮は高値で売れましたよね」

「でもあいつはほとんど賢者の旦那が倒したし……」

「いやいや、あなた達のサポートもまずまずでしたよ。ぼくも昔を思い出して楽しかったですし」

「おまえ達。報酬の件はそれでいいな」

 

「十分です……」


「それでは『月下の一角獣』の皆さん。こちらの準備が整い次第連絡します。期待していますよ!」

 ノアはソファーから立ち上がり、メンバーに向かって陽気に手を振った。

「ギルド長、お世話になりました。今後とも宜しくお願い致します」

「いやいや賢者殿。久しぶりに愉快な体験をさせて頂きました。こちらこそ今後のお付き合いを楽しみにしておりますぞ」

 ノアはギルド長と軽く握手を交わし、部屋を後にした。



  *  *  *  *  *



「それでどうだった、『大樹海の支配者』様は……」

 ギルド長は真顔で『月下の一角獣』のメンバーに尋ねた。

「あれは普通の人間じゃないぞ……。すべてが常識じゃあ、考えられなかったよ」

 アーロイスがしみじみと振り返った。

「オレにはよく解る。六歳からあの『黄昏の梟』を引っ張って行ったんだろう。その事実だけでも尊敬に値するよ……」

 ウォルターと冒険者見習いの頃から行動を共にしてきたステラも大きく頷いた。


「それでどうする、みんな。オレはあの賢者の旦那に付き合ってみたいと思っているんだが」

 ウォルターがメンバーに意見を求めた。

「なんかとんでもない事になりそうだけど……。私は賛成、ワクワクするわ!」

 サーシャは楽しそうに同意した。

「俺も不安より期待の方が大きいな。ウォルター、おまえに任せるよ」

 アーロイスとウォルターは頷き合った。

「ルッツはどうだ?」


「おれはあの旦那から勉強させてもらうよ……」

 ルッツは相変わらず落ち込んでいる。

「おまえが一番、ボロクソ言われていたからな!」

 メンバーは憐れみ半分、励まし半分でルッツを笑った。 







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