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導きの賢者と七人の乙女  作者: 古城貴文
一章 冒険者ギルド編

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第5話 クレーター湖の魔結石採掘


「この崖をロープで十ヒロくらい降りると大きな横穴があります。」

「なるほどここか、この円形湖はヤバイところだからな」

 ジルザークが辺りを見渡しながらつぶやいた。

 はるか下方の湖面から、イヤな風が吹き上げてくる。

「なんでも前文明が六千年くらい前に起こした終末戦争の時に出来たクレーターらしいぞ」

 カイルは見かけによらず、博識だった。

「だからこんなにイヤな感じの瘴気が強いのですね」

 ――終末戦争。イヤな響きだ。確かぼくも以前この言葉に怯えていた様な気がする。いったい、いつの記憶なのだろうか……。


「よし、仕事にかかろう。降りるのはオレとノア。いいな」

「はい、了解です。サーラさん、セシルをお願いします」

「任せて、ノアちゃん!」

「マリア、上から援護だ。襲って来る魔鳥を片っ端から撃ち落とせよ。頼んだぞ!」

「がんばるわ!」

「カイル、上でみんなを守ってくれ、それとロープの管理を頼む」

「了解した!」

「サーラ、セシルを頼む。それから不測の事態に備えてくれ」

「わかったわ!」


 二本のロープを近くの木に結び付け、降下準備は完了した。

「よし、ノア。それじゃ行ってみようか!」

「ちょっと待って下さいジルさん。すこし体重を軽くしましょう」

 そう言ってノアはジルザークの両腕をつかんだ。そして魔力を流し込む。

「どうですか、身体が軽くなったはずです」

 ジルザークがその場で軽く飛び跳ねてみる。すると簡単に一メートルほどジャンプすることができた。

「すごいな、これがおまえの跳躍力の秘密だな! どこで習った⁈」

「森の中で動き回るには、セシルをおぶっていると重いじゃないですか。なんとかならないものかと試行錯誤しているうちに出来るようになりました」

「まったくおまえは大したヤツだよ。よし、行くぞノア!」

「はい」

 

 ジルザークとノアは、太ももにロープを絡め、器用に崖を下り始めた。

 すると案の定あちこちの小さな横穴からロックスワローが飛び出して来た。

 高速で飛行し、固いくちばしを武器に攻撃してくる。

 崖の上からマリアが魔力弾で功撃しているが、高速で飛行するロックスワローにはなかなか当たらない。

 ノアも降下しながら迎撃するが、やはり命中させる事は難しかった。

 ――そうだ、小さな魔弾をたくさん作って、散弾にしてみよう!

 ノアはイメージ通りに散弾を作り上げ広範囲に発射した。

 すると見事に六羽のロックスワローが墜落していった。

「ジルさん、迎撃は任せて下さい。気にせず降下に集中して下さい!」

「すまねえな、ノア」

 ノアは要領を得て、次々にロックスワローを撃墜していく。

 ノアは魔力弾による広範囲攻撃を習得した。


「おお、ノアちゃん器用な事するわね! 私もマネしてみよう」

 マリアも散弾の練習を始めた。


 下に降りるにつれ、こんどは吸血蝙蝠ヴァンパイアが多くなってきた。

 飛行速度が遅い分、魔力散弾はさらに有効だった。


「よし、着いたぞ!」

 ジルザークがロープを離し、横穴に入り込んだ。続けてすぐにノアも到着する。

 背負っていた皮袋を下ろしたジルザークは、ほっと一息入れた。


「ジルさん……」

「なんだ、ノア」

「頭に一匹、吸血蝙蝠ヴァンパイアが噛みついています……」


「おーっ、結構広いな」

 そこは直径が三メートルほどある横穴だった。

「目当ての紫色の魔結石も結構ありますね」

「よし、オレが掘るから、ノアは見張りを頼む」

「わかりました」


 ジルザークは石ノミと金槌を取り出し採掘を始めた。

 ノアは吸血蝙蝠ヴァンパイアの襲撃を警戒している。

 しばらく入り口で警戒していたが、なぜか一匹の侵入もなかった。

 違和感を覚えたノアは洞窟内を観察し始めた。

 ノアはさらに洞窟の奥に進んでみる。

 すると、とんでもないモノを発見してしまった。


「ジルさん……」

「なんだノア、もう少し掘りたい」

「ジルさん……、ちょっとまずいです」

「なにがまずいんだ、ノア」

「奥に見た事もないデカい卵があるんです……」


「……なんだと」

 ジルザークは作業を止め、ノアと共に現物を確認する。

「な、なんなんだ、このデカい卵は!」

 そこには小枝を絡ませ造られた巣の上に、五つの巨大な卵が乗っていた。

 直径が三十センチくらいだろうか、茶、緑、灰色といった気色の悪い配色の殻だった。


「これ絶対マズイやつ、だよな……」

「ぼくもそう思います」

 ジルザークとノアは肩を持ち上げ、顔を見合わせた。

「こりゃ急いで退散したほうがよさそうだ!」

 ジルザークとノアは慌てて散らばっている魔結石を皮袋に詰め込んだ。

「急げ、急げ、急げ、急げ!」

 可能な限り詰め込むと、結構な重量になった。

「ノア、こいつを軽く出来るか⁈」

「わかりました!」

 ノアの術が終わると、間髪入れずにジルザークは革袋をロープに括り付けた。

「おーい、カイル! 急いでこいつを引き上げてくれー!」

 ジルザークが上に向かって叫ぶ。

「了解した!」とカイルの大声が帰ってきた。


「ジルさん、なにかこちらに向かって飛んできます……」

 鳥のような飛翔体が湖面の上空をこちらに向かって飛んでくる。

 それはみるみる想像以上に大きく見えて来た。

「なんだあれは? 鳥か⁈」


 そのころ崖上でも飛翔体に気付き、大騒ぎになっていた。

「なにあれ! ちょっとデカくない⁈」

 マリアが悲鳴に近い声を上げた。

「やばいぞ、あれはコカトリスか? いやバジリスクだ!」

 カイルは引き揚げ終わった革袋からロープを外し、急いで崖下に降ろした。



「おいノア、どんどんデカくなって来るぞ! 何なんだあれは⁈」

「知りませんよ! ぼくも初めて見ました!」


『グギャ――――!』

 怒りに満ちたような鳴き声がクレーターの壁に反射し、大きく何度もこだました。


 怪鳥は大きく羽ばたいて速度を調整すると、横穴の入り口に『どさっ!』と着地した。

 頭はニワトリのようで、身体は竜の様、そして羽は鷲の様な異形の魔物だった。

 洞窟の直径から推測するに、体高は二メートルを超えているだろう。

 頭を横に向けて左目で睨むと、そいつは攻撃態勢に入った!


「ノア――! こいつに罪はないが、やってくれ――!」

「ごめんなさい!」

 そう叫んで、ノアは左手から特大の魔力弾を放った。

 胸に大穴を開けたバジリスクは反動で洞窟からはみだし、はるか下の湖面へ錐もみしながら落下していった。


「ノア、助かった……。あいつは多分つがいだ。今のうちずらかるぞ!」

「そうしましょう!」

 ジルザークとノアが慌ててロープを登り始めると、遠くから『グギャ――!』と新たな鳴き声が聞こえてきた。


 上からマリアが叫んでいる。

「もう一羽来たわ! はやく、はやく!」

「オレたちは大丈夫だ! マリア、早くみんなと森の中に逃げ込め!」

 急速に近づいてくるバジリスク。

 登り切った瞬間、二人の上空ぎりぎりをかすめた。

「で、でかい!」

 翼を広げたその全長はゆうに五メートルを超えている。

 旋回して戻って来るまでに、二人は全力で森に向け走った。

 二度目の攻撃の寸前、ノアは振り向いて魔力散弾を放つ。

 数弾命中し、『グギャ――!』と悲鳴? をあげて、大きく飛び去って行った……。

その隙に『黄昏の梟』のメンバーは一目散に森の奥へ逃げ込んだ。



「ハア、ハア、ハア……。ここまで来れば大丈夫だろう」

 一斉にしりもちをついたメンバー達は、なぜか急に笑いがこみ上げて来た。

「久しぶりだな、こんなに本気で逃げたのは。なんか、昔を思い出しちまったよ」

 カイルが革袋を『ドサッ!』と投げ捨て笑っている。

「そうね……。冒険者駆け出しの頃は、こうやってみんなで、よく逃げ回っていたわよね!」

 マリアも懐かしそうに同意した。

「ああ、なんだか若返ったきがするわ!」

 サーラもセシルを抱きしめながら、おばさんのような事を言う。

 

「しかしあのバケモノは、一体なんなんだ⁈」

 遠くでまだ『グギャ――!』と鳴き声が聞こえる。

「あれは多分バジリスクだ。伝説のバケモノと思っていたが、こんな瘴気が強いところがあいつらの住処なんだろう」

 カイルが頭を左右に振りながらジルザークに返答した。

「あいつらには申し訳なかったが、収穫は十分だ。明るいうちにキャンプを張って、明日朝一番で帰ろう!」

「そうしよう」

 ジルザークの指示に、メンバー全員が腰をあげた。



『黄昏の梟』一行は、夜露がしのげる大きな樫の木を見つけると、そこにキャンプを張った。

 手分けをして、手際よく宿営の準備を整える。

 辺りがすっかり暗くなった頃、焚火を囲んで簡単な食事をとりながら、みんなで雑談をしていた。 

 セシルはノアに抱かれているのに飽きたのか、両手を振りながら暗がりの方へヨチヨチと歩いていった。

 なにかを追っている様にも見える。

 少し離れたので、ノアが後から追っていった。

 二人は夜の闇に溶け込んでいく。


「ねえ、見て! あの子たちのまわり!」

 サーラが二人を指差し、声を上げた。

「すごいわ!」

 マリアも気付くと感嘆の声を上げた。

「おい、オレ達には何の事だか、さっぱりわからないが?」

「そうか、魔術を使えない人には見えないのね、あの子達のまわりにオーヴが集まっているの! それも尋常な数じゃない……」

「私も長いこと魔術士やっているけど、こんなにたくさん見たのは初めてよ」

 セシルが小さな両手で、ゆっくりと浮遊するオーブを捕まえようとして遊んでいる。


「ジル、カイル、私たちに触れてみて。そうすれば少しは見えるかもしれない」

「本当だ。なんとなくぼんやりと光っているのが見える」

 ジルザークとカイルは不思議そうに眺めている。


 ノアがセシルを抱いて戻って来た。

「あなた達のまわり、いつもあんなにオーヴが寄って来るの⁈」

「あれは、オーヴって言うのですか?」

「そうよ、自然界にいる精霊の粒子の集合体なの。大まかに水のウンディーネ、地のグノーム、火のサラマンドル、風のシルヴェストルの四種類に分類されているのよ」


 ――これは昔、どこかで聞いた事がある。エレメンタル四大元素ってヤツだ……。


「サーラさんは魔術に詳しいのですね。誰に教わったのですか?」

「その昔、有名だった賢者様のお弟子様の弟子がわたしの師匠なの!」

「(ちょっと微妙だけど)凄いんですね」


「普通、私はシルヴェストルとか、サーラはウンディーネとか適正があるのだけど、あなたたちには全てのカラーが寄って来ている。特にグノームは激レアね」

 サーラは少し興奮しながらノアに説明した。 

「あなた達は精霊に愛されている……なんてレベルじゃない! きっと加護を受けているに違い無いわ!」

「なるほど……それで森の中でも生きて行けた訳だ」

 カイルは妙に納得しているようだ。


「この子達、私たちが思っている以上に、きっと凄い大物に違いないわ……」



  *  *  



 翌日、『黄昏の梟』一行は帰路半分ほどの三日月湖の畔で休憩をとる。

 ノアはセシルを水遊びさせていると、風の精霊のざわつきで異変を感じ取った。

 その方向を注視していると、やがて森の中から灰色の煙が上がり始めた。

 急ぎジルザークらが休んでいる所に戻り、異変を知らせる。


「まずいですね……。あの辺は例のキラーホーネットの巣があるあたりです」

 ノアは方向を指し示しながら、みんなの注意をひいた。

「たしか今日は三パーティー合同で、キラーホーネット駆除に出ているはずよ!」

 

「いやな予感がします。ぼく急いで先に行きますから、サーラさんとマリアさんも後を追ってくれますか。ジルさんとカイルさんは荷物とセシルをお願いします!」


 ノアは順番に、サーラとマリアの両腕をつかみ、魔力を送り込んだ。

「これで身体が軽くなったはずです。速く走れるでしょう」

 

「これ昨日ジルにかけていたヤツね。なんて不思議な魔術なの⁈ ねえサーラ、術式が理解出来る?」

「私にも良くわからないわ! たぶんグノームの精霊を操っているんだと思うけど」  


「それではぼくは先に行きますので、後はよろしくお願いします!」

 言うや否や、ノアは疾風の如く森の中へ消えていった。






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