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導きの賢者と七人の乙女  作者: 古城貴文
四章 王都躍動編
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第91話 聖女の休日3~ああっ聖女さまっ!~



 それから十分程要しただろうか、テレージアのお着替えは終わった様だ。


「どうかしら!」

 ついに司書室から王立学院の制服をまとったテレージアが姿を現した。


「ウオオォォォォ~~ッ!」


 天井の高い図書館内に男子生徒の唸り声が渦巻いた。

「キャ~~ッ! 聖女様が私達と同じ制服を召されているわ!」

「なにか、わたくし達と着こなしが違いますわ⁉」

「でも、なんとお似合いなのでしょう!」

 ジャケットは腕まくりをし、ブラウスのボタンを多めに開けて、ちょっとルーズな着こなしを見せるテレージア。

 ――さすがだよ、元JKの鈴華さん。でも聖女がそんな恰好していいのだろうか……。

 テレージアは生徒達の評判に、上機嫌で近くの階段を上っていく。

 中二階の踊り場にたどり着くと、そこでクルリと時計回りに一回転して見せた。

 スカートがふわりとその円周を広げる。


 ――ああ鈴華さん。そんな事したらみんなにパンツ見えちゃうよ! 少し見えちゃったかも。


 満面の微笑みで答えるテレージアは、この時聖女というよりは、紛れもないアイドルだった。

 そして眼下に群がる生徒に向かって『ビシッ!』とギャルピースを決める。

「ど~お、わたし、可愛い!」(日本語)

「かわいい?」

 生徒たちが不可解な単語を不思議そうに口ずさむ。

「そう! か・わ・い・い!」

 徐々に生徒達の中から『かわいい』が聞こえ始めた。

 やがて聖女に向かって『かわいい!』の大コールが沸き起こった。


 ――おいおい、鈴華さんや。純真無垢なこの異世界に、日本の独創的文化を広めるは如何なものでありましょうか……。

 ――まあ、ぼくが言うのもなんだけどさ……。


 余談ではあるが、この後、王都サンクリッドで『かわいい』と『ギャルピース』が流行したのは、この時が起因した事は言うまでもない。


 しばらくのオンステージに満足したテレージアはノアの元に戻ってくる。

「ああ、楽しかった! わたし小さい頃、アイドルに憧れていたのよね! それにこの制服を着ていると暖かいのね」

「ああ、生活範囲でのヒート・コントロールの魔術を付与してあるからね。女性に冷えは大敵だろう」

「さすが隼人さん、解ってる~!」


「ノア様、わたくしもその衣装を着てみたいですわ」

 その一言に驚いたノアは、思わずローゼマリーを二度見してしまった。


 ――み、見たい! でも、それは絶対アウトなヤツや~!

 ノアは「コホン!」と咳払いをひとつ。

「ローゼマリーさん……」

「はい、ノア様」

「誠に、非常に残念ですが、この制服は大人の美しい女性が召されると、異なった領域に足を踏み入れてしまうのです。もしこの制服を召されたローゼマリーさんを、ここにいる男子学生が目撃したと仮定しましょう。彼らの脳裏にはその姿は強烈に焼き付き、一生のトラウマとなり、今夜から眠る事が出来なくなるでしょう……。これはおそろしい呪いだ……」

 

 ローゼマリーはノアの言い訳を、瞳を上に向け、静かに聞いていた。

「そうなのですか……それはますます残念ですわ」

 そう言って彼女はゆっくりと近くの男子生徒達を見渡した。

「フゥ~~、なんだか身体の芯が……熱くなってきましたわ……」

 ローゼマリー頬に手を添え、その瞳はなまめかしく潤んでいた。

 ――コラコラ、聖女の貴方が何を想像しているんですか!

 ――今夜ぼくが、あなたをおかずにしちゃいますよ!



「さて、次はいよいよ精霊スピリット聖騎士パラディン様の部屋を見せて頂きましょうか!」

 それは当然とばかりキッパリと物申すテレージア。

「やっぱり……見るの?」

「当たり前でしょ!」

 もはやノアに反論の余地は残されていなかった。

 

「それでは学院長代理、次は学生寮に案内をお願いします」

 しかたなさそうにブレーデンに声をかける。

「かしこまりました。ノア様」


 学院長代理が先導する一行は、一度学舎に戻ってから、裏手の出入り口を抜ける。

 そこで学院長代理は後方の学生達に声をかけた。

「ここからは学生の皆さんはご遠慮下さいね。プライベートを侵害する事はマナーに反しますよ」

「エ~~~~ッ!」

 それは残念そうな生徒達の声が広がった。


 

 古城の学舎を少し離れると、聖女一行の眼下には湖の絶景が広がった。

 その美しさに誰もが息を飲む。

「なんて美しいのかしら!」

「ええ、セントレイシアには、この様な豊かな自然はありませんからね」


「この湖があってこそ、ここに離宮が建てられたといっても過言ではありませんのよ」

 学院長代理が自慢げに解説する。


「この湖の景色は季節ごとに全く違う色を見せてくれるんだよ。春は新緑、夏は深い緑、秋は燃えるようなオレンジ、そして冬はこの様に一面が白に塗り尽くされるんだ」


「いいな~! わたしもこんな素敵なところに住んでみたい!」

 テレージアは、それは羨ましそうにノアを見つめた。

「ぼくは一日の終わりにこの坂を下るんだよ。そして思うんだ。『あ~、腹減った! 今日の晩ご飯は何かな~!』って」


 一行は学院長代理に導かれ、坂を下り終えると湖畔道を進む。

 時折湖面から冷たい風が渡ってくる。


「ねえ、あそこの大きな建物が学生寮?」

「そうだよ」

 一行は湖畔道を外れ、学生寮への緩い階段を登っていく。

「あなたもあそこに住んでいるの?」

 ノア少し申し訳なさそうに首を振った。

「ぼくが住んでいるのは、ほら、あそこなんだ」

 ノアが左手で指示さししめしたのは、学生寮のさらに上に建つ、ウッドデッキを備えた上品な平屋だった。

「なんか……ちょっとズルくない!」

 テレージアが不満げにノアを睨む。

「それを言われると、ぼくも苦しい……」


 ノアの部屋は特別棟の五号室、長い廊下の最奥にあった。

「ここが隼人さんの部屋なのね……」

 そう言いながらノアの聖域に足を踏み入れたテレージアの視界に飛び込んできたものは!

「おかえりなさいませ!」

 珍しくメイド服姿のアイリとリーフェが、二人並んで礼儀正しく聖女を迎える姿だった。


「まだいたのね!」(日本語)

 テレージアは瞬時に『キリッ』とノアを睨む。

 ノアは眉を上げて答えた。

「なるほど、デカパイちゃんに妹キャラですか……。さすがは隼人さん、ラインナップに抜かりはないですな」(日本語)

 ノアは頭を掻きながら、苦笑いを返すしかなかった。

 アイリとリーフェは学院の制服を着た聖女を、目を丸くして驚いている。

「二人とも、聖女様にご挨拶を」


「アイリと申します」

「リーフェと申します」

 目の前の会話を理解出来ない二人だからこそ、緊張をみせながらも、それは丁寧な挨拶を見せた。


「この二人はいつもここで、ぼくの世話をしてくれているんだよ」

「そうなんだ……」

 テレージアは少し唇を尖らせて、何か考えているようだ。


「いつも精霊スピリット聖騎士パラディン様のお世話をして頂き、ありがとう。これからもよろしくお願いしますね」

 テレージアは右手でアイリの右手を、左手でリーフェの右手を取った。

 そして目を閉じ、小さな声で聖唱する。

 アイリとリーフェは驚きの表情でお互いを見た。

 二人は聖女から流れ込んでくる神聖な魔力を感じ取った様だ。

 

「二人とも、聖女の加護を頂いた様だ。よかったね」

 ノアはアイリとリーフェに優しく声をかけた。  

「ありがとうございます、聖女さま!」

 二人は感激に瞳を潤ませながら、聖女に感謝を伝えた。



「粗末な部屋だな」

 そんな時、聖騎士達ホーリーナイツが断りもなく、ずけずけと乗り込んできたではないか。

 こんな中傷や態度に腹を立てるノアではないが、別の思いで段々といら立ちを覚えた。

 ――この人達はスキだらけだ。これで聖女を守れるのだろうか?


「ちょっとあんた達、随分と失礼ね!」

 ついに今まで大人しく付いてきたレベッカの、堪忍袋の緒が切れたようである。

 ノアはそんなレベッカを「まあまあ……」と抑える。


 ――しかたない。テレージアにも頼まれたし、少し揉んでやるか!

「そうだ、聖騎士ホーリーナイツの皆さん。いつもぼくの護衛をしてくれる四人に稽古をつけてくれないでしょうか」

 ノアの意外な申し出に、聖騎士達ホーリーナイツはお互いの顔を見合った。

 そしてリーダーはニヤリとほくそ笑む。


「いいだろう、光栄に思うがよい」


「それでは大食堂カフェテリアで昼食の後、魔術訓練棟で摸擬戦をお願いしましょうか」


「了解した」

 聖騎士達ホーリーナイツは、なぜか満足そうにノアの聖域を出て行った。




「まあ、ご覧の通りだよ。君達四人で彼らにチョットだけ、稽古をつけてやってくれないかな」


「クククッ! あるじのお望みとあらば、仕方ない」

 タイラーが不適にほほ笑む。

「わたし、魔力の加減が出来るか心配だわ」

 レベッカなら相手を燃やしかねない……。


「みんな……。ほどほどにね……。魔獣じゃ無いから殺しちゃだめだよ……。外交問題になるからね……」












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