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導きの賢者と七人の乙女  作者: 古城貴文
三章 王立学院編

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第47話 チーム対抗公開模擬戦1~出場~


  

 カールソン砦の防衛に辛くも成功し、ひと段落ついた事に安堵していたノアだったが、さっそく次の問題がエジェリーとレベッカからもたらされた。

 この学院では毎年五月の第二休息日に、王立の競技場を借り切って『チーム対抗公開模擬戦』が行われるのだという。

 一般にも公開され、競技場の外には露店も並び、一種のお祭りなのだそうだ。

 また王国軍部からの品定め的な側面も持っているのだとか。


「ノア、出るわよ!」

 エジェリーがノアの右手を取った。

「師匠が出れば、優勝はいただきねっ!」

 レベッカが左手を取る。

 こんな時のエジェリーとレベッカの結束は固い。まったく仲が良いのか悪いのか……。


「え~っ、ぼくはもう講師の立場だから、出ちゃまずいんじゃないの?」 

「それは大丈夫よ。出場規定には十八歳以下の年齢制限があるだけだから。学院外からの出場も認められているのよ!」

 エジェリーはノアに向けて、わざと満面の微笑みを浮べている。

「今回は師匠が出場するんじゃないかって、かなり話題になっているのよ。出ない訳にはいかないでしょ!」

 レベッカもグイグイ押してくる。


 ノアは全く乗り気ではないが思案した。

 これを王国へのアプローチに利用しようかと考えたのだ。

「仕方ないな~。ただし一つだけ条件がある。ぼくが立てる作戦には従って欲しい……」

 エジェリーとレベッカは顔を見合わせ、両手でハイタッチを交わした。

「明日は休息日だから、さっそく作戦会議を開きましょう!」



 翌日の午後、学院特別棟のノアの部屋にメンバーは集結した。

「それでは作戦会議を始めたいと思います。はい、拍手!」

 パチ、パチ、パチ、パチ。

 司会進行はエジェリーが務める様だ。

「まず、わたしがスカウトした新メンバーを紹介します。フーガ・ハルバートさんです!」

 巨体のフーガが可愛らしく頭を下げた。

「ここにいるって事は、そう言う事だと思っていましたが、どうしちゃったんですか? フーガさん」

 ノアは半分呆れながらフーガに問うた。

「エジェリー嬢からどうしても! と誘いを受けまして。まあ自分もノア殿のチームに入れて頂けるとあらば、断る理由はありませんよ」

 フーガは少し照れながら頭をかいた。


「まず目標ですが、あくまでも『優勝を狙う!』という事でよろしいでしょうか」

 エジェリーがメンバーを見渡しながら確認する。

「当然よ! それでチーム名はどうするの?」

 ノアは焦った。彼女たちのセンスに任せると恥ずかしい思いをするのではないかと……。

「黄昏の梟……はどうかな」

「たそがれのふくろう? どんな意味があるの」

「言葉自体には結構哲学的な意味合いがあるのだけど、ぼくが冒険者の頃に所属していたパーティー名なんだ」

「そうなんだ、ならそれに決めましょう」

 レベッカの一言に全員が頷き、意外な程安直に決まってしまった。


「それではまず、ルールの確認をしたいのだけど。」

 ノアがみんなに説明を求めた。

「まずチーム編成は最大で六人。最小は二人よ」

「ぼく達は今四人だから……そうだアイリとリーフェもチームに加えよう!」

 ガシャン!と壁際から音がした。メイド服を着たアイリが、お茶の支度中手を滑らせたのだ。

「わ、わたしもですか!」

 アイリがこちらを向いてとても驚いている。

「そう、ひとつ作戦を思いついた。君達には絶対秘密兵器シークレットウェポンになってもらう。お茶の支度が終わったら、アイリもそこに座りなさい」

 アイリは全員のお茶を用意し終えると、少し遠慮がちにエジェリーの隣に座った。


「フィールドはどうなっているの?」

「競技場内は東西百メートル、南北五十メートルの長方形で、東軍と西軍に分かれて戦うの。

 センターにラインが引かれていて、両軍最奥にフラッグが立てられるわ。センターラインから四十メートルのところにもラインが引かれていて、試合開始はそのラインからスタートするのよ。そして双方の陣地に二つ土塁が築かれているわ」

 ――だいたいサッカー場と同じくらいの広さだな。


「勝敗の決め方は?」

「敵軍のフラッグを取るか、全員が戦闘不能になるか。その二つよ」

「武器は?」

「さすがに剣や槍の真剣は禁止。木製の模擬戦用を使用するの。防具は自由、魔術も自由よ。四人の審判が技の有効度を判定して、クリティカルをもらった場合は戦闘不能を宣告されるわ」

「魔術は自由なんだ……」

 ――いかにこの国の魔術が低レベルであるかの証明だね……。学生レベルでは命の危険はないと判断されているのだろう。

「ぼくの場合は魔術の自主規制が必要だね。レベッカも、もうそのレベルにある。相手を魔力圧縮弾で貫通しちゃだめだよ!」

「わかっているわ!」

 レベッカは瞳を泳がせて考えている。

 ほんとに解かっているのだろうか……。


「次にライバル視するチームを教えてくれるかい」

「一番に挙げるのはやっぱり去年の優勝チーム『青い稲妻』ね。チームといっても二人組なのだけど」

「えっ、二人組なんですか⁈」

「そう、アタッカー一人とディフェンダーが一人。要するにアタッカーのタイラー・アールステッドが強すぎて、一人で全部終わらせちゃうわけ……」

「そのタイラーさんって、どんな人なんですか⁈」

「レ―ヴァン王国四つの侯爵家のひとつ、名門アールステッド家の末っ子なの。でも母親が平民出のお妾さんで、本人もその事を気にしているみたいなのよ……」

 エジェリーはそう言い終えるとレベッカを見た。

「だからなんか斜に構えているところがあるのよね~」

 レベッカもすかさず補足する。

「自分も彼とは同い年で、幼馴染なのですよ。小さい頃はよく泣かされたモノです」

 いまのフーガからは想像も出来ないが……。

 

「メンバーのもう一人はどんな人なんですか?」

「音楽科の学生で、吟遊詩人かぶれの変わった人。なぜかタイラーと馬が合う様なのよ。戦闘には全く参加しないで、ただひたすらフラッグを守りながら、リュート弾きながら歌っているわ」


「ほかに注意すべきチームはある?」

「去年準優勝だったのは、普段は冒険者やっている若い四人組のおかしなチームなの」

「おかしなチームって……?」

「リーダーが自称勇者様なのよ。なんでも夢でお告げを受けたそうよ」

「それはなんとも微妙だね。本物なのだろうか」

 エジェリーとレベッカはシンクロして首を横に振った。

「大会十日前に出場受付があるわ。その時顔を合わせる事があるかもしれない……」


「よし、だいたい要領を得た。それではさっそくみんなの試合用のコスチュームを用意しなくてはイケナイね。エジェリー、N資金を使って構わない。フリージアさんに相談するといいだろう」

「やった――! ありがとう」

 エジェリーとレベッカは飛び上がって喜んだ。

「フフフッ! どうせヤルなら、ぼくはこんな所にはこだわりがあるのさ!」

「ひとつ注文があるのだけれど、アイリとリーフェ用は、申し訳ないけど目立たない落ち着いた感じにしてくれるかい。これも戦術のひとつなんだ。それからフーガさんにはカッコイイ大盾をプレゼントしましょう!」

「よろしいのですか、ノア殿」

「いいのいいの、師匠は賢者リフェンサー様からたくさんもらっているから!」

 レベッカはちゃっかりしている。ノアは苦笑いした。

「ますます楽しみになって来たわね!」

「師匠が絡むとなんでも、超本格的になるからね!」



  *  *



 大会十日前、学院回廊の片隅に出場受付が設置された。

 学院卒業生が運営に携わっているのだそうだ。

 出場者をひと目見ようと、すでに人だかりが出来ていた。

 ノアがエジェリーとレベッカを従え現れると、辺りは大きく盛り上がった。

「やっぱり賢者の後継者様が出場されるぞ!」

「アルヴェーン先生の戦いが見られるぞ!」

 そのニュースはすぐに学院中に知れ渡った。

 ノアが受付を済ませ帰ろうとすると、正面から冒険者の様ではあるが、少し派手な装いの四人組がやってきた。

「ノア、例のおかしな人達よ!」

 エジェリーが小声でささやいた。 

 本戦前に有力チームが顔を合わせる、お約束の展開だった……。


「これはこれは、賢者の後継者様とお見受けするが」

 派手な装いの集団の先頭に立つ青年が声をかけて来た。

「どちらさまでしょうか……」

「私は勇者と称えられる者!」

 ――うわ~、この人自分で勇者って言っちゃったよ。絶対ダメなセリフだよ、それ。


「どうだい、今度の模擬戦で僕たちのチームに入らないかい。活躍次第では我が勇者パーティーの正式メンバーに考えてもいい」

 自称勇者は前髪を横に払いながらキメポーズを作った。

「エーッ、マジに~! かわいいけどちょっと早いんじゃない」

 絶対、攻撃系魔術士に違いない黒衣のお姉さんが笑いながら言った。

 しかし魔女の折れ曲がったとんがり帽子は、とてもよく似合っている。


「残念ですが、後継者様はわたし達とチームを組んで出場しますの。そんなことより勇者御一行様は、いつになったら魔王討伐に出かけるのかしら?」

 エジェリーの一言はいつも相手を容赦なくエグる。 

「む、無理を言っちゃ困るよ、キミ。残念ながら魔王はまだ現れていないのだ!」

 自称勇者の歯切れは悪い。

「あら、よかったですね! 勇者様が生きているうちは、現れなければいいですわね」

「ちょっとあんた! それどういう意味よ」

 ――ああ、エジェリーは敵をこしらえるのが得意なタイプだわ……。でもちょっと生意気だから、魔女のお姉さんにはお仕置きをしてあげよう。

 ノアは誰にもバレない様に、そっと手のひらに小さく弱い圧縮空気弾コンプレッションを作った。

 そして床にバウンドさせて魔女のお姉さんの黒いスカートをまくり上げた!

 ――しまった! 少し強すぎた!

 魔女のお姉さんのスカートは、おへそが見えるほど全周に渡ってまくり上げられてしまった。

 そして真っ白な、かぼちゃパンツは見事に披露された。

 魔女のお姉さんは「キャ――!」と絶叫してスカートを抑えつつ周囲を見渡す。

 あたりは大歓声に包まれた。

 やがてだれもが年に似合わないかぼちゃパンツを笑った。


 しかし正面でしっかりと鑑賞したノアだけは真顔だった。

 ――違う! この魔女のお姉さんは知っているのだ。魔女が纏う黒いコスチュームの中には、白いかぼちゃパンツが正統であると言う事を!


「あなたを誤解していました……」

 ノアは真っ赤な顔をした魔女のお姉さんにそう声をかけたが、彼女には真意は伝わらなかったようだ。

「行くわよ!」

 そう言った魔女のお姉さんは自称勇者を蹴飛ばしてから、外へ足早に去って行った。

 自称勇者は急いで受付を済ますと、魔女のお姉さんを追って行った。



 あたりが落ち着きを取り戻した頃、今度は二人の青年がこちらに向かってきた。

「ノア、あれが去年の覇者、タイラー・アールステッドよ」

 周りでは数人の女生徒が顔を赤らめながらタイラーを覗き見ている。

 かなりモテモテのようである。

 長身でありながらたくましく、イケメン。

 名家のお坊ちゃまでありながら剣の腕は最強。

 さりげなく悪っぽくって、どことなく影がある。

 モテる要素をすべて詰め込んだ、まさにオールインワンの青年ではないですか。


「やあ、エジェリーちゃん、レベッカちゃん、久しぶりだね。ちょっと見ないうちに二人供、ずいぶん綺麗になったじゃないか! やっぱり今年も出るのかい⁈」


「あら、アールステッド様。しばらく見ない間に、お口は上手になられたのですね」

「今年はあなたに勝って、優勝させて頂きますわ」

 エジェリーとレベッカはトラの威をかり好戦的だ。

 タイラーの視線はエジェリーとレベッカの間にいるノアに移った。

 身長百八十センチを超えるタイラーは、百六十センチに満たないノアを、しばらく無言で見降ろしていた。


「……本番を楽しみにしておくよ」

 タイラーはそれだけ言うと、受付の方へと歩いていった。 


「ノア、それで彼はどう?」

 エジェリーはノアにタイラーの感想を求めた。

「どうって、やっぱり一番強いんじゃないの。学生レベルではね……」








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