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導きの賢者と七人の乙女  作者: 古城貴文
三章 王立学院編

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第46話 カールソン砦防衛戦3~終戦~

 


 私はアリス・スピルカ。

 王立学院で魔術の講師をしている。

 あの子達、いや増援軍をカールソン砦に送り出してから、すでに二十日が経過した。


 その日の夕食前、私とレベッカが父の帰宅を食堂で待っていると、いつもは冷静な父が、とても慌てた様子で帰って来た。

「アリス! レベッカ! ヘッグルントの侵攻軍が撤退したぞ!」


 その知らせに、私はレベッカと抱き合って喜んだ。

 そのまま私達は父にも抱きついた。

「すべてはあの方のおかげだ……」

 父の一言に私とレベッカは涙を浮かべながら、何度も頷いた。

 あとはあの子達の生還を祈るだけだ……。



 そして五日後の午後、私は王宮前に続く目抜き通りで増援軍の帰還を待った。

 やがて遠くから歓声が聞こえ始めた。次第にその音の波は近くによって来る。

 私の心臓は張り裂けそうに早く強く脈打っていた。

『どうかあの子達が無事に戻って来ますように……』私は神に祈った。

 先頭に騎乗した騎士が見えて来た。五騎しか帰ってこなかった。

 馬上の騎士達の表情は硬い。


 次に魔術士団を乗せた馬車の隊列が通り過ぎていく。

 馬車の幌で、魔術士はよく見えない。

 しかし送り出した時は新品で、魔力に満ち溢れていたカーキ色のローブは、土にまみれ、ボロボロに破れていた。 

 わたしはその壮絶さに息をのんだ。 

 だけど魔力の淡い輝きは完全には失われていなかった。


 ――ああ、人混みで良く見えない。わたしは王宮前の広場に急いだ。


 中央に噴水がある円形の池がシンボルの王宮前広場では、王宮入場に際して隊列を組むため一時休憩となった兵士たちと、生還を喜ぶ市民でごった返していた。

 わたしは人混みをかき分け、あの子達を探した。 

すると……。

「せんせい!」

 元気な聞き覚えのある声に気がついた。

 そこには、送り出した六人全員の姿があった。

 それを確認した私は身体中全ての力が抜け、その場にへたり込んでしまった。

 自分でも驚くくらい涙が溢れて来た。


 みんなが駆け寄ってきてくれた。足を引きずっている教え子もいる。

「先生! 俺たちは先生の教えをしっかり守って、無事帰ってくることが出来ました!」

「こうして生きて帰ってくることが出来たのは、先生のおかげです」

 私はどうにか立ち上がった。唯一女の子で出征した、シンシアちゃんが泣きながら抱き着いて来た。

「ああ、あなたの可愛い顔が台無しだわ」

 埃で汚れた顔が涙によって、いっそうひどくなってしまった。

 しばし二人で泣きながら抱き合った……。

 続いて私は男の子たちも順番に抱きしめた。

 彼らは少し照れつつも、わたしを強く抱きしめ返してくれた。

 みんな汗の匂いと土の匂いがした。

 ローブもボロボロだった……。


「すべて先生のおっしゃった通りになりました」

「最初僕たちは蔑まれていたんです。臆病モノだと。でも僕たちは先生の教えを頑なに守り続けました。やがて僕たちがやっている事が理解され始めました」

「おまえたちのおかげで命拾いしたと、凄くお礼を言われたんですよ!」

「しばらくすると、守備隊長様がみんなに檄を飛ばしたんです。『こいつらだけは死んでも守れ、そうしないと次に死ぬのはおまえらだぞ!』って」


 私は泣きながら、『ウン、ウン』と頷く事しかできなかった。

「先生がくれたこのローブが俺たちを守ってくれました。先生の教えてくれた魔術が砦のみんなの命を守ってくれました!」

 それを聞いた私は、ついに泣き崩れてしてしまった。


「先生、ノア・アルヴェーンさんって方、ご存じですか?」

「……どうして、その名を⁈」

「守備隊長様に頼まれたのです。ノア・アルヴェーン殿に『世話になった』と礼を言ってくれと」

「その方は、……私のお師匠様よ……」

「本当ですか! 良かった。先生、伝言をお願い出来ますか」

「わかったわ。しっかりと伝えておきます」


「さあみんな、お父様やお母様のところへ行っておあげなさい。心配しているわよ。私が独占するのは申し訳ないわ」

 私はなんとかそう告げて、教え子たちを送り出した……。


 極度の緊張から解き放たれた私は、しばらく思考も身体も停止していた。


 頭より先に、足が動き始めたのかもしれない。

 私の足は学院に向かっていた。

 学院にいるはずの、あの方の元へ。



 あの方はご自分の講師室におられた。

「ノア様……あの子達が全員無事に帰って来ました!」

「そうですか……よかった、本当によかった」

 ノア様はすぐに席を立ち、私を迎えて下さった。

 私はノア様の前で、へたり込んでしまった。

「すべてあなたのおかげです。あなたの御心が痛いほどわかりました。今より私はあなたの事を師匠と仰ぎます。どうか私を、いちから鍛え直してください」


「さあ、立って、アリス先生」

 ノア様は私の腕を優しく引き上げて下さった。

「あなたはすでに素晴らしい教師になりました。これからもぼくと一緒に、この国の魔術を立て直して行きましょう」

 その言葉を聞いて、私はノア様にしがみついて泣いてしまった。

 いったい今日はどれだけ涙を流せばよいのだろう。

 ノア様は優しく私の髪を撫でて下さった。


「ノア様……」

「なんでしょう」

「あの子たちが砦の守備隊長より伝言を頼まれたそうです。『世話になった』そう礼を言ってくれと」


「そうですか……」

 ノア様は遠くを眺めるような視線で、とても穏やかな表情をされていた。



最後までお読みくださり、ありがとうございます m(_ _"m)


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