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導きの賢者と七人の乙女  作者: 古城貴文
一章 冒険者ギルド編
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第3話 Aランクパーティー『黄昏の梟』<後編>





 シャドーウルフ討伐を無事? に終えた『黄昏の梟』のメンバーは、冒険者ギルドに帰り着くなり早速奥の酒場に向かう。

 受付には軽く手を振り、帰還を知らせるだけであった。

 暗黙の了解である指定席の円卓、さらに自分のいつもの席にそれぞれが乱暴に身を預ける。

 特に注文したわけでもないが、マスターが最初の一杯を運んできた。

 メンバーはそれぞれ陶器のビアマグを手に取ると、静かに合わせ、本日の成果と無事を讃えあった。

 それはまるで『黄昏の梟』の儀式の様にも見える。

 四人は競争でもするかの様に、エールを喉に流し込んだ。

 空になったビアマグが次々とテーブルの上に、少し乱暴に置かれていく。



「どうだ、おまえら。ノアを正式メンバーに加えようと思うが、異論の有るヤツはいるか?」

 ドヤ顔のジルザークが、一息ついたメンバーに最終確認をする。

「異議なし!」と満場一致だった。

「よし、決まりだ! どうだノア、オレ達のパーティーでやってくれるか!」 

「ほんとにぼくなんかで、……よろしいのですか」

「歓迎するぞ、ノア」

「ノアちゃん、よろしくね!」

「頼りにしているわよ、ノアちゃん!」

 カイルとサーラ、そしてマリアが温かく迎え入れてくれた。


「みなさん、ほんとにありがとうございます……」

 ノアはセシルを抱いたまま立ち上がり、深く長くお辞儀をした。


「そうと決まれば、ちょっとギルド長のとこまで行って、話付けてくるわ」

 そう言うや否やジルザークは、ギルド長室のある二階へ足取りも軽く上がって行った。

「ほんとにジルってお人好しだよね」

 マリアは笑いながら送り出した。



 ジルザークはギルド長室の扉をノックすると、「フォルマ―の旦那、いるかい」と声をかけた。

「入れ」と中から迫力ある低音の返事があった。


「フォルマ―の旦那、最近下に妙な小僧が出入りしているのは知っているかい?」

「ああ、知っている」

「早速だがあの小僧、俺がもらい受けるぜ」

 

「どうするつもりだ」

「うちの正式メンバーにしたいんだが、問題あるかい?」

「……とくに……ないな」

「話が早くて助かるよ」

 机に向かい、書類に目を通していたフォルマ―ギルド長は顔を上げ、ジルダークを鋭い右目で見上げた。

 左目は黒いアイパッチで隠されている。


「そうか、やはりおまえが拾ったか」

「なんだよ、旦那も気にかけていたのかい」

「……」返事はない。


「それで、どうだった? 今日狩場に連れて行ったのだろう」

「ああ、全く不思議なヤツだったよ。赤ん坊を背負ったまま、とんでもねえジャンプをする。魔物の気配を感じる事が出来やがる。手のひらからマリアそっくりの魔力弾打ちやがった!」

「ほう……」

「それで手続きはどうすればいい?」

「ジル、おまえが後見人になれ。それでギルド員証を発行してやろう」

「六歳の正式冒険者なんて、前代未聞だな」

「冒険者に年齢は関係ない。実力が全てだ」


「ついでにもう一つお願いがあるんだが……。あいつら、森の洞窟をねぐらにしているらしいんだ。どこか空き部屋があったら、ここに置いてやってくれないかな」

「奥の突き当たりの物置部屋を片付けてある。そこを使わせろ」

「……なんだよ、準備がいいな。すべてお見通しって訳かい! フォルマ―の旦那、あんた顔に見合わず、いい人だな……」

「フン、おまえ程じゃねえよ……」

 厳つい男二人がニヤリと笑い合った。


「おい、メアリー」

 ギルド長は壁に正対している机で仕事をしつつ、聞き耳を立てていた秘書に声をかけた。

「下に行って例の小僧を連れてこい。ついでにギルド員証を作ってやってくれ」

「はーい、かしこまりました!」

 メアリーは嬉しそうに返事をし、ジルザークの背中をドンと平手で叩いて、足取り軽く下へ降りて行った。



 しばらくしてメアリーに連れられ、ノアがギルド長の前へ進み出た。

「名前は……?」

「ノア・アルヴェーンと申します」

「その子は……」

 ノアは気持ち良さそうに親指をくわえて寝ているセシルを抱いていた。

「セシルと言います」

「妹か……」

「そうです。血は繋がっていませんが」


「おまえを正式なギルド組合員と認める。ジルザークに礼を言うんだな」

「良かったな、ノア」

 ジルダークが顔に似合わない優しい眼差しを向けている。

「それからな、奥の突き当たりの部屋を使っていいってよ。このお人好しの怖い顔したおっさんに礼を言うんだな」


「それって、そこに住んでいい……って事ですか⁈」

「ああ、そうだよ」

 ジルダークがノアの髪を『クシャクシャ』と撫でた。


 ノアはすぐに礼を言う事が出来なかった。

 急速に力が抜け、その場にへたり込んでしまった。

 急に涙が溢れて来た。

 今は腕の中ですやすや眠るセシルを抱きしめて泣くのを必死で我慢した。


 しばらくして、ノアはやっとの事で気持ちを伝えた。

「冬が来るのにどうしようかと悩んでいました。きっとこの子は冬の森の寒さに耐えられない……。みなさんは……ぼくたちの命の恩人です……」

 六歳の少年が発するには重すぎる言葉だった。


「おいメアリー、さっさと小僧を部屋に連れていってやれ」

「はい、わかりました」

 涙をぬぐいながらメアリーが返事をした。



   *  *  *  * 



 メアリーがランプをかざして、暗い廊下を先導していく。

 暗く長い廊下の突き当たりに扉があった。

 

「さあ、ノアちゃん。ここを使って! 今毛布を持ってくるわね」

 メアリーは部屋のランプにも火を移し、再び暗い廊下へ戻って行った。

 

 すぐにメアリーは戻って来ると、ノアに優しく語りかけた。

「ノアちゃん、良かったわね。私はメアリー。ギルド長の秘書兼、下の受付事務所の室長をしているの。困った事があったら、なんでも言ってちょうだい!」


「メアリーさん、いろいろありがとうございます」

 ノアは感謝の気持ちを込めて、深々とお辞儀をした。

「いいのよ、今日は疲れたでしょ。ゆっくりお休みなさい」

 メアリーはノアの髪を優しくなでた。

「それじゃ、また明日。ランプの火には気を付けるのよ」

 そう言って、メアリーは静かに扉を閉めた。



 それからノアはセシルを抱いたまま、しばらくベッドに腰かけていた。

 今日一日の出来事が思い出されていく。


 ――ぼくはこのギルドの強くて優しい人達に助けられた……。


 しばらくしてノアはベッドの上に寝床を作り、セシルの上着を脱がせ、おむつを替えた。

 そのままセシルを寝かせ、ノアも服を脱いでから寝床に入ってみた。

 セシルを抱きしめると、とても暖かかった。


 ――ああ、今夜から魔物の心配をしないで眠れるんだ。

 ノアは急速に睡魔に襲われた。


 ノアは今一度起き上り、枕元に置かれているランプの火を『フッ』と吹き消した。




 時は聖歴1616年11月16日。

 冒険者ノア・アルヴェーン誕生の夜だった。







末尾までお読み頂き、ありがとうございます。

感想・ブックマーク・評価など頂けましたら、大変うれしく励みになります。

これからも、どうぞ本作をよろしくお願いいたします。 





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