89話 山場(6)
俺は自陣に静かに戻ると兵たちと怪我の確認をする。死者がいないのはこの少人数なので見ればわかる。幸いにも大けがを負ったものは一人しかおらず、残りはそのまま隊務にすぐに復帰できる程度の怪我である。しかし体力を考えるとさすがにそのまま隊務に着かせるのは酷である。俺は兵達に次の日は俺の周りで護衛をしているふりをしながら休むように言った。もちろん行軍はしなくてはならないから休むといっても斥候などの隊務から外れることができるだけではあるがそれでもやるとやらぬではおおきな違いだ。大きな怪我を負ったものはしばらく俺の近くで他の兵士たちから隠れつつ次の戦いの後、負傷者として後方に下げることにした。
次の日の朝、何事もなかったかのようにまた進軍を始める。今度こそ敵の大軍に向けて動く。その日の正午過ぎのことである。兵が伝達をしてきた。
「大野殿、小林殿が面会を求めています。」
小林とは珍しい。別に俺は小林とは仲がいいわけでもないし、そもそもこの行軍に参加すらしていない。まあ、いい。少しあって見るのも面白いだろう。俺は言った。
「面会の時間は何時だといっている。」
「今すぐに会いたいとのことです。」
「今は行軍中だぞ。先鋒の将軍が隊から離れられるわけがないだろ。そう小林に伝えておいてくれ。」
「いえ、たいして重要な要件でもないので動きながらでかまわないとのことです。」
兵がそういったのを聞き少し不思議に思ったが俺はこう続けた。
「こちらには馬がないので自分の足で歩きながら話してもらうことになるといえ。」
「そのことも問題ないとすでに言っておられます。」
驚いた。こちらのいうことはすべてわかるのか。俺は言った。
「仕方ない。今すぐに会うといってくれ。」
「すぐにこちらに通します。」
ん?すでにもうここらにいるというのか。驚いていると一分ほどでこちらに小林が来る。向こうも徒歩である。慌てて俺は小林に向けていった。
「こちらにはどのような要件で来られたのでしょうか。」
小林がいった。
「昨日の真夜中のお散歩について聞きたいことがあってきました。」
これは驚いた。絶対にばれていないと思ったのになぜばれた。しかしまだ勘違いの可能性もあるのでしらを切る。
「そうですか。ばれてしまったのですか。最近、私自ら刀を振る機会がないので腕が鈍らないようにと稽古に出たまでですよ。」
「そうでしたか。しかしよほど元気のいい稽古あいてですな。兵士のうち一人が大けがを負ってしまうような相手とは。しかも大野殿も剣以外のものを使わなくてはならなくなるまで戦っておられたのだからなかなかの相手ですね。」
戦いの様子まで見られていたとは思わなかった。さすがにこれではごまかしようがない。
「そこまでいられていたとは思わなかった。他の方には黙っていてもらいたい。」
「何もほかの方にばらすつもりはない。ただし私はあなた方のことを常に見張っている。あなたもそれを知っていと思うが一応伝えておく。怪しい動きを見せたら例え、遠藤殿の主人とは言えその辺は容赦しませんぞ。」
おかしいな。何か聞いていないことがある気がする。
「遠藤に何か頼まれているのですか。」
小林は少し驚いた顔をしてこう答える。
「同盟締結時に私は遠藤殿に個人的に同盟全体を見張り、怪しい動きがあればあなたに伝えるように言われましたよ。」
「それでよい。ちゃんとわかっているならそれでよい。」
「カマかけましたか。」
「悪いな。しかし少し試したくてね。」
「そうですか。かまいませんよ。では私はこの辺で。」
そういうと小林は去っていく。最後の部分、俺はうまく小林をごまかせただろうか。しかしこれが一番最善手だと思う。小林に見張られていたことと、そしてそのことを伝えられる立場にあるという情報を手に入れ、俺はかなり驚きつつ、行軍を続けた。そしてその日の夜、敵の近くに着き敵にばれないように気を付けつつ戦闘準備が始められた。




