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導きの賢者と七人の乙女  作者: 古城貴文
一章 冒険者ギルド編
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第11話 復讐の盗賊団討伐



 身代金目的で拉致された、シャレーク王国レグサス侯爵家の長男アルフェ。

 彼を奪還する依頼を受けたAランク冒険者パーティー『黄昏の梟』は、ノアが定めた救出ポイントに予定通り到着していた。


「それでは皆さん、準備はいいですか!」

 ノアがメンバーに最終確認を取って行く。

「カイルさん、ボルツ、すぐ脱出できるようにしておいて下さい。サーラさん、救出した人たちの治療、それから水や食べ物の提供をお願いします」

「了解!」

 三人から明快な返事が帰ってきた。

「おそらくそんなに時間はかかりません。すぐに帰ってきますよ!」

 ノアに緊張した様子はない。


「それではマリアさん、始めましょうか! ジルさん、クリス、後始末お願いします!」

「おお、任せとけ!」

 ジルザークが肩を回しながら返事をした。 


 ノアとマリアは軽い旅装に身を包んでいた。

 特にマリアは胸元を大きく空けて色気を強調している。

 これから襲撃をかける装いには見えない。


 盗賊のアジトは木柵で外周を囲い、砦のような構造になっている。

 ノアとマリアは正面突破、集落の入り口を固める二人の門番に近づいた。


「あの~すみません。道に迷ってしまいまして……」

 ノアはとぼけた様子で話しかけた。

「なんだ、おまえらは――」

 門番の視線はすぐにマリアに向けられた。

 その目つきはもちろん下品極まりない。

 ノアとマリアは愛想笑いを浮かべたまま、利き腕をそれぞれの目標に向けた。

 同時に圧縮空気弾を放つと、門番の二人は吹き飛ばされてあえなく気絶してしまった。


 続いてノアはマリアを導いて、集落で一番大きな建物へ向かった。

 そこが盗賊の本陣である。

 建物の前には昨日同様、警備が二人いた。

 ノアとマリアは視線に捉えられる前に、二人を難なく吹き飛ばした。


「マリアさん、恐らく中に休憩中の四人がいるはずです。二人ずつですよ」

「オッケー、ノアちゃん」

 ノアとマリアは堂々と玄関を開け中に入る。

 直ぐに四人の姿が確認できた。

 二秒で終わった。


「さて、最後は裏の洞窟です。たぶん二人いるはずです。さっさと終わらせましょう!」


 洞窟を覗き込むと、二人の盗賊が座り込んで、賭け事をしていた。

 二人で呼吸を合わせて飛び込むと、次の瞬間には盗賊二人は吹き飛ばされて壁に激突し、無様に地面に転がっていた。


「あっけなかったですね。あとは、みんな無事だといいのですが……」

 すこし洞窟を進むとすぐに八人の女性が、足に鎖を繋がれ横たわっていた。


「あなた達を助けに来たわ」

 女性達はマリアの声に一斉に顔をあげた。

 そしてすぐに狂乱したように騒ぎ始めた。

「落ち着いて頂戴。必ず助けるから」


 そんな時、ジルザークとクリスが気絶した門番を引きずりながらあらわれた。

「おい、ノア、マリア終わったか?」

 女性達はその光景を見て、助かる事を実感したようだ。


「クリス、外に二人、あの建物の中に四人倒してある。急いでここに集めてくれるかい」

「合点承知、ノアの兄貴!」

「ジルさん、女性達の鎖、斧で叩ききれますか⁈」


「お任せあれ。ご婦人方、今開放します故、しばらくお待ちを」

 ジルザークが女性達に向かって胸に手をあて、大袈裟にふるまった。

 女性達からは歓声があがったが、マリアからはブーイングがおきた。



 ノアとマリアは、その場をジルザークに任せると、さらに奥に進む。

 暗がりの中、ひとりの青年が太い鎖で片足を繋がれていた。


 ノアとマリアは目もうつろな青年の前に膝づく。

「レグザス候アルフェ様とお見受けします。お迎えに上がりました」

 アルフェはすがる様な眼差しでマリアを見つめながら、ゆっくり頷いた。


「ノアちゃん、この鎖、太すぎて斧では切れそうにないわ」

「ぼくが魔力をぶつけて焼き切ります」

 ノアは左手の人差し指と中指を突き出して、鎖の近くにあてがった。

 そして指先から大量の魔力を収束させて放出し、太い鉄の鎖にぶつけていく。

 しばらくすると、鉄の鎖は高温になり赤くなり始めた。

 マリアが驚きの表情で見ている。

「ノアちゃん、なにをやっているの⁈」

「魔力と言うか、魔素粒子を高圧で鎖の鉄の分子にぶつけているんです」

「ノアちゃん、難しい事を言うわね。でも勉強になるわ!」

 そしてついに鉄の鎖は焼け切れた。


「レグザス候アルフェ様、お立ちになれますか」

「すまぬ。足が萎えてしまい、上手く立ち上がれん……」

「どうぞ、わたしの肩におつかまり下さい」

 マリアがしゃがんで優しく寄り添った。

「ありがとう……」


 ノア達はアルフェに合わせてゆっくりと出口に向かった。

 途中で女性達を助けているジルザークと合流した。

「ジルさん、こちらはどうですか」

「おお、ノアか。無事救出できたようだな。こっちも今終わったところだよ」


「ノアの兄貴……全員運びおわりました……」

 クリスは汗びっしょりで膝に手を付き、ゼイゼイ荒い息をしている。

「頑張ったね、クリス。助かったよ」

 ノアは珍しくクリスの労をねぎらった。クリスは右手の親指を立ててニヤリと笑った。


「それではジルさん、その盗賊達を縛り上げたら脱出しましょう」

「そうしよう。お嬢様方、手伝える方はいますかな⁈」

 捕らわれていた女性たちは、率先して盗賊を縛り上げる行為に手を貸した。

 みんなついでに殴ったり蹴ったりして恨みを晴らしている。


「ジルさん、もういいでしょう。行きましょうか。侯爵家の方をおぶってもらえるとたすかるのですが」

「ああ、任せろノア。それではみんな脱出する。近くに馬車を用意してあるから、そこまで慌てずについて来て欲しい」

「はい!」と女性達はしっかりと返事をした。


 こうしてノアを先頭に、秩序をもって脱出は完了した。


 

「ノアちゃん、ジル、クリス、お疲れ様! 後は任せて!」

 サーラが後を引き受け、女性達を衰弱状況でそれぞれ馬車に振り分けた。

 カイルとボルツがそれぞれ担当の馬車に女性達を乗せていく。

「みんな、水も食べ物も用意しているわ。欲しい人は言ってちょうだい」

 そして最後にサーラが付き添い、レグザス候アルフェを乗せた。

 そんな様子をノアは頼もし気に眺めていた。



「ジルさん、ぼくは戻って来た本隊の奴らの様子を確認してから戻ります。先にみんなを連れて帰ってもらえますか」

「……わかった。無理はするなよ、ノア」

 そう言いつつも、ジルザークは不安げな表情でノアを見つめた。

「よし、カイル、ボルツ馬車を出せ。明るいうちに帰り着こう」


 ノアは馬車を見送ると、ひとりアジトの方へ戻っていった。

 そして昨日登った高木から盗賊のアジトの監視を始めた。



 二時間ほど待つと盗賊団の一団が帰ってきた。

 案の定、ハチの巣をつついたような大騒ぎになった。

 次第に事態の中心地である洞窟に、盗賊達は集まっていった。


「さて、頃合いか。そろそろ行きますか……」

 ノアは独り言をいいながら、高木を降り、アジトの中へと入って行く。



 ノアは慌てふためく大勢の盗賊を前にふらりと現れた。

「こ、こいつ……さっき襲ってきたガキだ!」

 門番をしていてノアに吹き飛ばされた盗賊が叫んだ。

「バカか、こいつ! 今頃のこのこ一人で戻って来やがって!」

 ノアは血相を変えて激怒している盗賊たちを、まるで感情が欠如したような目で見渡した。

 表情とは裏腹にノアの髪の毛は揺れ逆立ち、抑えきれない魔力がノアの周囲に空気の渦を作り出す。


「小僧、生きて帰れると思うなよ!」

 二人がノアに短剣を構えて近づいて来る。

 ノアは左腕を上げ、手のひらを片方の盗賊に向けた。

 即座に小さく鋭い魔力弾を発射した。


 一人目。ぼくの魔力弾が額を貫くと、人間って簡単に死んじゃうんだ……。

 続けてもう片方の盗賊に向けて、魔力弾を発射した。

 二人の盗賊は額に小さな穴を開け、少しだけ血をまき散らすと、声も上げずにその場で崩れ落ちた。


 三人目。直接触れている訳ではないけど、嫌な感触が伝わって来る。


 六人目。盗賊達はあっけに取られているな。何が起きているのか理解できないようだ。


 十人目。状況が飲み込めてきたようだ。五人が一斉に切りかかってきた。しかしぼくまで届かない。

 ただ順番に倒れて行くだけだ。


 二十人目。やっと自分達との実力の差を悟ったようだな。洞窟の外へ逃げようとし始めたか。

 でも容赦はしないよ。

 ノアは無言で魔力弾を打ち続けた。


 三十人目。だいぶ減ったな。でも悪人だからといって、命を奪ってよいものだろうか……。


 四十人目。こいつらはなんの罪もないセシルの父と母の命を奪った。この世界には日本のような警察もないし、裁く法もない。残念ながら弱肉強食の粗末な世界だ。


 五十人目。あと二人か……。ぼくは転生してチカラをもらった。こんなクズ共を裁くチカラがぼくには有る。


 五十一人目。後は頭目だけか。今のぼくはこいつらを殺さなければ気が済まない。殺さなければきっと後悔するだろう。今はそれでいいじゃないか……。



 あれほど騒がしかった洞窟の中は静寂に包まれた。


 死体の山を築き上げたノアは、最後の一人である頭目の前に立った。

 頭目は最奥まで後退し、壁にもたれて腰を抜かしている。

 何やら涙を流し、失禁しながら命乞いをしているようだ。

 ノアは聞く気も無かったし、答える気もなかった。


 ノアは頭目に絶対零度の視線を浴びせた。

 必死の形相で歪む頭目と視線が合った。

 そのままゆっくりと左手を上げ、ノアは最後の一撃を放った……。



 養父おとうさん、養母おかあさん、セシル。仇は取ったよ……。



  *  *  *  * 



 翌日の午後、『黄昏の梟』とシャレーク王国の使者、アーデルベルト伯爵の姿がギルド長室にあった。


「見事な働きであった。さすがに天下に轟く、フォレスト―ゲート冒険者ギルドで最強のパーティーよ」

「お褒めに預かり光栄にございます」

 パーティーを代表してジルザークが答えた。

「アルフェ殿も衰弱しておられたが、じき回復するであろうとの事。レグザス侯爵家また王家もきっとお喜びになる事だろう。私も役目が果たせてホッとしておるよ。改めて礼を言う」

 アーデルベルト伯爵が軽く頭を下げた。


「しかも罪人ことごとく討取るとは、誠あっぱれ。容赦ないのう」

 それを聞いて、『黄昏の梟』のメンバーは瞬時にノアに視線を集めた。


「ノア、おまえ……やりやがったな……」

 ノアは返事をしなかった。


「約束の報酬は本日中に用意させよう。Sランクについては、王都に戻り次第進めるが故、しばらく待つと良い」

「委細お任せ致します」

 ギルド長フォルマ―が丁寧に頭を下げた。

「それでは私はこれで失礼するよ。ついでに助けた女性達の事など事後処理が多くてな。また何かあった時は、相談に乗ってもらうぞ」

 そういってアーデルベルト伯爵は、上機嫌のまま退室していった。


 その後、ギルド長室はしばらく沈黙に包まれた。



「ノア、すべておまえの計画通りだろうが……おまえにすべてを背負わせちまって、悪かったな……」

 ジルザークが重々しく、ノアに語りかけた。


「いいえ、これはすべてぼくの私怨しねんですから。悪人とは言え、やっぱり気持ちのいい行為ではありませんでした……」



  *  *  *  * 



 巨大盗賊団『闇の狩人』壊滅のウワサは、瞬く間に近隣諸国にまで知れ渡った。

 アジトの洞窟には、すべて魔術で頭を打ち抜かれた死体の山が築かれていたという。

 その惨劇は、一人の少年魔術士によって成されたと言うではないか。


『大樹海は少年の姿をした魔人が支配している。彼の少年には決して逆らうな!』

 ウワサは尾ひれを付けて拡散した。


 こうしてノア・アルヴェーンは、『大樹海の支配者』の異名を取る事となった。





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