85話 山場(2)
俺は会議の結果に満足しながら自分の軍の到着を待つ。会議は結果的に松本の後押しと俺の今までの実績がものを言い、俺の考えた作戦を執り行うことになったのだ。しかしそのせいで今回の合同軍の総大将は野村が行うことになった。野村は会議で俺の案に反対し籠城戦を取ろうとする領主の代表的な立場をとっていたが、ここはとりあえず反対派の顔を立てることで同盟内での摩擦を避けようとする人事である。本当は俺が大将をやりたいところではあるが、ここは我慢するしかない。遠藤ならもっとうまく軍議を進めてくれるだろうが俺にはこれが限界である。
俺の軍が到着したのは軍議が終わってから3日ほどたってからである。率いてきたのは萩原である。
「ついに大きな戦を始めるつもりですか。」
萩原が言ったのに対して俺はこう返した。
「そうだ。もちろんその前に捕虜の送り届けを行うつもりだがな。」
それを聞いて萩原は少しためらいがちに言った。
「私に軍を率いることを許可してもらえないでしょうか。」
「それはできない。」
俺は即答した。それからこう続けた。
「まず第一にお前にはまだ実績がない。もちろん最初はだれも実績はないものだが俺はお前がどんな教育を受けてきたかもしれない状態でどのくらいの実力があるかもわからないやつに軍を預けることはできない。」
「私はあなたの師匠の下であなたよりも厳しい訓練を受けてきた自信があります。」
そういわれ俺は少し迷いが出る。もし俺とは別に軍を率いることができるものが現れればより細かい軍事作戦を取ることができるのではないか。そうすれば作戦の自由度が大きく広がる。しかしそれは同時に不確定要素と戦場で把握しなければならない情報が増えることも意味する。しばらく考えて結論を出す。
「しばらく待て。今回の戦では指揮官は一人で十分だ。それに軍を分割する余裕はまだない。この戦にけりを着けたらどうするか決める。」
「そうですか。わかりました。」
「そうがっかりするな。今は内政をしっかりやってもらわなければならない状態なんだ。この戦が終わり次第、内政の制度を整えてそっちのほうに余裕ができ次第、お前の能力を見てこっちに回す。」
「分かりました。」
感情の読めないやつである。この後はこの件を一切、持ち出さずに事務報告だけを済ませると帰っていった。
俺は一日の休みを兵たちに与えると、次の日から兵を総動員しほかの家の兵が集まるまでの間に捕虜の身体検査と整理を行う。敵軍が動き出す前に何がなんでも捕虜の移動を終えなければならないので空き時間を使いできることはすべてやっておく。もちろん同時並行で細かい打ち合わせを他家の者と済ませる。それから三日ほどがたつとすべての家の軍がそろう。そろうと同時に軍を動かし始める。全軍まとめて動かすのは反乱の恐れを高くするため三つの組に分けて運ぶ。それぞれの組は家ごとに組まされている。うちの軍は梅田家と組むことになった。他の組は一つは松本家、吉田家の組、もう一つは浜野家、野村家が組むことになった。組み分けはだいたい兵力が同じくらいになるように組まされている。小林家は伝達と情報収集のために外されている。俺は最初の大戦からの生き残りと先生の元部下の気が利くやつを集める。そしてそいつらに向けてこういった。
「反乱分子を二、三人見つけそいつらを殺せ。別にどのくらいの罪でもよい」
「分かりました。」
次の日の朝までに何人かが処刑された。そしてそのことがなんとなく全軍に噂となって広がった。そのおかげか捕虜たちはすっかりおとなしくなりこの行軍は比較的簡単なものになった。二回目の朝、一緒に行軍していた梅田家の梅田 春樹がやってきた。梅田が言った。
「なかなかに面白いことをやりましたな。」
俺はこう返す。
「しかし効果はてきめんですよ。」
「それはわかっておりますよ。なにせ途中から捕虜の態度が明らかに変わってきましたからね。」
「そうですか。」
「しかし思い切ったことを行いましたな。下手すれば悪いほうに暴発するかもしれないのに。」
「いやいやそれはないと思いますよ。せいぜい我々と捕虜の付き合いは三日ほど。そんな短い間なら暴れて殺されるよりも静かに嵐が去るのを見守るほうが安全と判断するものでしょう。」
「それもそうですね。さすが大野さまだ、判断が的確だ。」
その後、俺と梅田はひたすら軍事理論についての話し合いをする。どうやら梅田は傭兵をやっていた俺の師匠とは違い正統派のつまり正規軍のための軍事理論を学んでおり、俺は新しい理論を学べるという有意義な時間に移動時間をすることができた。もちろん捕虜の見張りや軍全体へ指示を出しながらという形ではあったが。
今回も金曜までにちゃんと間に合ってよかったです。次の投稿は来週の金曜です。それはそうと評価やブックマーク、いいねをつけていただき、ありがとうございます!本当ならもっと早く言うべきではあると思っていたのですがタイミングを逃し続けていました。今回新たに評価してくださる方がでてきたのでこの場を借りて言わさせていただきました。毎話ごとにいいねがつくことや、ブックマーク、評価がつくのを見るたびにものすごくうれしく、次の話を投稿する大きな原動力になります。本当にありがとうございます。投稿も不定期になりがちで誤字も多く、さらにそれを直すといったのにいつまでも直せないでいるような作者が書く作品でありますが(本当に申し訳ないです。)楽しんで読んでいただければ幸いです。最後になりますが今後も俺の戦記をよろしくお願いします。




