70話 仕上げ(6)
私は敵が後ろに下がっていくのを志願兵に追いかけさせる。こういった仕事には盗賊達には参加させない。盗賊たちに参加しろといってもすでに武功をあげている盗賊たちは死んでその褒賞をを受け取れなくなることを恐れてそこまで乗り気にならないだろう。そこらは元傭兵だけあって賢いはずだ。もちろん兵力が不足していて追撃を行うことができないという理由もあるが。そこの点、志願兵は十分な兵力もあるし傭兵と違って戦場での知恵というものがない。怒涛の勢いで攻めあがる。さすがにうちの兵でも戦の終盤にこういったような攻撃はできない。どうしたって戦の終盤は戦後のことを考えてしまうのだ。しかしこれは志願兵が勇敢なわけでもうちの兵が怯懦なわけでもない。ただ単に後のことを考えるだけの余裕があるかないかの違いである。そのまま敵を王宮の門のところまでずるずると押し込む。しかしさすがにそこで踏みとどまる。しかし中を王宮の中からはそれ以上敵が出てこない。どうやら王宮の反対側を攻めている中野の部隊に敵の意識が向いているのであろう。ならばここはすぐに突破しなければいけない。しかし城門を敵が閉めようとする。このまま閉じられてはたまらない。すぐに私の直属の部下に命じその動きを妨害する。それでも分が悪い。近くを見て伝令を行えそうな兵を探す。しかし近くにはいない。前線付近まで私は出ていき直属のものを探す。一人、見つけると後ろに下がらせる。そして命令を言う。
「部隊の出発地にいる黒田にトラ トラと伝えよ。」
「部隊の出発地にいるにいる黒田様にトラ トラと伝えます。」
「よい。行け。」
その者はすぐに伝令に向かう。日は沈みつつある。しかし日が昇るまでには後処理も含めすべて蹴りがつくだろう。そう考えると周りにいる狭い城門の下に行けず手持無沙汰になっている志願兵に命令を出す。
「灯りをつけろ。できるだけ盛大にな。」
その作業を兵が終えるといったん前線の兵に撤退を指示する。と同時に後ろにいる兵に攻撃をするように指示する。戦は兵がつかれると終わる。向こうも兵の入れ替えを何度かやっている。このままいけばじり貧で向こうが負ける。こちらのほうがたぶん兵力が多いからだ。しかしそんな時間の無駄のようなことはしない。少し待つと敵が後ろのほうから崩れていく。どうやら策がうまくはまったようだ。少し経つと向こうから中野の部隊がやってくる。私は同士討ちを避けるために志願兵を下げる。向こうも志願兵を下げ直属の部隊をあげる。少し待つと敵を全滅させる。私は命令を出す。
「全員、けが人の治療をせよ。中野はこちらに来い。」
全員、動き出す。中野はこちらに来る。私が言った。
「黒田はどうなった。」
「先に奥に行きました。」
「そうか。私たちも向かうとしよう。」
私たちは小走り奥に向かう。途中で走りながらしゃべる。
「どうして黒田だけ先に行かせた。」
「敵の数を考え、それから一番大事な敵である敵の大将首を討たせに行きました。」
「なるほどな。まあ、いい。」
何度か敵の死体を目にするようになる。中野のほうを見るとまだ自分で刀を抜いていない。どうやら将として自分で考えるようになったが私の前にではそうとはいかないのか。
「中野、刀は抜いておけ。」
「はい。」
しかし何もなく王宮の奥に着く。そこでは黒田とその部下の兵たちがいる。私は声をかける。
「黒田、状況は。」
黒田が答える。
「敵の将の首はとりました。周りにいる近衛兵もしっかり討ち取りました。」
「そうか。首をよこせ。」
確かに周りには大量の死体が転がている。これが近衛兵だろう。黒田が首をこちらに投げよこす。持っていた布に包む。黒田はかなり顔色が悪い。戦場なれしていないのだろう。私は命令を出す。
「兵たちは周りの残党狩りをしろ。黒田と中野はここに残れ。」




