97話 野盗と宗教
私は少しの焦りを感じながら兵に諜報をおこなわさせている。というのも最初のころに予想していたほどに周りの国が攻めてこないのである。南の宗教反乱がいつまでも小さくならずどんどん広がっているからである。そのため一応は無害である私たちはいったん無視して宗教反乱のほうに力を注ごうという魂胆であるらしい。しかしその甲斐なくどんどん攻め込まれていく。宗教反乱の兵の数もどんどんと増えていき今ではこの国全体で見てもこの規模の軍は松島家をしのぐのではないかというものになってきているらしい。しかしその兵の多くが素人でただひたすら前にくるしか戦うすべがないというのはこちらにはありがたい情報である。諜報の兵が言うにはどこの戦場でも正規軍による大虐殺がまずは起きる。次に体力のなくなった正規兵が敵に飲み込まれていく。これが定石らしい。つまり敵兵をいかに殺しまわれるかにかかっている。ここ数日は私と中野はこのことばかり考えている。考えれば考えるほど妙案は出てくる。しかし気が狂いそうになってくる。冗談ではなく人を大量に虐殺する方法を考えるとなればさすがに気が狂いそうになるものだ。しかしそれでも何とか対策は取れた。あとは兵に命じて準備を進めさせるだけである。私はそこまで決まると黒田を呼び、支配下の統治についての話を少し行い、休憩をとった。
僕は藤田にほかの幹部ととも集められた。場所は最初に僕が藤田と出会った館である。しばらくすると藤田がやってきて言った。
「今回、全員をここに集めたのはほかでもない。首都攻略に向けて本格的に動き出すからだ。」
全員に緊張が走る。ここにいる人間は俺を除いてこのこれから攻略を行おうとしている場所の出身である。故郷を取り戻したいという思いや、皇帝一家にとって聖地でもある首都は藤田たちにとって何としてでも取り戻したい土地であった。しかしこの土地の攻略戦に失敗すれば今まで無敗でやってきたうえに大事な戦であることは民でもわかることであるから士気の低下は目に見えてわかってしまう。逆にこの戦に勝てばこの国中に通じる道を一気に手に入れることができる。藤田が言った。
「首都の現状を報告してくれ。」
吉田が立ち上がり言った。
「首都では少し前から支配者がなく裏の勢力が乱立している状態が続いていました。もちろんその裏側には近隣の有力貴族たちがつき実際には代理戦争といっても過言ではない状態が続きました。しかし少し前に一つの独立勢力が支配者の地位に着きました。しかしこの支配者は外から流れてきた人間であり詳しい人物はわかりません。しかし兵力は1000人ほど。しかもその中でも古参の者は100人ほどといった具合です。」
そこまで聞くと全員は少し安堵した顔をした。
「これで方針は決まった。首都を力ずくで奪還する。全員奪還後に備えろ。それから佐藤と吉田はここに残れ。話がある。」
そういうとこの場は解散となり残されなかったものはこの場から離れた。藤田はいなくなるのを見届けるといった。
「今回の戦は政治問題化することは一切できない。さらに言えばこの戦では正規軍を一切使いたくない。」
吉田が聞いた。
「どういうことですか。」
「今後、正規軍は諜報に集中してほしいのだ。」
藤田の一言に吉田は少し驚く。しかし藤田の表情を見て何かを察したらしく、
「分かりました。」
といったきりであった。藤田が言った。
「佐藤は今後、吉田の代わりに軍事の仕事も正式に担ってほしい。おもに農民兵の集合と解散の役を担ってもらうことになる。」
「分かりました。」
これだけ言うと藤田は去っていった。