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導きの賢者と七人の乙女  作者: 古城貴文
三章 王立学院編

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第48話 チーム対抗公開模擬戦2~カラーウィッチィーズ~



 夏を予感させる日差しが眩しい五月の第二休息日、王都サンクリッドの名物行事である、王立学院有志グループ他による公開模擬戦が執り行われる。

 会場は王立競技場が貸し切られ、毎年市民にも無料で観戦が公開されていた。

 朝から開催を告げる花火が盛大に打ち上げられ、五千人は収容するであろう観客席は、すでに埋め尽くされようとしていた。


「ほんとに賑やかなんだね」

 競技場を訪れたノアは、辺りを興味深そうに見渡していた。

 この競技場は貴族や騎士による馬上槍試合ジョストや、軍の式典などでよく使われるらしい。


「それより皆さん、お似合いですよ!」

 その言葉を待っていましたとばかりに、エジェリーとレベッカは並んでポーズを決めた。

 N資金で仕立てたコスチュームのお披露目だった。

 エジェリーが漆黒、レベッカが真紅で、デザインは共通である。ちょっとタイトな戦闘服だ。上部が折り返された茶色いロングブーツがアクセントになっている。

 そしてエジェリーは襟のついたマントで表地が黒、裏地が赤である。

 対してレベッカは、魔術士のローブで、表地が赤、裏地が黒である。


 ノアの不満はただ一つ、スカートでなくボトムスであった事だ。

 さっそく不満をぶつけてみた。

「だって、戦闘中にスカートがめくれると恥ずかしいじゃない……」

 まあ、それはごもっともな意見ではある。

「それに、すぐそばにスカートめくりの天才がいるし……」

 バレバレだった。この話題にこれ以上触れるのはやめよう……。


 アイリとリーフェは、グレーの落ち着いた事務的な外出着の様な装いだ。

 プリムの大きな可愛い帽子も被っている。とても戦闘服には見えない。

「ノア様、私たちはこの装いでよろしいのでしょうか」

 アイリとリーフェは両手をひろげて、自分達の着こなしを確かめ、不思議がっている。

「二人供、とっても可愛いよ。君達は戦闘に参加するわけじゃないから、むしろそれでいいんだ」


「それでは皆さん、行きましょうか。決勝まではサクッと終わらせますよ!」

 ノア率いるチーム『黄昏の梟』は受付を済ませ、控室に入った。



 今回の大会は十六の出場チームによるトーナメント戦である。

 試合時間は十五分。

 一回戦八試合は午前中に消化される予定だ。


 そして一回戦の第六試合、いよいよ『黄昏の梟』の登場であった。

 ノア達が観客席下の通路からフィールドに姿を現すと、割れんばかりの歓声が起こった。

 注目度はナンバーワンと言っていいのだろう。

 レベッカが両手を振って歓声に答えている。

 ――それにしても凄い盛り上がりだね。そしてこの競技場の圧迫感。まるで楕円のすり鉢の底にいるようだ。恥ずかしいから、出来るだけ目立たないようにしよう……。

 そしてノアは貴賓席を探した。そこはすぐに見つかったが、空席のままだった。

 ――まあ、彼らも一回戦から来るほど暇ではないか……。


 そして対戦相手の登場だ。

 全身鎧プレートアーマーに身を包んだ四人組、『ファントムアーマーズ』がガシャガシャ音をたてながら入場してきた。

「なんなのですか、あれは……」

 ノアは呆れて尋ねた。

「彼らは学院の鎧愛好会のメンバーよ。毎年出場するのが伝統らしいわ」

 エジェリーが笑いながら答えてくれた。

「それではフーガさん、挨拶にいって『ムキッ!』っと一発決めてきて下さい」

「かしこまりました」

 そう言ってフーガは皮のジャケットを脱いで、ピチピチの肌着姿で駆け出して行った。

 センターラインを挟んでお互いの代表は試合前の握手をする。

『ファントムアーマーズ』の代表は両腕の拳を叩き合わせ『ガチャン!』と音をたててアピールした。

 会場からは拍手が沸き起こった。

 対するフーガは両腕の持ち上げ、『フロントダブルバイセップス』のポーズをムキッっと決める。

 大歓声が巻き起こった。

 前哨戦はフーガに軍配が上がった様だ。

 満足顔のフーガは観客席に手を振りながら凱旋して来る。

「お見事です! フーガさん」

「これもノア殿の指導の賜物!」

 ノアとフーガは堅い握手を交わした。 


「それでは、一回戦は特に作戦もありません。エジェリーとレベッカでさっさと終わらせて来てください」

「了解したわ!」

 試合開始の笛の合図と共に、エジェリーとレベッカは敵陣に突進した。

 今度は赤と黒の凛々しい美少女の姿に観客席は大いに沸いた。


「アイリとリーフェは、ぼく達の両翼二十メートルで姿勢よく試合を観戦していてくれ。この試合はそれだけでいい」

 二人はノアに了解の返事をすると、指定された位置についた。


「ノア殿、あの二人は何か意味があるのですか?」

 ノアの前で大盾を構えるフーガが質問した。

「まあ、そのうち解りますよ。彼女達は絶対秘密兵器シークレットウェポンですから!」


『ファントムアーマーズ』は一人がフラッグを守り、三人が横隊を組んで進撃してきたが、その進軍速度は遅い。

 全身鎧プレートアーマーは、本来は騎乗用であって、その全質量は三十キロはあるだろう。無理もない話だ。

 エジェリーとレベッカはセンターラインを大きく超え、敵陣に深く入ったところで『ファントムアーマーズ』と相対した。

「まずは、わたしから行くわね!」

 エジェリーが鎧に向けて切りかかった!

 鋭い突きは『カンカン!』と小気味の良い音をたてるが、エジェリーの剣はレイピアを模した木剣である。ダメージを与えられるわけがない。

 鎧の戦士は抵抗する事もなく、勝ち誇っている。

 エジェリーは突然攻撃の手を止め、レベッカに歩み寄った。

「わたしには相性悪いわ。レベッカに任せる」

 二人は選手交代のタッチをみせる。


 レベッカは『ファントムアーマーズ』の前に立つと、両手を組んで思案し始めた。

 突然腰に下げたワンドを手に取り、近くの土塁に向ける。

 レベッカは集中し、かなり大きめの魔力圧縮弾を作り上げると、すぐさま土塁に向けて発射した。

「ドン!」かなり大きい衝撃音を立てて土塁はえぐれ、強烈な土ぼこりが舞い上がった。

『ウオー!』と観客席からは驚きの歓声が上がる。

 続けて『ファントムアーマーズ』の方に向き直ると、小さな魔力圧縮弾を三発、三騎の鎧戦士に『コン! コン! コン!』と続けて当てていった。


『ピ・ピー!』と笛がなり「クリティカルブロー!」と審判が戦闘不能を宣告した。

 観客席からはどよめきが起こる。

 レベッカは残る一騎にワンドで狙いを定める。

 最後の鎧戦士は両手を上げて降参した。

 その様子を確認した審判は『ピー・ピ――』と試合終了の笛を吹いた。

「勝者、黄昏の梟チーム!」


 観客席は初め微妙な空気が流れたが、やがて拍手へと変わっていった。

 エジェリーとレベッカは勝利のタッチをハイ・ローと二回交わした。

 凱旋するエジェリーとレベッカには祝福が、負けた『ファントムアーマーズ』には罵声が浴びせられていた……。


「レベッカ! 見事な攻め方だったよ。よく考えたね」

 直接魔力圧縮弾をぶつけなくてよかった……。と安堵しているノアだった。

「審判がどう判断するか微妙だったけど、ちゃんと取ってくれてよかったわ!」

 レベッカは興奮気味に答えた。

「さて、二回戦は午後からだ。控室に戻って休憩しよう」



  *  *



 二回戦第三試合の相手は、チーム『カラーウィッチィーズ』が勝ち上がってきた。

 今年が三回目の出場であり、実力もそこそこながら、大会屈指の色物チームであった。

 彼女達が目当ての観客も非常に多いようだ。


 試合開始前の挨拶に志願して出たのはレベッカだった。

 早くもレベッカがフィールド中央で、敵主将と火花を散らしている。


「「あんた、ワタシとキャラ被っているのよ!」」

 双方が同時に同じセリフを相手に突き刺す。


 同じ魔女同士、そしてなにより二人とも全身真っ赤なコスチュームなのである。

「この勝負で決着をつけようじゃないの! 負けた方が今後一切赤は着ない事!」

 相手のリーダーがレベッカに、ビシッとタクトを向けた。

 その仕草を見たレベッカの表情は、急に穏やかになった。


「あんた、身の程知らずにも程があるわ……。お気の毒様……」

 真っ赤なローブを『バサッ!』と翻し、陣地に戻るレベッカはニヤリと不敵な微笑みを浮べていた。


「この試合は、ぼくがここから魔術を二つ使うから、あとは二人で頼むよ」

「ノア、またやる気ね!」

 エジェリーは半分呆れている様だ。

「せっかく来てもらっているお客さんに、サービスしないと悪いだろ」

 チーム『カラーウィッチィーズ』は五人全員が魔女っ子のメンバーだった。

 それぞれ赤、青、緑、黄、桃を基調とした魔女服を着ている。おまけにスカート丈は膝上と短い!

 まさにノアの格好の標的エモノだった。


「レベッカ、この試合は魔術をジャミングするから使わないように。タガーは持っているかい?」

「もちろんよ! 腰の後ろに下げているわ。ワタシだってエジェリー程じゃないけど、タガーを扱うのは上手じょうずなのよ!」

「それからアイリとリーフェはそれぞれ両翼の壁伝いをゆっくり歩いて、センターラインまでいったら折り返してきてくれ。それからゴミが落ちていたら必ず拾ってくるように」


 そして試合開始の笛が鳴った。

 エジェリーとレベッカはまたも颯爽と敵陣を目指す。

『カラーウィッチィーズ』は動かず、まずは五人でフラッグを死守するようだ。

 程なくエジェリーとレベッカは、五人の前に相対した。


「女二人でノコノコやって来るなんて、あんたたちバカね!」

 リーダーがそう言うと残るメンバーがクスクスと笑った。

「あんたたちは私たちの合体魔術で黒焦げにしてあげるわ!」

 五人は一斉にタクトを構えた。

 エジェリーとレベッカは両手を腰に、平然と余裕を見せている。


「あのさ、魔術は使わない方がいいわよ」

 レベッカが一応、警告した。

「そんな脅しが効くと思うの! ほんとにバカね」


「みんな、行くわよ!」

「「「「「ファイブアタック・ファイアボール――!」」」」」

 五人の魔女っ子は声をそろえた!

 すると五人のタクトの先端から急激に炎が噴き出した!

「キャ――!」

「なにこれ! 炎が噴き出して止まらない!」

「いや~!怖い!」

 五人は全く魔力の制御が出来ない様だ。

 およそ五秒で炎の噴出は収まった。

 どうやら魔力が枯渇するまで止める事が出来なかったようだ。

 五人は茫然と立ち尽くしている。


「エジェリー! 来るわよ!」

 レベッカの合図で、二人は左右に跳躍する。

 その瞬間、後ろから強烈な突風が襲って来た。

 エジェリーのマントとレベッカのローブが大きくひるがえった。

 直後、突風は五人の魔女っ子を直撃した。

 五人のとんがり帽子は高く舞い上がり、スカートは見事にまくれ上がってはためいた。

 彼女達は成す術もなく、スカートを抑える力すら残されていなかった。

 この時、観客席のボルテージはマックスに達した事だろう。


 彼女たちは茫然と力尽き、ぺたりと地面にしゃがみこんだ。


 エジェリーはゆっくりと順番に木剣で、彼女達の胸を『チョン』と突いていった。

『ピ・ピー!』

「クリティカルブロー!」全員戦闘不能!

「勝者、黄昏の梟!」


 レベッカはしゃがみ込んだ五人の中央にいるリーダーのレッドの前に歩み出た。

 そして不敵な微笑みで見降ろしながら呟いた。


「約束は守ってもらうからね」

 リーダーのレッドは涙ぐみながら答えた。

「わかっているわよ……」

 彼女は完全にふてくされている。


「今度はブラックを名乗るからいいもん……」

 このセリフにはエジェリーが過剰に反応した。

「ブラックを名乗ったら、今度はわたしが泣かすわよ!」

「ヒィ――! ごめんなさい」


 こうして女たちの熱い戦いは幕を閉じたのだった。







 

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