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導きの賢者と七人の乙女  作者: 古城貴文
三章 王立学院編

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第30話 エジェリーのために



 サンクリッド王立学院に特待生として迎えられたノアは、次第に学院に慣れ始め、精力的に講義に参加し内容を精査していた。

 二十一世紀の知識を持つノアにとっては、この時代の講義が物足りないのは当然である。

 この時ノアが考えていたのは、『この学院の講義に、いかに自分の知識を反映させていくか』という問題だった。

 いきなり過剰な学問を投入しても上手く行くはずがない。

 その匙加減に苦慮していたのだ。

 モノづくりにしても同様である。

 便利な道具の知識はあっても、それを作り出すすべがない。

 電気もなければ動力もない。

 なにか便利な道具を作り出そうと思えば、まずその道具を作るための道具や工房づくりから始めなくてはいけない。

 ノアは体系的にその手段として、この学院を利用しようと考え始めていた。



 その頃、冬休みを間近に控えて、学院内はせわしさを増していた。

 学院の寮生達は皆、久しぶりに故郷へ帰る事を楽しみにしているのだろう。

 

 そんな日の午後、講義を終えエジェリーと寮に戻る途中、ノアは校舎回廊で未知の大艦隊と遭遇した。

 ファーストコンタクトであった。

 

 艦列の先頭は、大きなドリル砲を左右に二門構えた戦艦だ。

 華美な装飾が施されている。

 直後には護衛艦が三隻、その後ろに支援艦二隻、最後尾には駆逐艦が三隻と堂々とした艦列である。

 いっぽうノアの座上する調査船を先導するのは、エジェリー艦長が指揮する護衛艦だ。

 ノア艦隊は、この二隻のみである。

 先行するエジェリー艦は我艦隊の威光を示すべく進路も変えず、速度も落とさない。

 正面の大艦隊もまた、全く譲る気配がない。

 ――このままでは衝突してしまう! 

 ノアは恐怖した。

 先頭の未知の戦艦とエジェリー艦はギリギリで交差した。

 ヤ○トとアン○ロメダの交差シーンがノアの脳裏をよぎった。

 つづく艦列はエジェリー艦との衝突を避け、若干進路を左に取った。

 寸でのところ両艦隊の衝突は回避されたのだ。

 このまま両艦隊は距離をとって行く! と思われたその時、未知の艦隊は停止した……。


「バイエフェルトさん、今日のあなたは目がお悪いのかしら?」

 先頭を歩いていた華麗な貴族令嬢が、ゆっくりと振り返りながらエジェリーに声をかけた。

 豪奢なプラチナブロンドで完成された縦ロールはトレードマークの様でもある。


「シュレイダー様こそ、今日はお目覚めになっていないのかしら」

 エジェリーもゆっくり振り返りながら応戦する。

 両者の距離は三ヒロ程だろうか。お互い堂々と相対し、鋭い視線を交錯させた。

 しばらく火花を散らしていたドリル令嬢の視線は、ゆっくりとノアに移った。

 それに気づいた取り巻きの女生徒が、ドリル令嬢に寄り添い耳打ちした。

 どうやらノアの説明をしているらしい。

「まあ、かわいい……」と言いながら、彼女はくちびるをなめた。

 ノアは『ブルッ』と悪寒を感じてしまう。

「バイエフェルトさん、この愚行は高くつきますわよ……フフフフッ」

 そう言って何事も無かったように再び歩き始め、遠ざかって行った。

 イルムヒルデを先頭に三人の取り巻き女生徒が続き、その後ろに二人のメイド、最後尾に三人の男子生徒が従っていた。

 男子生徒は親衛隊なのだろうか? ノアとエジェリーを見る眼つきが険しかった。

 

 ノアはそんな様子を茫然と眺めていた。

 ――エジェリーさん。あなた今、確実にフラグ立てましたよ~! 

 ノアは心の中で叫んだ。


「あのエジェリーさん、今のご令嬢には初めてお会いしましたが……どなたなのですか?」

 心なしか速足になっているエジェリーに恐る恐る尋ねる。

「あの方はシュレイダー侯爵家のご令嬢です。イルムヒルデ・シュレイダー。最近見かけないと思ったら……おおかた進級のために裏補習でも受けに来たのでしょう」

 冷静に話しているが、エジェリーは明らかに機嫌が悪そうだ。

「この学院で、ノア様がいらっしゃるまで最も身分の高かったお方。『古城の女帝』と呼ばれています」

 ――悪役令嬢来た~! 

 ノアは心の中でまたしても叫んだ。

 ――これはきっと、ろくでもない事が起こるに違いない……。




「それではアイリ、後をお願いしますよ」

「はい、かしこまりました。エジェリー様」

 特別棟の自室に戻ると、今夜の当番はアイリだった。

「ノア様、本日はこれで失礼します」

 そんなやり取りの後、エジェリーはノアの自室の扉を静かに閉め、王都市街の屋敷へと帰って行った。


 エジェリーが去った後、ノアはすぐさま机の引き出しの中をガサゴソとあさり始める。

 見つけたのは、小さな木箱に入った赤い魔石が輝くネックレスだった。

 これは、もともとセシルの為に作った『迷子探索用』の予備品である。 

 ノアの探索魔術に反応しやすい効果を付与してあるのだ。

 ノアは木箱ごとローブのポケットに入れ、「すぐ戻ります!」とアイリに告げ、自室を飛び出しエジェリーを追いかけた。

 部屋の中で渡しても構わなかったが、アイリが見ていると『また面倒な事になる!』と正確な予見をしたノアであった。


 エジェリーには特別棟から真っすぐ階段を下り、湖畔道に出た辺りで追いついた。

 突然後ろから追って来たノアに驚いたようで、振り返ったエジェリーはちょっと小首をかしげる。

 ノアから見えるエジェリーの背景は、西の稜線に沈む寸前の夕陽が、空と雲と湖面をあかね色に染めあげている。

 そんな背景をバックに佇むエジェリーが、綺麗に見えない訳がない。

 なんともロマンチックな神タイムであった。


「エジェリーさん、渡したいモノがあるのですが……」

 ノアはポケットから取り出した小箱を開け、シルバーの細いチェーンを持ってネックレスをエジェリーの目の前に差し出した。

 小さな赤い魔結石が夕陽を受けて、さらに幻想的は輝きを魅せている。

「これ、お守りです。常に身に着けていて下さい」

 エジェリーは初めビックリした表情を見せたが、やがて目を細め、そして悩まし気な表情に移り変わった。


「……ツケテ……クダサイ」

 エジェリーは乙女チックにささやいた。

 彼女は下げた両手を前に組み、ゆっくりと近くのベンチに歩んでいく。

 ベンチに腰掛けると、両手で後ろ髪を持ち上げ、白いうなじをノアにさらした。


 ――こ、これは予期せぬ反則技を食らってしまった!

 ノアは十四歳間近の少女が魅せる美しい仕草に、ドギマギせざる得なかった。

 後ろから手を回し、チェーンを両手で誘導する。

 震える手が、エジェリーに触れてしまいそうだ。

 チェーンが冷たかったのだろう、肌に触れた瞬間、彼女はピクリと動いた。


「肌身離さず着けていて下さい。お願いします」

 エジェリーは髪を下ろすと、右手の指先で魔石を摘まんで眺めた。


「ありがとうございます……」

 そう言って立ち上がると「明日朝、またお迎えに上がります」と告げて校舎の方へ歩き出した。 

 二十歩ほど進むと、彼女は立ち止まり、ゆっくり振り返った。

 まだノアがいる事を確認すると軽くお辞儀をし、今度は両手を左右に振って小走りに去っていった。


「ダメだ……やられた。可愛過ぎる……」

 ノアは頭を左右に振りながら特別棟への階段を登っていった。





アン○ロメダかドメ○ーズⅢ世にしようか迷いましたが、解かりやすいのでアン○ロメダにしました。

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