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導きの賢者と七人の乙女  作者: 古城貴文
三章 王立学院編

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第35話 スピルカ伯爵家、闇の歴史

 


 賢者の後継者に呼び出された翌日も、アリスの怒りは収らなかった。 

 もっとも腹立たしいのは、その怒りの対象がよく解らないのだ。

 良家の明るく賢いお嬢様として重ねて来た日々に、昨日のよう体験は皆無だった。

 アリスは自室のモノに当たり散らした。



 アリスは掃除に来たメイドに、妹のレベッカを呼んでくる様にと不機嫌を露わに命じた。


「姉貴~、何の用?」

「お父様のところへ行くわよ。ついて来てちょうだい」

 アリスは厚手のガウンを羽織ると、レベッカを伴って父の書斎を訪ねた。

 アリスとレベッカの父親とは、レ―ヴァン王家直属魔術師団の頂点に立つ団長である。


 アリスは豪華なソファーに乱暴に座ると、昨日の出来事を覚えている限り詳しく父親に話した。

 アリスは父が多少なりとも怒ってくれると思っていたが、その反応は求めていたものではなかった。


「そうか……」と一言だけで、大きくため息をついて腕を組んだ。

「お父様は司書長が魔術士なんて教えて下さらなかった」

「すまんすまん、私もあのご婦人が苦手でね。若い頃はよく叱られたものだ。『あなたは魔術を教えるのが下手ね』とね」

 スピルカ卿は自身の机から移動し、アリスの対面に座りながら苦笑いをした。


「あの気難しい司書長があの少年を称えたわ。『このお方』と呼んで」


「お父様、あの少年はいったい何者なの。『賢者様がお連れした』と言う事はわかるわ。彼は、わたしには到底理解する事が出来ないレベルの魔術の知識を持っていた。ほんの少しの時間で司書長が魔術士だという事を見破り、司書長が見せた綺麗な魔法を簡単に再現して見せた。わたしには到底出来なかった……。そして言ったわ。あなたには、ぼくに協力する以外に道はない、それが理解できなければ、力ずくで排除すると。」

 アリスは堰を切ったようにまくしたてた。


「そして司書長も言ったわ。このお方を本気で怒らせると、スピルカ家は消滅するって。ふざけた事にこの二冊の入門書をよく読みなさい……って。全く馬鹿にしているわよ!」

 アリスは持って来た二冊の魔術入門書をテーブルの上に、すこし乱暴に置いた。

 スピルカ卿は二冊を順番に手に取りパラパラと捲り、やはり筆者を確認した。

 そのうちの一冊はスピルカ家先祖の執筆によるものであった。


「その少年はこの二冊を読んだのかね?」

「いえ、読まなかったわ。著者を確認しただけみたい」

「アリス、その少年は読まなくてもこの二冊の内容の違いが解ったのだよ。どうせこの二冊は司書長が選んで来たのだろう」

「その通りよ、お父様」


「どうやらその少年、いや、そのお方と司書長はすべてお見通しらしい」

 スピルカ卿は大きく息を吐いて目を閉じた。

「そのお方はおまえに協力しろとおっしゃったのだな」

「そうよ。なによ、お父様まで『そのお方』って」

 アリスはさらに不機嫌になった。


「……神は、まだスピルカ家をお見捨てになってはいないらしい……」

「その言葉、司書長も同じこと言った……」

 アリスは不思議に思って父を見た。



「アリス、レベッカ。今が話すべき時なのだろう。ちょっと昔話をしようか……。それは今のレ―ヴァン王朝が出来た頃の話だ」

 スピルカ卿はソファーに深く身を預け、ゆっくりと語り始める。


「その頃、この国土には小国がひしめき合い、戦争に明け暮れていたそうだ。それを圧倒的魔術力で統一したのが、今のレ―ヴァン王朝だ。その強大な力はひとりの賢者によってもたらされたという」


「そして、その賢者の弟子となって戦場で名を上げたのが、わが家のご先祖さまだ。どうやら赤髪の女性だったらしい」


「やがて国土統一はなされ、この地に平和が訪れた。ご先祖は魔術士の頂点まであと少しだったという。しかし戦争は終わり、武勲を重ねるチャンスは失われた……」


「国土が平和になると、秩序が形成され始め、貴族社会が出来上がっていった。そこでご先祖は強硬手段に出た。魔術界の有力者たちに陰謀を巡らせ、ことごとく排除していったのだ。同門、他流派問わず、容赦なかったという」


「まあ創世期の王国で地位を得るという事は、そういう事だったのだろう。そうして魔術を独占した先祖は伯爵家の爵位を頂いた」


「その後何代目か、今となっては解らぬが、我が家の地位を盤石にする為に、忌まわしい方法を取り始めたのだ」

 アリスとレベッカは顔を見合わせて、そろって眉をひそめた。


「それは魔術の本質を隠し、意図的に劣化させた魔術を教え始めたのだ……」

 アリスはおぼろげにノアが言っていた事を理解し始めた。

 同時に目の前が遠く、暗くなっていく。未だかつてない経験だった。



「その人は、近いうちに王国は戦争に巻き込まれると言っていたわ。本当なの? お父様」

 アリスが弱々しい声で言った。

「そうか……そこまでお見通しか……」

 

「まさか戦争になったら……この国の魔術士団は他国に比べて弱いって事?」


「ああ、おそらく弱い……」

 スピルカ卿は力なく答えた。

「わたしは今まで、いい加減な魔術を、さも得意げに教えていたってこと?」

「われわれは弱い魔術士を作り出し、戦場へ送り、そして死なせるだろう。……これは大罪だな」


「ひとつの敗戦をきっかけにスピルカ家の闇の歴史は明るみに出るかもしれない。その時、我々は断罪される。しかし最も重要なのは、我々自身がその罪の重さに耐えられない事だ……」


「そして敗戦は連鎖する。魔術に限らず、この国の軍事は全てが古い。やがて王家は滅ぼされ、民は蹂躙され尽くすだろうな……。スピルカ家は先祖の業の深さ故、呪われているのだ……」


「いやーっ」と小さく悲鳴を上げ、アリスは気を失って椅子から床に倒れた。

「姉貴――!」

「どうした、アリス!」

 レベッカは姉の様子を確認したあと、使用人を呼びに行き、アリスを自室に連れていった。



  *  *    



「お医者様を呼びました。今は落ち着いて眠っています」

 レベッカが書斎に戻り、父に報告した。


「ありがとうレベッカ……。おまえは強いな」

「そんな事はないよ、お父様。ワタシはバカだから難しい事は解らないのかもしれない」

「いや、おまえは賢い子だ。なあレベッカ。そのお方と出会ったきっかけを話してくれないか」

 スピルカ卿も疲れ切った表情をしていた。しかしレベッカを見る目は、とても優しかった。


 レベッカは語った。

 ノアの世話役にエジェリーがなった事。 

 ノアに興味を持って付きまとった事。

 ノアの見た事もない魔力弾に魅了された事。

 ノアに弟子入りを頼んであっさり認められた事。 

 そして勉強会にアリスを連れてこいと言われた事……。


「なるほど……」スピルカ卿は大きく頷いた。

「おまえはどうして、その方に弟子入りしようと思ったのかね」

「ウーン、最初はエジェリーへの対抗心もあったけど、少しだけどそばにいて、『ワタシは絶対にこの人のそばにいなければいけない』と、なぜか思ったのよね。女のカンかな!」

 レベッカは少し首を傾げて、可愛らしく言ってみせた。

 スピルカ卿は末娘の口から出た、『女のカン』という言葉に苦笑いしながらも、レベッカに答えた。

「おまえの女のカンは実に素晴らしいよ。おまえは神の加護を受けているのかもしれない……。そしてそのお方はお優しいな。このスピルカ家に救いの手を差し伸べて下さったのだ」

 レベッカはうれしそうに父を見た。

「レベッカ。おまえはその賢者の後継者様の傍で学びなさい。私はそれがおまえの天命である気がするよ」


「エジェリーには負けたくないからね! ワタシなりに頑張ってみるわ!」





最後までお読みくださり、ありがとうございます m(_ _"m)


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