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導きの賢者と七人の乙女  作者: 古城貴文
四章 王都躍動編
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第96話 聖女の帰還2~襲撃~



 旅の日程は順調に消化されていく。

 聖女を乗せた馬車隊が最初に目指すのは、レ―ヴァン王国西の国境出口、カールソン砦である。

 そこまでの道程みちのりには、北クリスタリア山脈の分水嶺を越える、冬の峠道を通過せねばならなかった。

 難儀が予想されたが、聖女の復路を想定した除雪作業は、すでに砦の兵士たちによって完了していたのだ。

 馬車隊はさほどの苦労も無く、カールソン砦へ入場する事がかなった。

 当然砦では、大歓迎を受ける。

 馬車隊は小休止を取って、ここに二日滞在した。



  *  *  *  *  *



 ここで今回の聖女護衛隊メンバーを紹介しておこう。


■タイラー・アールステッド (護衛隊隊長)

 レ―ヴァン王国、四侯爵家の一角、アールステッド家の四男。

 母親が正妻では無い事を本人は気にしている。

 身長百八十五センチ、端正な顔立ち、剣術も学院最強とモテ要素の全てを持つ男。

 公開模擬戦をきっかけにノアとの力量の差を悟り、ノアの軍門に下った。

 やがて『賢者の剣』として、その勇名を轟かす。



■レベッカ・スピルカ (護衛隊副隊長)

 王国魔術士界の頂点に立つ、スピルカ伯爵家の二女。

 ちょっと癖のある赤い髪がトレードマーク。

 一見ポジティブな性格にみえるが。「ねえねえ!」が口癖。

 炎系フレイムの魔術を得意とする。

 魔術の潜在能力は王国一か。



■エジェリー・バイエフェルト (親善大使)

 レ―ヴァン王国の名門、十二伯爵家の一つバイエフェルト家の長女。(兄はフォルノア王国に留学中)

 珍しいストレートの黒髪が美しい乙女のひとり。

 賢者の後継者の案内役選考会を勝ち抜き、ノアの傍に仕える事に。

 普段は凛とした振る舞いを見せるが、気に入らない事があるとホッペを膨らます癖がある。

 皮肉を言って容赦なく相手をえぐる。

 聖女テレージアが現れてから、自分を見失う。



■フレイヤ (白髪の魔女)

 元勇者パーティーの攻撃系魔術士。

 白いかぼちゃパンツのお姉さん。

 聖獣の呪いによって一時死を迎えたが、ノアによって蘇生された。

 この時の後遺症で、頭髪の色が抜け落ち白髪となる。

 蘇生の際、ノアと魔力回路がシンクロし、能力を大幅に向上させている。

 ノアに生涯の忠誠を誓う。



■シャルロット (聖魔術見習い)

 元勇者パーティーの治癒系魔術士。 

 王都サンクリッド下町育ちの娘。

 小柄だが魔力が強く、十歳の時に近所で薬屋を営む魔術士に弟子入りした。

 現在はブレーデン学院長代理の元で修行中。

 服装もロリ系を好むため更に幼く見える。

 聖女より聖魔術を学ぶために、今回の遠征に加わる。



■ラッセル (馬車隊隊長)

 元勇者パーティーのタンク。 

 レ―ヴァン王国右隣りのトゥラーラ諸国連邦出身。

 遊牧民であったが、冒険者を夢見て十四歳の時祖国を離れた。

 なんとかサンクリッドの冒険者ギルドに辿り着くも、当然右も左も分らず途方に暮れていたところを自 称勇者エルフィーンに拾われた。

 馬の扱いにけているため、今回の遠征で馬車隊隊長に任命された。



■アーロイス

 Aランクパーティー『月下の一角獣』のガーディアン。

 立派な体躯の持ち主でありながら、常識人でもある。

 今回はお目付け役として、聖女の坐乗する馬車の御者を務める。

 サーシャとは近々結婚の予定。



■サーシャ

 Aランクパーティー『月下の一角獣』の攻撃系魔術士。

 騎馬による護衛を任とする。

 次章では大活躍を見せ、大きな岐路が待ち受けている。


 

■ステラ

 Aランクパーティー『月下の一角獣』の支援系魔術士。

 数々のノアからの仕事をこなしているうちに、洗練された美女に変貌してきた。

 リーダーであるウォルターの手綱を握っている。



■ルッツ

 Aランクパーティー『月下の一角獣』の斥候スカウト

 ノアと出会って以後、ジョブを先導者パスファインダーに改める。

 小柄で俊敏性が高く、その堅実な仕事はノアも信頼をおく。

 


  *  *  *  *  *



 出発から九日目の午後、聖女の馬車隊はラデリア帝国との国境に程近い、ヘッグルント公国の森で襲撃を受ける事になる。


「タイラー様、よからぬ者達が近づく気配がします」

 フレイヤがタイラーの馬に、自らまたがる馬を並べてきた。

「やはり来たか……」

 タイラーは並走する聖女の馬車を覗き込み、レベッカの様子を確認する。

 レベッカも危機を察知したようで、すぐさま側面ガラスを跳ね上げた。 

「タイラー、来たわよ!」

「レベッカちゃん、時間が無い。オレの馬の後ろに乗ってくれ!」

「わかったわ!」

 馬車の扉を開けたレベッカは、馬車に寄せたタイラーの馬の後ろに、タイミングを合わせ飛び乗った。

 そして異変を察知した、サーシャとステラの馬も寄って来る。


「レベッカちゃん、敵の数は解るか?」

「この先森を抜けた辺りに五十、後方から追いかけてくるのが五十といったところね」

「完全に待ち伏せだな。しかも数も多いぞ……。当然、馬車を止めて挟み撃ちを狙ってくるだろう」


「ルッツはどこだ?」

「先頭の馬車にいるはずです」

 タイラーの問いにサーシャが答えた。

「よし、先頭まで上がって、それから陣形を組むぞ!」

 四騎は馬車に対し、相対的にスピードを上げていく。


「ルッツ! 緊急事態だ、すぐにフレイヤの馬の前に乗ってくれ!」

 馬車の中で片手をあげて了解を示したルッツは、身軽に馬へ飛び移った。

「タイラーの旦那、やっぱり来やがったか!」

 二度大きく頷いて答えるタイラー。

「ラッセル! まもなく敵と遭遇する。絶対馬車を止めるな、中央を突破するぞ!」

 先頭の馬車はラッセルが御者ぎょしゃを務めていた。

「わかりました――!」

 タイラーの大声にラッセルも大声で答えた。

「サーシャは先頭に出て前の敵を打ちまくれ! ステラは馬車の正面に防御結界を! まずは飛んでくる矢に対処してくれ」

「二人共そのまま先頭を死守! 一気に駆け抜けろ、いいな!」

「「了解しました!」」


「ルッツとフレイヤ組は右翼を頼む。オレとレベッカ組がこのまま左翼でいくぞ。進路をこじ開けたら、後方に下がって追撃の敵を打ち減らす!」 


「幸いこっちには一流の攻撃魔術士が三人もいる。勝算は十分にある。だが敵の数が多い。手加減する余裕は無いぞ。一撃で命を刈り取れ!」


「タイラーの旦那、あんた人をヤッた事はあるのかい⁈」

 

「そんなモンある訳ないだろうが! こう見えてオレ様は、由緒正しき侯爵家のボンボンだぞ!」


「おうおう、それは頼もしい事で!」

 ニヤリと笑ったルッツは、フレイヤを乗せた馬を右側面に移動させていった。


 そしてタイラーは少し馬のスピードを落として、聖女が乗る馬車横まで後退する。

 御者はアーロイスが務めている。

 彼はすべてを悟った様で、タイラーとアイコンタクトを取った。


「ローゼマリー様、テレージア様。少々騒がしくなりますのはご容赦を。エジェリーちゃんはそのまま聖女様の直接護衛、頼んだぞ!」


「わかったわ! タイラーさん、レベッカ、気をつけてね!」


 右手を『ピッ』と軽く振ったタイラーは、再び先頭へと馬を進めた。

 何をやっても絵になる男である。


「タイラー、おそらく次の左カーブを曲がった先に奴らはいるわ!」

 レベッカが後ろから叫んだ。

「たぶん敵はこちらが気付いているのを知らない。慌てて馬車を止めると思っているだろう。そこに活路を見出す。レベッカ、サーシャ、フレイヤ! 打って打って、打ちまくれ!」


「「「了解!」」」


 まもなく森を抜ける。

 直線的に視界が開けると、街道はやはり馬車を横向きに封鎖されていた。

 その周りの五十人程の盗賊が目視できる。


「よし今だ! 攻撃開始!」

 タイラーは愛剣『レーヴァノヴァ』を振りかざし、号令は発した。

 前方で待ち構える盗賊団は、予想外の展開にハチの巣を突いた様な混乱に陥っている。

 三人の魔弾の射手から発せられる攻撃に、盗賊達は次々に悲鳴をあげて倒れ込んでいった。


「レベッカちゃん、あの邪魔な馬車を吹き飛ばせるか⁈」

「もちろん! 特大をおみまいしてあげる!」

 

「タイラー、かなり反動が来るわよ!」

「わかった、対処する」

 レベッカは左腕をしっかりとタイラーの腹に廻し身体を固定する。

 右腕で握られた白銀のワンドは、前方に狙いを定めた。


「いっくわよ~~、フレアバースト――!」

 レベッカ最大の攻撃魔術が馬車を木っ端微塵に粉砕した。

「ヒュ~~、やるね~、レベッカちゃん!」

 爆破に益々慌てふためき、這いつくばる盗賊団。

 猛烈な土煙と炎の中、速度を上げた七台の馬車列は、中央突破に成功した。


 タイラー組とルッツ組の馬は、そのまま左右側面を攻撃しながら後方へ下がる。

 かなりの数の盗賊を仕留めたようである。

 そして最後尾まで下がり合流した。


「フ~ッ、第一関門突破だな。みんな、よくやった!」

「わたし、ずいぶん殺しちゃったみたい……」

 レベッカはタイラーの背中に頭をつけた。

「それが今のオレ達の仕事だ……。余計な事は考えるな」


「わかっているわよ、そのくらい……」

 レベッカはタイラーの背中に拳骨げんこつを当てた。


「すぐに後続が追い付いてくるぞ。レベッカちゃんとフレイヤは最後尾の馬車に乗り込んで狙撃してくれ」

「了解よ!」

「わかりました!」

「オレとルッツは撃ちもらして上がってくる奴らを叩き切るぞ」

「まかせろ、旦那!」



 四人が配置につき、呼吸を整え終わった頃、やはり追撃の騎馬隊が見え始めた。

 かなりの数の騎馬が怒り心頭の様子で追いかけてくる。

 早速数本の矢が飛んでくるが、盗賊ごときが騎乗から放った矢が命中するはずもない。


 弓矢対魔弾では、後者の方が圧倒的に命中率は高いのだ。

 レベッカとフレイヤが狙いを定めた魔力圧縮弾は、次々に盗賊を馬から落としていった。

 すでに半数ほどは仕留めたようである。


「これだけ打ち減らしても、まだ追ってくるのか? やはり単なる盗賊じゃないな」


 馬車隊と追手の距離がかなり縮まってきた。

 

「ルッツ、行くぞ!」

「まかせろ、旦那!」


 ルッツはトリッキーに馬を操り、身軽に盗賊の馬の後ろに飛び乗ると、タガーで首を掻き切っていく。

 ――オオッ! やるなルッツ!


 タイラーも少し減速して盗賊の馬に接近する。

 盗賊は奇声を発しながらタイラーに向かって剣を振り回し始めた。

 ――な、なんだこいつは! 目つきがおかしいぞ。薬でもやっているのか⁈

 ――まともに打ち合うのは危険だ。レーヴァノヴァよ、剣ごと叩き切れ!

 タイラーの気合の乗った一振りは、易々と盗賊の剣を切り折り、そのまま胴体に届いた。

 血しぶきをあげながら落馬する盗賊。


 ――さすが主から頂戴したレーヴァノヴァよ。切れ味が尋常ではない。

 ――しかし、これが人を切った感触か……。

 ――気持ちがいいモノではないな……。


 ルッツは次々に馬を乗り換え、盗賊を仕留めていく。

 タイラーも馬を寄せては盗賊を切り捨てた。


 四人の奮戦で、盗賊が残り十騎を切った頃……。


「クソッ! 三騎廻り込まれたか!」

 街道のカーブを利用して、荒れ地を直線的にショートカットした三騎が、聖女の馬車に肉薄する。

 そして二人の盗賊が馬を捨て、聖女の馬車に張り付いた。


「頼むぞ、アーロイス、エジェリー!」






末尾までお読み頂き、ありがとうございます。

感想・ブックマーク・評価など頂けましたら、大変うれしく励みになります。

これからも、どうぞ本作をよろしくお願いいたします。 





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