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俺の戦記  作者: かな河
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92話 山場(9)

 俺は内政に関わる人数を少し増やし国内の情勢を整え、さらに兵への収入の支払いと休養施設へ送るための手配まで済ませたところでついに小林家からの伝達がやってきた。伝達の手紙には敵軍の居場所と正確な情報を手に入れたためすぐに松本家のもとに集まってほしいとの内容であった。まだ領地に戻ってきてから4日ほどしかたっていない。しかし事態が事態なので仕方なく俺は馬を用意し単独で松本家のもとに向かった。松本家に着くとすぐに松本家の兵に連れられて会議室に連れていかれる。そこにはすでに何人かの領主たちがそろっていた。小林が俺に話しかけてきた。

 「大野殿、よくいらっしゃいました。今回の敵の情報です。」

 そういってまた大きな紙の束を渡してきた。俺は受けとる。

 「ありがとうございます。」

そういって近くにあった椅子に座り、読み始める。まず最初に乗っていることは前回の戦の戦果である。敵の死者は約千人。負傷者、逃亡者、行方不明者の数は合わせて二千人以上。こちらの損害のことも考えるとこれは大勝利といってもよいだろう。つまり敵の残りの数はだいたい一万というところか。次の項では敵軍の居場所について書いてある。敵は我々のもともと所有している領土と敵の支配下の国境線からかなり離れた場所で現在、待機中とのことだ。さらにそこからは敵の軍の将際について。ここについても飛ばし飛ばし言っていくと敵は大きく分けて三つの指揮系統に分かれている。統制派といっても所領に戻ればいくつもの国に分かれているわけであってそのため敵は一つに指揮系統をまとめ上げることができなかったのだろう。さらに敵の将のこれまでの俺たちとの戦績も書かれている。さらに進めると現在、逃亡中の兵の一団についてや負傷者の居場所、それから城の中にこもったままになっている敵の軍のようすについてなどが書かれている。俺はそのすべてにじっくりと読み、いくつかの質問を小林にする。どうやら領主が全員そろうのは今日の夜の遅くになってしまうとのことなので松本に聞き、滞在用の個室に行く。そして持ってきていた地図を開き小林かもらった情報に書いてあったことを書きこみ、しばらく考え事をした後、布団に入り目を閉じる。ほんとはその状態で考え事をもう少し続けるつもりであったが今までの戦の疲れが取れていなかったのかすぐに寝入ってしまった。

 朝、松本家の者が朝食を部屋に届けにくる音で目が覚める。急いで着替えるとすぐに飯を食べ、会議室に行く。しばらく待つと全員がそろう。野村が言った。

 「全員、資料に目を当してもらっているとは思うので今回はこの本体にあたる一万の軍をどうするかという問題について話し合おうと思う。」

 「この状態になった以上もう野戦の続行は難しいと思う。」

 いきなりこう言ったのは浜野である。浜野が続ける。

 「今までの戦はこちらと同じくらいの人数かそれ以下の敵を相手に戦うことができたために勝つことができていた。しかし今は敵が一つになってしまったからにはそのようなことはできない。なら籠城をして時間を稼ぎつつ勝機を見出すのがいいのではないか。」

 俺は少し慌てた。浜野が言った勝機とは何なのか。確かに正攻法で行けばここで籠城して勝機を見出すのだろうがしかしその勝機は一生来ないだろう。俺は言った。

 「一体、勝機とはどのようなものを想像している。このまま時間がたっても我々に勝機は訪れないだろう。それどころか敵の現在、城にこもっている連中が外に出てきて敵の兵力はまして行くだろう。それを考えれば今ここで敵を撃破するのが一番いいと思う。」

 「それでは大野殿は4000にも満たぬ兵で一万の敵を撃破することができると考えているのか。」

 浜野にそう言われて返す言葉を失う。さすがに俺もそのような方法は持ち合わせていない。俺が黙ってしまったのを見ると少し考えて小林が言った。

 「敵の内部でもめ事を起こせば一万の敵を撃破する必要もなくなりますがいかがでしょうか。」

他の六名が小林のほうを一斉に見る。野村が言った。

 「そんなことが小林殿にはできるのか。」

 「もちろん確証はないですがやろうと思えばできると思います。」

 「どうやってだ。」

 浜野が言った。小林ははぐらかすようにしてこういった。

 「蛇の道は蛇ということで深くは聞かないでくださいな。ただし条件として一つ戦後の領土配分についていいですか。」

 小林はそう言っていくつかの土地を指し示す。

 「ここらをいただけないでしょうか。」

 そこは俺の欲する土地とはかぶっていない。それどころか一つに関しては全く何もない荒野の土地である。全員がその提案を肯定する。それを見ると小林は言った。

 「それでは4日ほどお持ちください。交渉を成功させますので。」

 そういうと小林は去っていった。それと同時にこの会議は終わりを迎えた。

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